185:お取り込み中

傾斜のきつい、かなり分厚くて頑丈な作りの渡し板を登っていき、巨大な商船の甲板へと上がる俺たち。

そこには案の定、数名だが、あの恐ろしいワニ顔人間たちがいた。


濡れ雑巾やモップで船の掃除をしたり、何に使うのか分からないがぶっとい縄をグルグルと巻き取ったり、樽や木箱を運んだりと、忙しそうに働いている。

そんな中、突然現れた来訪者を前に彼等は動きを止めて、鋭い瞳で俺たち四人をギロリと睨んだ。


うん、そりゃそうなるよね。

アポなし訪問な上に、許可もなく勝手に船に乗り込んでいるんだから。

しかし……、怖すぎる。

視線が鋭すぎて身体中に針が刺さった気分。


「おい、てめぇらそこで何してやがる?」


一番近くにいた、深緑色の鱗を持つワニ顔人間が、俺たちに声をかけてきた。

小汚い白のランニングシャツに、ダボっとした茶色のズボンを履いている。

頭には赤と白の縞模様のバンダナを巻いているのだが、それがなかなかにこじんまりとしていて、巻いている事に何の意味があるのかサッパリわからない。

体つきは……、ギンロより少し背が低く、ゴツゴツとした筋肉質である。


それにしても口がでかいな……

決して怒った様子はなく、声色も普通なのだが、なんせ顔がワニなもんで、小心者な俺は一気にすくみ上がる。

あの大きなお口にパクッ! といかれれば、一発で、確実に、俺はあの世へ逝けてしまうだろう……


「ザサーク船長に会いたいんだけど、今いるぅ?」


うわ~お……、本当に物怖じしないよねカービィは。

自分の何倍もでかい相手に、しかも怖い顔の相手に、全く臆する事なく最初からタメ口とは……

かなり失礼な行為ではあるけどな!


「お、船長のお客さんか? キッズ船長なら、今さっき船に戻ってきて、船長室で航路を確認中のはずだ。そこを右に回った裏だ、行ってみろ」


深緑のワニ顔人間は、笑顔で陽気にそう言った。

このやり取りを見ていた周りのワニ顔人間たちは、何事も無かったかのように、各々の仕事に戻っていった。


意外や意外、あっさり通してくれたな。

思っていたよりも、もしかしたら、優しいのかも知れない、ワニ顔人間……


言われた通り、甲板の手摺沿いに右側へ通路を歩いていくと、船尾楼の内部へ続く扉が現れて、船長室と書かれた小さな吊り看板が下げられていた。

そして、その中から聞こえてくる、何やらただならない声……

女の人の悲鳴のような高い声と、悪代官のようなドスの効いた低い声。


「キャ~! もうやめてぇ~!!」


「やめねぇさぁっ! お前が限界になるまでなぁっ!!」


「イヤァ~!! もう無理ぃ~!!!」


「まだまだぁっ!! もっと味わえぇっ!!!」


な……、なんっ、何だ何だっ!?

何だってこんな如何わしい声が船長室から聞こえてくるんだぁっ!??


船長室の扉の前で、立ち尽くす俺たち四人。


「……えっと。か、帰った方がいいんじゃないかしら? 今入るとお邪魔かも」


グレコが非常に複雑そうな顔でそう言った。


やっぱり!? この声ってあれだよねっ!??

あれの真っ最中って事だよねっ!???


「しかし……、機を逃しては、本当に船に乗れなくなるぞ?」


眉間に皺を寄せつつも、入るべきだと促すギンロ。


この声が何なのか分からないのだろうか?

ギンロはまだ十五歳だしな、知らなくても仕方ないかも……

けど、十五歳だからこそ、この先の光景は見てはいけないのではっ!?


「うん、そうだな。あれだったらちょっと、混ぜてもらおう!」


何考えてんだカービィこの野郎っ!

あんな黒光りマンのアダルティーな行為にどうやって混ざろうってんだっ!?

どう考えても、被害者になってしまうぞ!!?


「……混ざるのはごめんだけど、商船に乗れないのも困るし。乗るのも嫌だけど、やっぱり乗れないと困るし」


険しい表情で、心の中の何かと葛藤するグレコ。


「うむ、我らが目指すは南の大陸。そこへ行くためならば、如何なる可能性も捨ててはならぬ」


ギンロが言っている事はカッコいいんだけど、その後ろで響く声がエスカレートしてて気が散る。


「アァアァァッ!!! もう駄目っ!!!! もう駄目ぇっ!!!!!」


「ギャハハハハハァッ!!!!!」


あかん! これはあかんっ!!

俺の旅に、こんなに大人な場面は必要ないのだっ!!!


(これだと、小説紹介ページにR18のタグを付けなきゃならんっ!!!!!)


「よぉ~っし! 突入して合流だぁっ!! ヒャッホーウ!!!」


ノックもせずに、バーン! と扉を開くカービィ。


そんないきなりっ!??


焦る俺たち三人の目に映ったのは、小さなカービィの向こう側、部屋の真ん中にある船長椅子に座って戯れる、二人の影。

一人は見覚えのある、大きく黒いワニ顔人間。

間違いない、この船の船長、ザサーク・キッズだ。

そしてもう一人は、かなり小さな……、黄緑色の肌を持つ女……、の子?

その額には、黒くて小さな三つの角が生えている。

双方衣服を着ている辺り、想像していたようなアダルトな行為は行われていなかったと見えるが……


「ありゃ? お取り込み中ではないのか……」


残念そうな声を出すカービィ。

すると、ザサークの鋭い瞳が俺たちを捉えた。


「あんっ!? てめぇら何もんだぁっ!??」


かなりの音量で、ガチギレの怒号が飛んできた。


きゃあっ!? 今度は俺たちがやられちゃうぅっ!??

……でも、いったい何をやられちゃうのぉおぉっ!???

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