227:キノコ魔物達
「ふむ……。ではここは、マンチニールという名の森の地下にある洞窟なのだな?」
「そうポ」
「そして、マンチニールの森には、毒を持つ生物が多数存在していると?」
「そうポ」
「なるほど……。では、そやつらはもしや、その毒を持つ生物とやらなのか?」
「そうポ」
「ほう……。モッモよ、我ら危うく食うところであったな」
昨晩の決起会を長風呂による体調不良によって欠席していたギンロは、改めてノリリアからマンチニールの森についての説明を受け、そんな事を言った。
いやぁ……、俺は一瞬足りとも、彼等を食べようだなんて思わなかったですけどね?
地面から頭であろう傘の部分だけを出して、あとは地中に埋まってしまっているキノコ魔物達を繁々と見つめる俺。
その小さくつぶらな瞳は、なんて事をしやがるんだこの野郎っ! といった感じで、恨めし気に俺たちを睨んでいる。
ギンロは、有尾人達に奪われていたノリリアの杖を、ちゃっかり取り返していたらしい。
杖を受け取ったノリリアは、危険だからと言って、魔法で彼等を地面に埋めてしまった。
それはもう、ほんと一瞬の出来事で……
ズポポポポ! という小気味良い音を立てて、そこに倒れていたキノコ魔物達は一斉に、強制的に土の中へと潜らされてしまったのである。
「くぅっ!? 出せっ!! 出すんだノコっ!!!」
「戦えノコっ! この薄汚い獣めっ!!」
「卑怯者! 卑怯者っ!!」
「ここから出たら、ただじゃおかないノコっ!」
口々に俺たちを罵る足元のキノコ魔物達。
言葉は乱暴だが、声が可愛らしいので全く怖く無い。
そんな彼等を完全無視して、ノリリアは難しい顔で腕組みをし、何かを考えている。
「ここがマンチニールの森の地下洞窟だとすると……、モッモちゃん、最初北へ進んで、その後ずっと東に向かって歩いて来たのポね?」
「あ、うん。グレコから連絡が来て、西の出口には有尾人が待ち構えているはずだから東へ向かえって……。パロット学士がそうしろって言ったんだって」
「ポポ、なるほどポ……。確か、マンチニールの森の地下洞窟は、島の南北に小さな入り口が幾つもあって、そこから続く細い地下通路は全て、東西に突き抜けているこの大きな洞窟に繋がっているはずポね。西と東の地表にはそれぞれ、大穴が開いていると聞いた事があるポ。でも、行き止まりになったと……」
「うん……」
「我が掘ってみようか?」
……ギンロ、ちょっと黙ってて。
「ポポ、それしか道はないポね」
……え? それ本気で言ってるのノリリア??
掘り進めて行くって事??? どこまで????
「地崩れで洞窟が途中で塞がってしまったポか、あるいは何者かが故意に塞いだポか……、それとも……、チラリ」
横目でキノコ魔物達を見やるノリリア。
すると、キノコ魔物達は何やらソワソワした様子で……
「ノコっ!? そこは掘れないノコっ!!!」
「掘ってはいけないノコっ!!!」
「掘ったら死ぬノコよっ!??」
途端に焦り出し、先程よりも更にワーワーと騒ぎ始めるキノコ魔物達。
なんだろう、かなり怪しいな。
岩壁を掘る行為が、彼等にとって大変不都合だという事が丸わかりな反応である。
「ポポポ、分かりやすいポね……。ギンロちゃん、掘らなくても良さそうポよ」
「ぬ? 何故だ??」
既に、双剣を手に岩壁に向かって構えていたギンロが尋ねる。
……てか、魔法剣で岩壁を掘ろうとしていたのかいギンロよ?
やめてくれよ! かなり値段が高かったのに、刃こぼれして早々に使えなくなるとか笑えないし!!
もっと大事に、丁寧に扱ってくれたまえっ!!!
「たぶんこの岩壁は、魔法で作ったハリボテポね」
およ? はり……、ぼて……、とな??
テクテクと岩壁に近付いて、ソッと手を伸ばすノリリア。
「触っちゃ駄目ノコっ!!!」
「やめろぉおぉぉ~!!!!!」
キノコ魔物達の必死の抵抗も空しく、ノリリアの小さな手が、目の前の岩壁に触れると……
スンッ!
「うわっ!? まぶしっ!!?」
「何だっ!?」
今の今までそこにあった岩壁が消えたかと思うと、目映いばかりの光が差しこんできた。
あまりの眩しさに、俺もギンロもギュッと目を瞑って……
「ポ……、ポポポ!? こっ、これはっ!??」
ノリリアの驚く声に、俺は薄らと目を開けて……
そして、光に目が慣れていくと、思ってもみなかった光景が視界に飛び込んできた。
「なんっ!? なんじゃこりゃあぁっ!??」
目の前に広がるその光景に、俺は思わず絶叫してしまった。
そこにあるのは、頭上から月の光が降り注ぐ、洞窟内に突如としてあらわれた大空洞。
その中に、彼らはいた……
「き……、きゃあぁぁあぁっ!?」
「獣が入って来たノコぉっ!!」
「敵襲! 敵襲!!」
「逃げろぉおぉ~!!!」
「たっ!? 助けてノコ~!!?」
これは……、いったい……
わらわらわらと、何処からともなく現れては、四方八方に散らばっていくキノコ魔物達。
彼らは、先ほどノリリアに埋められた奴らとは別の、剣も盾も装備していない、見るからに無力そうなキノコ魔物達である。
慌てふためき、怯えて、悲鳴を上げながら逃げていく。
……なんだろう、この光景、俺の故郷であるテトーンの樹の村でも再三見てきた気がするぞ。
洞窟の中に突如として現れた大空洞の中には、キノコ魔物達の村が存在したのだ。
それも、かなり可愛らしい村である。
大きな木の根元にあるらしいこの空間には、至る所に様々な色のキノコが生えており、それらは地表に空いた幾つもの穴から降り注ぐ僅かな月の光を受けてキラキラと輝いている。
巨大な根に沿うようにして造られている家々は、キノコを模した形をしており、俺の体程の大きさの物がほとんどだ。
村は全体的に苔むしていて、どことなくだけど、港町イシュと似たような雰囲気を持っている。
ただ、匂いだけは全く違っていて、干物の匂いや血生臭い匂いなんて勿論なく、ツーンとしたワサビのような香りが漂っていた。
「まさか、本当に存在したポか……。マンチニールの
マンチニールの守護者? 幻獣モゴ族?? 何それ???
ノリリアの言葉に、俺とギンロは首を傾げた。
「何者ノコ!?」
周りのキノコ魔物達が逃げ惑う中、たった一匹で、俺たちの前に立ちはだかったのは、それはもう、小さな小さなキノコ魔物だ。
柄は白く、傘は白い斑点模様の入った赤色をしている。
手には何やら、これまでのキノコ魔物達とは全く違った、金色に輝く剣を持っている。
そして、そのつぶらな黒い瞳を、真っ直ぐに俺たちに向けていた。
「ここは我らモゴ族の里、外界の者が立ち入る事は決して許されぬ……。即刻立ち去るノコ!」
おぉ……、小さいのになんて勇敢なのでしょう。
剣の切っ先を俺たちに向けてそう言い放った斑点模様の赤いキノコ魔物に対し、俺はかなり感心する。
だがしかし、またしても真に受けた阿呆な奴が一人いて……
「ほう? 剣を抜いたのならば、覚悟ができているという事であるな?? ならば、我もそれ相応の覚悟を以って、相手しようぞっ!!?」
だぁあぁっ!? この馬鹿ギンロっ!!!
また弱い者イジメする気なのっ!???
俺とノリリアを差し置いて、ズイッと前に出て、魔法剣を構え、遠慮なくぶん回そうと構えている。
こんなところでさっきみたいに暴れたら、彼等の村が崩壊しちゃうよぉおっ!!!!!
「待つのじゃキノタン!!!」
しゃがれた声が聞こえてきて、別の大きなキノコ魔物が姿を現した。
その体はまるで、太った椎茸のようである。
どうやらかなりご高齢のようで、杖をついてゆっくりとこちらに歩いてきた。
「長老様! このような場所へ来てはなりませぬノコ!!」
キノタンと呼ばれた斑点模様の赤いキノコ魔物は剣を下ろし、自分の三倍はあるであろう大きな体の椎茸キノコ魔物へと駆け寄った。
「良いのじゃ。それよりも……。この方はもしかすると、我らが長年待ち望んだお方かも知れぬノコ……」
「なんとっ!? それは真なのですノコ!??」
……そのさぁ、語尾の「ノコ」ってやつ、いるの? 口癖なの?? 話しにくくない???
長老が出てきた事によって、逃げ惑っていた他のキノコ魔物達も、そろそろと俺たちに近付いてきた。
すると、何やらコソコソと話し合っていたキノタンと長老が、くるっとこちらを向いて、ゆっくりと歩いて来て……
「無礼をお許しくださいませ、我らは来訪者に慣れておりませぬノコ……。あなた様がここへ来られる数時間前から、我らに託されしオーブが輝きを放ち始めましたノコ。あなた様こそ、我らが待ち望んだお方……、時の神が使わせし調停者様ですな?」
長老は、ギンロに向かってそう訊ねた。
時の神が使わせし調停者って……
え、ギンロはそんなのではないでしょ?
「もしかしたら……、モッモちゃんの事かも知れないポね」
え……、俺が?
いやいや、俺も違うでしょ??
調停者とか……、なった覚えありませんよ???
「いかにも……。我こそは、時の神に選ばれし調停者であるっ!」
えっ!? 何言ってんのギンロ!??
「おぉおぉぉぉっ!!!」
「調停者様がご降臨なされたノコぉおぉぉっ!!!!!」
わぁあぁぁぁ~!!! と、喜びの声を上げるキノコ魔物達。
眉間に皺を寄せて、口を小さく開けて、沈黙するノリリア。
ちょっ!? ちょっと待ってみんなっ!??
嘘だからっ! ギンロの嘘だからそれぇっ!!!
当のギンロはと言うと……、いかにもそれらしくドンと胸を張って、例のむふふな顔をしているではないか。
その顔やめぇ~いっ!
そして、嘘をついたと早く謝罪せぃ~いっ!!
それと……、カービィ! いつまでギンロの肩で白目を向いているつもりだぁっ!?
早く起きろぉおぉぉっ!!!
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