231:カービィのおたんこなすっ!!!

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●モゴ族



学術名:シャオ・ドゥ・モゴ


生息地:ピタラス諸島、イゲンザ島内マンチニールの森


生態:非常に小さな植物性魔物。キノコ類とよく似た風貌をしており、繁殖方法も胞子による増殖であると考えられる。体内に毒を持ち、自衛の為にそれを撒き散らす。武器防具らしき物を装備しており、言葉を解する者もいると考えられているために、知的生命体に認定されている。マンチニールの森に生息する有毒植物、ドゥバー樹の根本に発生したという目撃例があるものの、詳細な生態は不明。


補足:2762年に、マンチニールの森の入口付近で目撃されたのを最後に、現在まで目撃例なし。2800年に絶滅認定され、ワールドレットリストに登録。ランクSSの幻想生物種に認定された。



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ふ~む、どこかで見たことあるなと思っていたら、カービィの図鑑だったか。


テントの中で、朝ご飯のパンとドライフルーツを食べながら、再度カービィの愛読書である世界生物大百科を見て、モゴ族のなんたるかを確認する俺。


カービィ曰く、この世界の生き物はみな、絶滅すると共に幻想生物種というものに分類されるらしい。

希少価値を表すランク付けは、絶滅危惧種ならランクA以上、絶滅種である幻想生物種はランクS以上となる。

ちなみに、ランクS、SS、SSSの分類方法は、絶滅が確認されたものがS、絶滅後三十年経ったものがSS、五十年以上経っていて完全に絶滅したと確定されたものがSSS、となるのだそう。

つまり……、ランクSSSのピグモルは絶滅確定されてるわけで……


いやいや、生きてますからっ!

ピグモルは生きてますからぁっ!!

……と、これから俺は、ピグモルの名誉に懸けて、声高に叫び続けなければならないわけである。


しかし、ノリリア曰く、この図鑑に書かれている事は、そのほとんどが仮定の話に過ぎない、という事だった。

現に、文末がどれもこれも曖昧に結ばれている。

絶滅種、幻想生物種などの確定や認定は難しく、ただの目安に過ぎないと言っていた。


「いやはやしかし……、願えば夢は叶うのですなっ! だっはっはっ!!」


自身で顔の腫れを治す回復魔法をかけて、元のお顔に戻ったカービィは、パンを片手にガハガハと笑った。


「カービィちゃん、昔っからモゴ族好きだったポね。会えて良かったポね~」


ドライフルーツを齧りながら、穏やかに笑うノリリア。


「おうよっ! 日頃の行いが良いからに違いないっ!! だっはっはっはっはっ!!!」


ドヤ顔になるカービィ。


「……けど、もう追いかけ回しちゃ駄目ポよ?」


「あ……、は、はい」


ノリリアに釘を刺され、カービィは馬鹿笑いをやめた。


「どのような場所にでも、生きている者はいるのだな。命とはなんと強いものか……」


感慨深げにそう言ったギンロだが、甘そうな匂いがプンプンするダーラのマフィンを食している最中なので、格好良さは半減である。


まぁともあれ、カービィの奇行も治ったし、ノリリアも怪我の具合が良さそうで、俺は一安心だよ。

テトーンの樹の村で貰った、新しいルブーベリーのジャムをパンに塗って、俺は笑顔でパクッと頬張った。


神様鞄の中には、テトーンの樹の村から持ってきた食料と水が結構な量入っていたので、みんなと合流するまでに餓死してしまう……、なんて事にはならなくて済みそうだ。

パンもドライフルーツも、かなり前に入れた物が混じっているにも関わらず、鮮度は何も変わっていない。

さすが俺の神様鞄である、ノリリアもとても驚いていた。


カービィのモゴ族座談を聞きながら朝食を食べた後、簡易テントを片付けていると、昨晩俺たちの前に単身で立ちはだかった勇敢なモゴ族がやって来た。

確か名前は……、キノタン、だったかな?

赤色に白の斑点模様が入ったその姿は、なんとも毒々しい……


「調停者ギンロ様、そして従者の皆様方、おはようございますノコ」


ぺこりと頭を下げるキノタン。

つられて頭を下げる俺たち四人。


「支度が整いましたらこちらへ。長老様の元へ案内しますノコ」


……ん~、どうするべきか。


「ギンロ、早く言った方がいいんじゃない?」


ツンツンと、ギンロを突く俺。


「うむ……。キノタン殿、少々話があるのだが」


「何ですノコ? 調停者様」


「う、ぐ……、実は、その……」


調停者様、と呼ばれる事が嬉しいらしいギンロは、なかなか話を切り出せない様子。


「ポポ……、キノタンちゃん、ギンロちゃんは調停者じゃないんだポ」


見兼ねたノリリアがそう言った。


「なんと!? それは……、真ですノコ? ギンロ様??」


キノタンに尋ねられるも、うんともすんとも言えないギンロ。


「ギンロちゃんは、青銀の守護者と呼ばれる者ポね。そこにいるモッモちゃんを守る役目を担っている者なのポ」


ノリリアの言葉に、ギンロの耳がピクリと動く。


「その通り。我は、青銀の守護者。調停者はそこのモッモの方である」


青銀の守護者、という新たな名前を思い出し、ドヤ顔になって俺を指差すギンロ。

困ったのは俺の方だ。


……え? は?? 何言ってんのギンロ???


キノタンの、小さくつぶらな黒い瞳が俺を見つめる。


えっとぉ……

俺は時の神の使者ではあるけれど、別に調停者なんかじゃないよ?

そんなお名前、神様から頂戴していませんからね。

何を出鱈目言ってくれちゃってんのさ、ギンロ!?


「そちらの……、小さき獣が調停者様なのですノコ? ……むむ、俄かに信じ難いノコ」


かな~り訝しげな顔で、俺を見るキノタン。

眉間にしわを寄せて、小首を傾げている。


小さき獣て……、俺の方が君より何倍もでかいわっ!

その顔やめんかっ!?

シワシワキノコやないかっ!??


「ポポ……、モッモちゃんは時空王の使者ポね。調停者かどうかは分からないポが……。もし、あたち達の中にその調停者がいると言うのなら、その可能性が一番高いのはモッモちゃんポ」


ノリリアまでっ!?

俺は調停者なんかじゃないよぅ!!

そんな風に呼ばれた事なんて一度もないんだよぅ!!!


「むむむ……、しかし、オーブが光を放っている今、調停者が現れたという事は疑いもない事実ノコ……。ギンロ様、やはりあなた様が調停者では? きっとそうですノコ!?」


おぉ、キノタンよ……

お主、なかなかに頑なな奴であったか……

俺の事を調停者だとは認めたくないらしい。


……あ、いや、俺は調停者じゃないんだけどね、うん。


「ポポ、困ったポね……」


う~んと悩むノリリアと、面倒だな~という顔になるギンロ。


「とりあえず、その長老とこ行けばいいんじゃねぇか? もし本当にギンロが調停者なら、そこで分かるだろうよ!」


ヘラヘラと笑いながら、またも適当な事を言うカービィ。


「では此方へ。長老様がお待ちですノコ」


そう言って、キノタンはそそくさと歩き出した。


仕方なく後に続くギンロとノリリア。

俺も歩き出そうとした、その時……


「なぁモッモ、世界地図見せてくれ」


「え? 今??」


「うん、今♪」


カービィが、全く空気を読まずにそう言った。

幸いにして、キノタンの歩みはかなり遅い(小さくて歩幅が狭い為)ので、すぐに追い掛けなくても大丈夫そうだ。


「なんで今なんだよ、もぉ……」


ぶつぶつと文句を言いながら、鞄の中から世界地図を取り出し、カービィに差し出す。


「次は、その辺に導きの石碑を立ててくれ」


「えっ!? ……モゴ族達に許可を得なくていいの??」


「そんなもん、事後報告でいいだろ?」


えぇ~、駄目でしょそれは~?


やめておこうよと、無言の抵抗を試みる俺。

しかし、それに対してカービィも、さぁ立てたまえ! と言わんばかりに、無言で俺を凝視してくる。


「……はぁ~。僕、怒られるの嫌だから、カービィ責任持ってよね」


「イエッサ☆」


何がイエッサだよっ!?

カービィのおたんこなすっ!!!


心の中で悪態をつきながらも、鞄の中から黒い爪楊枝を取り出して、出来るだけ目立たないよう、大きめのキノコが密集して生えている場所にサクッと刺す。

瞬く間に、ブォンッ! と小さな爆破音を立てて、導きの石碑が立った。


「さっ! これでいいのっ!?」


「うむ、では世界地図を見てみよう」


おもむろに世界地図を広げて、眺めるカービィ。

そして……


「ふむふむ……。どうやら、おいらの勘は当たったようであるぞよ、モッモ君」


「え、何が?」


「これを見たまえ」


カービィが指差す先にあるのは、世界地図上のピタラス諸島、イゲンザ島の中央に位置する黄色い光。

そしてその光に被さるように、導きの石碑を立てた際に追加される青い光が……、ていうか、現在地を示す小さな白い光があるんだから、石碑立てなくても良かったんじゃない?


「え? これって、もしかして……」


「うむ、そうなのだよモッモ君……。ここには恐らく、何らかの神がいるのだよっ!」


うわ~お……

マンチニールの森に何かの神様がいるって事は分かっていたけれど、まさかここにっ!?


「でも、じゃあ、それって……、モゴ族の? キノコの神様、とか??」


「むふふふふ、モゴ族の神様かぁ~♪ そうだといいなぁ~♪」


あ、駄目だ、カービィの心既にここに非ず……

キノコの神様という者を想像し、ニマニマと笑っている。


「カービィちゃん! モッモちゃん!! 早く来るポ!!!」


いつの間にか随分遠く離れた場所にいるノリリアに声を掛けられて、ハッとなる俺。

ずっと先に行ってしまったのであろう、ギンロとキノタンの姿はもう見えない。


「あ、はいっ! 行くよカービィ!!」


「モゴ族の神様~♪」


俺はセカセカとした様子で、カービィはルンルンとスキップしながら、キノタン達の後を追った。

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