246:拍子抜け
「それじゃあみんな、準備は出来たポね~!? いよいよ、イゲンザの神殿、内部調査に行くポよ~!!!」
「おぉお~!!!」
ノリリアの言葉に、雄叫びを上げる騎士団のみんな。
メンバーは、モーブとオーラスを除いたノリリア班六名と、モッモ様御一行を加えた計十名。
みんな食糧が入った荷物を背負い、手には杖と魔導書を持っていて、準備万端といった状態だ。
……例によって、筋肉馬鹿三兄弟の一人、岩人間のブリックは素手である。
俺はエルフの盾を左手に装備し、腰にはいつもの万呪の杖を携帯。
グレコは魔法弓を背負い、ギンロは二本の魔法剣を装備している。
カービィはと言うと……、とてもご機嫌そうな顔をしながら、それ必要なの? と聞きたくなるような、カラフルな傘をさしていた。
「どうして傘なのよ?」
場違いにも程があるカービィのその傘に、グレコが冷たい視線を向ける。
「グレコさん、ダンジョンにパラソルは必需品だぜぇ~? 上から何が降ってくるかわかったもんじゃないんだぜぇ~??」
何故か、一昔前に流行ったような、ワイルドな口調で物申すカービィ。
別に、傘をさしてても構わないけどさ……
万一の時の為に、杖や魔導書は、ちゃんとすぐ出せるようにしててよね。
「それじゃあキノタンちゃん、よろしく頼むポよ~」
ノリリアに促されて、小さなキノタンがトコトコと歩いて前に出る。
見たところ、やはりこの神殿には入口がない。
どうやって中に入るのだろうか?
キノタンが、開け方を知っているのだろうか??
何か……、封印を解く合言葉とか、そういうやつ!??
ちょっぴりワクワクしながら、キノタンの動向を見守る俺。
するとキノタンは、神殿の柱の一部に開いている、とてもとても小さな穴の中へ、ギュムギュムと体を押し込みながら入っていくではないか。
まさか!? そんな方法でっ!??
不審な目で事を見守っていると、何処からともなく、ザザザ~という、岩が擦れ合う音が聞こえてきて……
「ポポ!? 開くポよ!??」
ノリリアの言葉通り、神殿の外壁の一部が横向きにスライドして、そこにはポッカリと、真っ暗な入口が現れた。
うわぁ~、マジか……
モゴ族の使命その一:その小さな体を活かして、神殿の柱の隙間から中に入り、内側の鍵を開けよ! ってな感じですかね?
あまりにアナログな仕掛けに対し、この神殿、大した事無いんじゃないかと俺は思う。
すると、案の定、真っ暗な入口の隅からキノタンが姿を現して……
「皆さん、行きましょうノコ!」
元気いっぱいな様子で、金の剣を高々と掲げた。
ザッザッザッザッ
テクテクテクテク
トコトコトコトコ
ノシノシノシノシ
ピョンピョコピョンピョン♪
……なんでスキップしてんだよカービィこの野郎っ!?
暗い神殿内に足を踏み入れた俺たちは、ノリリアを先頭にして、狭い通路をひたすらに進む。
みんなが杖の先に光を灯してくれているので、周りの様子は見て取れるのだが……
全く何にもないな、ここ。
溜息がつきたくなるほどに、本当に何も無い道が、さっきからずっと続いているのだ。
ノリリアは神殿の見取り図を持っているし、神殿内を透視していたポピーが隣を歩いているので、道に迷う事はまず無いだろう。
しかし本当に……、恐ろしく何も無い。
神殿内のダンジョンっていうくらいだから、もっとこう、なんかいろいろ仕掛けがあったり、進む道を指し示すヒントがあったりして、謎を解きながら進んでいったりするのかなって、ちょっぴり楽しみにしていたのだが……
悲しい哉、これがリアルダンジョンである。
ただひたすらに、暗く狭い通路を歩く。
ある意味、恐ろしいダンジョンだなこりゃ……
加えて先程から、俺の横っ腹は、予想通りに痛む始末。
つまんないし、地味に痛いしで……
俺、ダンジョン嫌悪に陥りそうだよ。
「地図があるってのは楽なもんだな~♪ 迷わなくていいから、余裕ホイホイだぜぇ~?」
パラソル片手に、スキップしながらヘラヘラと笑うカービィ。
その、だぜぇ~? っていうやつ、いきなりマイブームになったみたいだけど……
もう古いよ、それ?
「確かに、これならなんとか今日中に、祭壇がある部屋へと辿り着けそうね」
グレコもなかなかにせっかちだなぁ……
せっかくのダンジョンなんだから、迷って、考えて、でもやっぱり迷って……、っていう風にしたくないの? え、したくないっ!? ほんとぉ~にぃっ!??
「……何よモッモ。何か言いたい事があるならハッキリ言いなさい」
無駄にグレコを見つめていたせいで、母ちゃん化したグレコに軽く叱責される。
「我はもう少しこう……、敵がいてくれれば良かったのになぁ……、と、思う」
張り合いがないらしいギンロも、つまらなさそうな顔で歩いている。
ほらね? やっぱり勇敢な男なら、そういうのを望むものなんだよっ!!
あぁ~、どっかから魔物が湧いてでてきたりしないものかぁっ!??
……まぁ勿論、本当にそんな事になった場合、俺は逃げ惑う事しかできないんだけどね。
そして、歩き続ける事数時間。
狭くて暗い通路の中を、ひたすらに歩き続けるというのは、なかなかに苦行である。
みんながいるから心細くはないし、怖くもないけれど、なんかこう独特の緊張感が漂っていて、ズーンと空気が重い……
騎士団のみんなは、何もない通路であっても、常に周りを警戒しているらしく、忙しなく視線を泳がしている。
グレコもずっと警戒しているようだけど、若干この状況に飽きてきているようにも見える。
ギンロは何やら眠そうな顔をしているし、カービィはスキップをやめて……、あぁ、こちらは完全に飽きてしまっているようだな。
俺はというと、横っ腹が痛いのは既に治ったものの、歩き続けている為に少し疲れ始めていた。
すると、前を行くノリリアが、ポツリと零す。
「もう少しで祭壇に着くポね~」
うぇっ!? 嘘でしょ??
こんな、何事もないまま、目的地である祭壇に着いちゃうのっ!??
何それ、拍子抜けにも程があるんですけどぉっ!???
そんな俺の心の叫びを、この真っ暗通路なダンジョンが汲み取ってくれるわけもなく……
しばらく歩くと目の前に、大きな両開きの扉が現れた。
「みんな、祭壇に着いたポね!」
オー・マイ・ガーッド……
まさかまさかの、何にもないパターンですか?
テトーンの樹の村を旅立ってからというもの、どこに行っても、何をしてても、ハプニングの連続で、濃ゆ~い内容の毎日を送っていた俺だったが……
最速最短、何にも事件が起きないままに、俺の初ダンジョン探索は終了しようとしていた。
……いや、待てよ。
ここからが本番なのかも知れない。
扉の向こう側に、何がいるのかわからないぞぉ~?
そう思い直して、キリリと気持ちを引き締める俺。
「キノタンちゃん、お願いポ」
「お任せくださいノコ」
今度こそ、何か解放の呪文などを使って扉を開けるんだなっ!? という俺の思いも空しく……
またもや、扉の隅の方にある小さな穴に、ギュムギュムと体を突っ込んで、中へと入っていくキノタン。
おいおいおいおい……、もしかしてまた?
俺の予想通り、ザザザ~という、岩が擦れ合う音が聞こえてきて、目の前の両開きの石の扉がゆっくりと開き始める。
そして中に……、魔物っ!? などおらず……
「ポポ、ここが、イゲンザ・ホーリーの……、書斎?」
ノリリアの言葉通り、目の前には、沢山の本棚が立ち並ぶ、古臭い書斎が現れた。
……えっとぉ~、ダンジョン終了?
……本当に??
……え、なんで???
しかも、書斎て……
祭壇じゃなかったんかぁ~いっ!??
未だ、人生……、もとい、ピグモル生初のダンジョンが何事もなく、無事に終了する事を受け入れられない俺は、目の前に広がる光景に、ただただ呆然としていた。
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