244:頑張って使命を果たしておいで
白い岩に囲まれた円形の土地に、俺は立っていた。
ここは、クロノス山の中腹より更に上に登った場所。
俺をこの世界に転生させた時の神様、時空王クロノシア・レアが降臨なされる聖域なのであ~る。
久し振りに訪れるから、もはや懐かしささえ感じられるな。
RPGで言えば、初期村的な?
……いや、村ではないか。
雰囲気的にはセーブポイントっぽいよな。
ここは以前同様、周りには何もなくて、生き物の気配も一切ないし、吹き抜ける風の音だけが聞こえている。
思い返せば、ここから俺の旅は始まったわけだ。
神様に選ばれて、ピグモルとして生まれ、使命を与えられて……
あれからほんと、いろいろあったけど、あの時に比べたら俺、少しは成長出来たのかしら?
少しは強くなってたり、するのかなぁ??
そんな事を考えていると……
くぅ~、キュルルル~
俺のお腹から、可愛らしい音が鳴った。
ふむ、我は腹が減ったぞよ……
さっさと神様に金玉渡して、みんなのところに戻って、カレー食べるぞ~いっ!
「お~い! 神様~!?」
空に向かって、大声で叫ぶ俺。
すると上空に、白い光と共に神様がパッ! と現れて、ゆっくりと地表へ降りてきた。
すぐさま出てくる辺り、神様って暇なのかな~? なんて……
「やぁ。暫く見ないうちに、顔つきが逞しくなったね。旅は順調かい?」
お? そうかね??
相変わらず美少年な神様は、開口一番そう言った。
顔つきが逞しく……、なりましたか!?
まぁね、数々の死線を潜り抜けて来ましたからねっ!!!
ふふふん♪ と良い気分になって、ちょっぴり胸を張る俺。
「はい! 順調です!! それで今日は、これを渡したくて……」
ゴソゴソと鞄の中を漁り、神の瞳と呼ばれる金の玉を取り出す俺。
「おや? また手に入れたのかい??」
どうやら、今回は俺の事を見ていなかったらしい神様は、驚いた表情でそれを受け取る。
よし! 任務完了だっ!!
戻ってカレー食べるぞ~いっ!!!
「これは……、僕は受け取れないなぁ」
「え? なんで??」
神様の言葉に、怪訝な顔になる俺。
「これの持ち主は、まだこの世界に存在しているようだ。つまり、これの帰りを待っているんだよ。持ち主がいる以上、僕が受け取るわけにはいかない」
そう言って神様は、俺に金の玉を返した。
ほ? 持ち主とな??
「その……、持ち主っていったい……」
誰のこと???
「僕にも分からないけれど……。君、今どこを旅していたんだい?」
神様に尋ねられて、俺はザックリと、これまでの旅路を説明した。
ワコーディーン大陸に存在するモントリア公国唯一の港町ジャネスコを船で旅立ち、ランダーガン大海を南下して、ピタラス諸島のイゲンザ島へと上陸し、そこにあるマンチニールの森という場所でモゴ族と出会い、時の神が使わせし調停者だと祭り上げられて、この金の玉を手に入れました……、と。
「調停者? 君、調停者になったの??」
「いやぁ~……、それって僕が決めていいんですか?」
「ん~、どうなんだろう? 君は、時の神の使者ではあるんだけどね……。調停者? 調停者……??」
ねぇ神様、悩まないでくだぱい。
あなたが僕を、使者に選んだんですからね?
違うなら違うと仰ってくだぱい。
「あ、そういえば……。僕、少し前に、同じ神の使者であるサカピョンに出会いました。その時に聞いたんですけど……。サカピョンには旋律の使者っていう二つ名があるのに、どうして僕にはないんですか? 僕にも二つ名をください」
不意に思い出し、この際だとせがむ俺。
「あ、言ってなかったかな? 君は、探求の使者だよ」
ほう!? 探求の使者とな!??
あったのか、俺の二つ名!!!!
「最初は、隠密の使者とか、潜伏の使者とか、いろいろ考えてたんだけど……。どっちも根暗そうじゃない? 楽天的な君には合わないと思ってね。楽しげな響きの探求の使者にしたってわけさ」
なるほど、楽しげな響きの、ね……
楽天的ってのは、褒めてるのよね? ね、神様??
「それで、その調停者ってやつだけど……。君がなりたいならなればいいし、荷が重いなら、ならなくてもいいんじゃないかな? あくまでも、僕が君に与える使命は神々の偵察であって、それが結果的には世界の均衡を保つ事になるわけだけれども、だからといってわざわざ君が、世界で起こっている争いを調停する仲介人になる必要なんてないからさ」
ふむ、つまり……、俺の好きにすれば良いと、そういう事ですな?
……それって一番困るんだけどなぁ。
「えと……、じゃあ……。でも、この金の玉はどうすればいいんですか? 持ち主がいるって言われても……。これ、僕はあんまり長期間持ってちゃ駄目なんですよね?」
「それは問題ないよ。ずっと手に持っているわけでもないだろう? その鞄に入れておけば、特に力の影響も受けないだろうからね」
なるほど、鞄の中なら問題ないと……
「でも……、何処の誰に渡せばいいんでしょうか?」
「ピタラス諸島の、イゲンザ島で、モゴ族という種族から託されたんだよね?」
「はい、そうです」
「だったら、その周辺に住まう何かしらの神のものじゃないかな? どうしてこのような形で君の手に渡ったのかは不明だけど……。時の神の使者である君がそれを手にした事で、なんらかのコンタクトを向こうから取ってくるはずだよ」
ほう? なんらかのコンタクトとな??
……ん? 待てよ??
なんか、どっかが引っかかるような気が……
何かを忘れているような気がするぞぉ???
「まぁ兎に角だ、それを僕は受け取れない。そして、それを手にした事で君が調停者になったのならば、その使命もしっかりと成し遂げなくちゃならないよ? この世界に起こる全ての事は、運命として予め決められている。君がそれを手にした事も、きっと何かに繋がる運命だったに違いない。だから、それを君の手で持ち主に返す事も、きっと決まった運命なんだよ」
……なんていうかこう、神様あなた、超絶アバウトな事言ってませんか?
運命って……、中二病じゃないんだから全く……
しかし、どうやら神様は、この金玉を受け取ってくれないらしいな。
……くそぅ、ここに来たのは無駄足だったわけか。
不機嫌な顔して黙りこくってしまった俺を、困った様子で見つめる神様。
「他にも、何か聞きたい事はあるかい?」
優し~く、そう尋ねてくれた。
「他には、何……、あ、そうだ。神様、悪魔って何ですか?」
「悪魔かい? また物騒な輩の事を聞くねぇ」
ふむ……、神様にとってみても、悪魔は物騒な輩なのか。
「昨日、その……、えっと……。サキュバスって奴の事をその、知った……、んですけど……。悪魔が何なのかその、わからなくて……。仲間の説明を聞いてもよくわからなくて」
神様に心配をかけぬよう、昨晩の事は内緒にする俺。
「悪魔っていうのは、そのままの意味さ。悪い行いをする魔族の事を悪魔と言う。人に善人と悪人がいるように、魔族にも悪魔と、俗に聖魔って呼ばれる、曇りのない正しい心を持った者がいるんだよ。まぁ、よっぽどの事がない限り、この世界で悪魔なんかに出会う事はないだろうからね。君には関係のない輩だよ」
笑ってそう言う神様だったが……
彼はわかっていない、俺が既に悪魔と出会ってしまっていて、しかも他の悪魔に狙われているかも知れない、なんて事は……
「とりあえず、あまり無茶はしないようにね。君は僕にとって、とても大切な使者なのだから……。調停者にも、なってしまったのなら仕方ないさ、頑張って使命を果たしておいで」
柔らかな笑みを浮かべながら、神様は光の中へとスーッと消えていった。
俺の手の中には、一つの金の玉、神の瞳が残っていた。
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