184:腹をくくる

「駄目だった!!!」


いつも通りのヘラヘラ顔で、総合管理局の建物から出てきたカービィに対し、俺たち三人は一様に顔をしかめた。


「駄目って……、商船に空きがなかったって事!?」


グレコが険しい表情で尋ねる。


「うん。なんか、今回に限って団体客が入っているんだとよ」


うわ~、マジか~、ついてねぇ~。


「となると……、次の船を待つのか? いつになるのだ??」


腕組みしながら、神妙な面持ちで尋ねるギンロ。


「パーラ・ドット大陸まで渡航している商船はその船だけなんだと。他には貴族が乗る様な観光船のがいくつかあるらしいんだが……、料金が一人100000センスとべらぼうに高い。貯金があるから乗れなくもないが……、さすがに高額すぎるだろう? それと……、今回はその団体客の意向で、本来よりピタラス諸島での滞在日数が多いらしい。だから次の便は、早くても二ヶ月後になるんだと」


えぇっ!? 何それっ!??


「に、二ヶ月も待てないわよ……。ここで、二ヶ月も何しとけって言うの?」


もはや怒りを通り越して、唖然呆然とするグレコ。


「ん~、無いもんは無いからな。どうしようもねぇんじゃねぇか?」


ヘラヘラと笑い続けるカービィに対し、俺たち三人は一様にガクッと肩を落とした。


商船が出航する三日前の朝。

俺たちは意気揚々とモントリア公国国営総合管理局までやってきたわけだが……

その結果は散々だった。


せっかくここまで来たっていうのに、この港町であと二ヶ月も足止め食らうってか?

いやいや、それは余りにも時間の無駄だろう。

特に急ぎの旅ではないにしろ、二ヶ月も滞在していたら飽きるし、それ以前に、宿泊費やら何やらでお金がかかるのである。


テトーンの樹の村へ一度帰るか……

いやでも、帰って何をすれば良いんだ?

テッチャの復興計画に参加……、しても良いけど、正直それは俺の使命ではない気がするし。

何より、グレコとギンロはそんな事望んでないだろう。

明後日にはやっとこの港町を発てると、朝から二人ともウキウキしてたんだから。


ほら見て? この世の終わりかのように項垂れる二人の姿を。

確実に俺より、何倍も船旅を楽しみにしていたのだろう。

掛ける言葉もないほどに、二人は落胆してしまっている。


「駄目元で、直接交渉してみるか?」


平坦な声で、カービィが言った。


「え……、っと、直接交渉? 誰に??」


「商船の船長だよ。もしかしたら、船舶運営部に登録している部屋数よりも、船には沢山部屋があるかも知れないだろ? もし、小部屋でも空いているなら……、狭いだろうけど、我慢すりゃ船に乗せてもらえるかも知れねぇしな!」


おぉ、なるほどそういうのも有りなのか。


「いいわ、狭くて結構……。今すぐ、その商船の船長に直談判しに行きましょう!」


「うむ、望みがあるならすがりつくのもまた必要……。行こうぞ!」


ズンズンと、港へ向かって歩き出すグレコとギンロ。


「……ねぇ、そんな事して本当に大丈夫なの? 後で問題になったりしないの??」


一応、確認のつもりで聞いただけなのだが……


「わっかんねぇ~。まぁ、ちょっぴり怒られたりはするんじゃねぇか? 勝手な事してはいけません! みたいなさ??」


ヘラヘラと笑い続けるカービィに、俺は一抹の殺意を抱いたのであった。






「……で、この船で間違い無いわけ?」


「おう、この船のはずだ。結構でかいだろ?」


「ふむ、なかなかに巨大な船であるな」


「……ねぇモッモ。この船ってまさか……、まさかよね?」


多くの商船が停泊している港の波止場で、俺とグレコは固まっていた。

見た事のある船首像が、そんな俺たち二人を嘲笑うかのように見下ろしている。


「なんだ? この船知ってるのか??」


いや、その……、知ってるって程でも無いんだけどね、カービィ君……


「これだけ大きな船ならば、きっと空き部屋ぐらいあるであろう。早速船長殿とやらに会いに行こうぞ」


ちょ~っと待とうかギンロ君。

今、グレコと会議を開くから……


「やっぱり、あいつの船だよね?」


「そうよね? 見覚えがあり過ぎるもの……」


お互いに、困惑の表情を浮かべる俺とグレコ。


「船の名はタイニック号。船長はザサーク・キッズ船長だ。さぁ行こうっ! 善は急げだぞっ!!」


ウキウキした様子で、船へと続く渡し板を歩いていくギンロとカービィ。


「やっぱり……、タイニック号にザサーク……。モッモ、あの怖い顔の種族が船員の船よねこれ……。ど、どうする?」


「どうするも何も……、この船しか、パーラ・ドット大陸へ向かう船がないんでしょ? だったらもう……、腹くくるしかないんじゃない……?」


と、自分で言いつつも、体の小刻みな震えが止まらない。

あの恐ろしいワニ顔人間たちと、同じ船に乗らなければならないとは……


神様はなんて意地悪なんだ。

俺にお手伝いして欲しいなら、可愛い妖精さん達が運航してくれる夢の船を、事前に用意してくれたっていいじゃないか……

これから一ヶ月……、いや、一ヶ月以上、ビクビクしながら逃げ場のない船の上で過ごさなければならないのか?

そんなの、そんなの……、無理だよう……


「どうか、空き部屋がありませんように」


俺と同じ気持ちらしいグレコが、両の掌を組み合わせて祈った。

さっきまでとはまるで真逆なその言葉に、俺は苦笑いする。


しかし、グレコの気持ちは痛いほどわかる。

今でも鮮明に覚えているぞ、身体中を黒い鱗で覆われた、見るからにガチムチなアダルティー船長。

あんな恐ろしい奴と、同じ船に乗れってか?

……冗談じゃない。

俺は、渡航中に謎の死なんて遂げたくないんだよぅっ!?


グレコの隣に立ち、俺も同じ様にして手を合わせ、神様に祈りを捧げるのだった。

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