243:カレー! 食べたいぃっ!!
「みんな! 忘れ物はないポね~!?」
「おうっ!」
「大丈夫ですっ!!」
「じゃあ、イゲンザの神殿に向けて、出発するポ~!!!」
「おぉお~!!!!」
トガの月、八日、午前八時頃。
有尾人達のいなくなった森の集落近辺。
一晩野営をしていた白薔薇の騎士団 + モッモ様御一行は、朝食を済ませ、テントを片付け、短い集会を開いた後、目的地であるイゲンザの神殿目指して出発した。
ノリリアは集会で、キノタンをみんなに紹介し、共にイゲンザの神殿を目指す事を報告した。
モゴ族の使命とか、時の神が使わせし調停者がどうのこうのとか、そういうややこしそうな話はせずに、とりあえず、キノタンが神殿の鍵を握っている、とだけ伝えたのだった。
騎士団のみんなは、初めて見るキノタンの姿、マンチニールの森の守護者と呼ばれるモゴ族の存在に、多少驚きつつも、快くキノタンを仲間に迎え入れてくれた。
昨晩、集落の何処を探しても見つからなかったミュエル鳥達。
途方に暮れるモーブとヤーリュ。
しかし今朝、みんなで朝食の野菜スープと干し肉サンドイッチを食べていると、何処からともなく、ミュエル鳥達が姿を現したのだ。
バサバサと大きな翼を羽ばたかせて、七体のミュエル鳥は俺たちの元へと帰ってきた。
たぶん、朝食の良い匂いに釣られて来たのだろうけれど……
飼育係であるモーブとヤーリュは、戻ってきてくれたミュエル鳥達を盛大に褒めて、野ネズミの丸焼きをた~んと食べさせたのだった。
出発前に俺は、マンチニールの森で起きた事と、モゴ族の里で手に入れた金のオーブの事をグレコに話して聞かせた。
オーブをグレコに見せると、やはりグレコも、俺やカービィと同意見であった。
それは間違いなく、邪神に落ちた蜥蜴神の目から現れた金の玉と同じ物……
つまり、何かしらの神の瞳であった物だろうという事だ。
俺の神様使用の世界地図で、マンチニールの森の中心で光っていた黄色の光はおそらく、この神の瞳のものだったのだろう。
その証拠に、これを俺が手にした今、再度世界地図を確認するも、以前はそこにあったはずの黄色い光が、このイゲンザ島内からは綺麗さっぱり消えていたのだった。
兎にも角にも、様々なハプニングに見舞われつつも、少しいつもとはパターンが違ったが、俺は自分の使命である神の光を確認する事ができたのである。
予定外ではあったが、白薔薇の騎士団のメンバーもみんな揃ったし、結果オーライだ。
こうして俺たちは、ミュエル鳥の背に乗って、東へと出発した。
そして、正午を前にして、目的地であるイゲンザの神殿へと、無事全員で到達したのであった。
「荷物を降ろしたら、すぐ準備に取り掛かるポよ!」
「了解!」
イゲンザの神殿に到着した、白薔薇の騎士団 + モッモ様御一行。
森の中に現れたその神殿は、神殿と呼ぶにはあまりに小さな建造物だ。
白石大理石のような石で作られたそれは、丸い円柱の建物で、屋根の部分もまあるいドームのような形をしている。
いつからここにある建物なのか、具体的には知らないけど、思っていたよりも古びていないし、どこかが崩れているということもない。
大きさは……、テトーンの樹の村のテッチャの家と変わらないくらいに、小さい。
そして、窓もなければ扉もない、どこからも中に入る事の出来ない作りとなっていた。
これは~、どうやって中に入るのだろう?
神殿の真ん前で、ぼんやりとそれを眺める俺たち四人を他所に、白薔薇の騎士団のみんなは素早く行動する。
テントを張ったり、昼食を作り始めたり、調査に使うのであろう道具を鞄から出したり、船に残っている二人の団員と通信を始めたり、ミュエル鳥の寝床となる簡易の小屋を建てたり……
さすが、王国一のギルドと謳われるだけあるな、素晴らしい分担作業である。
「ふむ、これがイゲンザ・ホーリーの神殿ですか……。思っていたよりも小さいですねぇ」
分厚い書物と大きな虫眼鏡を手に、俺たち四人の隣に立って、しげしげと神殿を眺めていたパロット学士がそう言った。
「なんかこれ、守護魔法とかかかってねぇみたいだな」
カービィが呟く。
「そのようですね。先日オーラスが偵察に来た時には、この神殿の周りに守護結界が張り巡らされていたらしいのですが……。現在は無くなってしまったようですね、不思議です……」
そう言ってパロット学士は、首を傾げた。
ほう? 守護魔法がかかっていないとな??
だったら、結界を解くために闇の精霊ドゥンケルのイヤミーを呼び出す、なんて必要はないというわけですな???
……良かった、あいつ苦手なんだよ俺。
「モッモちゃん達、ちょっといいポか?」
背後からノリリアに呼ばれて、振り返る俺たち四人。
「どうしたノリリア~?」
「少し予定が押しているポね、昼食が終わったらすぐに調査に取り掛かるポ。いつでも動けるように準備しておいて欲しいポね」
「私たちはいつでもオーケーよ。ね、モッモ?」
「うん」
「ノリリア、この建物には入口が見当たらぬが、どこから中に入るつもりなのだ?」
「ポポ、今アイビーとポピーが、キノタンちゃんを連れて、外壁を調べているポね。キノタンちゃん曰く、どこかに入口を開く鍵があるとかなんとか……」
「ふむ、承知した」
「守護魔法がかかってないってパロット学士が言ってたんだけど……。外にはなくても、中にあったりするのかなぁ?」
「それは大いにあり得るポよ、モッモちゃん。だから、いつでも精霊を呼び出せるようにしておいて欲しいポ」
「了解しました!」
「じゃあ、もうすぐ昼食が出来るポから、みんなもこっちに来ていてポ~」
テントが張られている場所に向かって、歩き出そうとするノリリア、を……
「ねぇノリリア、少しだけ時間をくれないかしら?」
グレコが呼び止めた。
「ポ? グレコちゃん、どうしたポね??」
どうしたグレコ? まさか!? ……うんこでもしたいの???
「ねぇモッモ、神殿に入るより先に、神の瞳を神様に渡して来なさいよ」
ほっ!? 今ですかっ!??
「あ~、それおいらも思ってた。いくら使者とはいえ、長い時間それを持ってるのはよくねぇと思うぞ~」
カービィまでっ!???
「え、でも……、お昼ご飯……」
チラリと、テントがある場所で昼食を作っている騎士団のメンバーを見やる俺。
大きめの焚き火では、大きな鉄の鍋が火にかけられており、白い湯気を上げながら、グツグツと音を立てているのだ。
朝御飯は沢山食べたし、午前中はミュエル鳥に乗って移動していただけだったのに、俺は既に腹ペコになっていた。
それに、さっきから、すっごく良い匂いがして来ているのだ。
たぶんこの匂いは、カレーか何か……
カレーがこの世界にあるのかは分からないけど、スパイシーかつ美味しそうなあの匂いが、プンプンと辺りに漂っているのである。
「ポポ、それはすぐに終わるのポか?」
「導きの腕輪を使えばすぐに行けるでしょ? ここに石碑を建てておけばすぐ戻れるわけだし。ね、そうしなさい」
う……、なんだかグレコ、母ちゃんみたい……
グレコの言葉、その言い方は、俺には全く拒否権がない事を意味していた。
「わ、わかりました……」
うぅ……、お腹減ってるのにぃ……
カレー! 食べたいぃっ!!
「大丈夫だモッモ! おまいの分の昼食は、おいらが食べといてやるっ!!」
「はんっ!? そこは残しておいてよっ!??」
ヘラヘラと笑うカービィに突っ込みを入れてから、俺は諦めたように鞄をガサゴソと漁り、黒い爪楊枝を取り出して、地面にサクッと刺した。
ブォンッ! という小さな爆発音を立てて、そこに小さな石碑が現れる。
「……じゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい!」
かなり不服そうな顔をしながらも俺は、笑顔のみんなに見送られて、導きの腕輪に手をかざした。
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