162:ちびっ子眼鏡
「ここから甲板に出られるわ」
「ふむ。なかなかにスリル満点の脱出劇だな♪」
「馬鹿じゃないの!? もう絶対にこんなのごめんだからねっ!!」
ユティナとサカピョンの夫婦漫才を見ながら、船の中を行くこと数十分。
フェイアを含む俺たち四人は、ようやく小舟があるという船の甲板へ繋がる扉の前へとやってきていた。
俺たちが捕まっていた檻のある部屋は、一番船底に近い場所にあった為、更にはここへ来るまでに、何度も迫り来る敵から身を隠す必要があった為に、かなりの時間がかかってしまったのだ。
敵はやはりラビー族だった。
皆一様に、茶色の毛並みをしたいかつい感じの者達で、でっかい奴は俺の三倍ほどの体、つまり、ギンロと同じくらいのデカさの奴もいた。
あんなのと面と向かって戦う事は、俺には到底無理だ。
それこそ、ラビーパンチ! で大海原へ殴り飛ばされてしまって、……終わりだろう。
ユティナが言っていたように、船員のほとんどは寝室で眠りこけているようだが、見張りと見回りをしている者は数名起きているようだ。
小さなランプを手に、ドカドカと船内を歩き回っていた。
俺たち四人は、そいつらの目を掻い潜り、壁伝いにコソコソと、抜き足差し足忍び足でここまで来たのだった。
「あそこに立っている奴が向こうに行ったら、ここから出るわよ」
扉の向こう側に立っているラビー族を顎でしゃくって、俺たちに指示するユティナ。
幸いにも海は穏やかなようで、小舟で海へ出ても問題はなさそうだ。
みんながコクンと頷いた、その時だ。
「モッモ、今どこだぁ~?」
「あ???」
耳元で、間抜けなカービィの声が聞こえた。
「か、カービィ?」
「お、通じたか! 良かった良かった!! で、今どこだ???」
「そ、それがぁ……」
「何一人で喋ってんのよ!? 黙りなさいよっ!!?」
ひぃっ!? 怖いっ!!
案の定、どこからどう見ても独り言を言っているようにしか見えない俺に対して、ユティナが睨みを利かせてきた。
「ユティナ、モッモ君は今、ヒーの仲間と魔道具で連絡を取り合っているのだ。しばし待ってあげてくれ♪」
サカピョンの言葉に、「はぁ!?」と言いつつも、ユティナは黙った。
ありがとうサカピョン!!!
「どうした? やっぱりなんかあったか??」
「あ、カービィ、実は……。かくかくしかじかで~、今その、大きな船で、海の上なんだよ」
「おぉ、マジか……。いや実はな、さっき宿屋のリルミユさんが部屋にやって来て、海で助けを呼ぶ者が大勢いるっ! とか騒ぎ出してな。あの人があんなに騒ぐの初めてだから、もしかしてと思って……。グレコさんはそれ聞いて、血相変えてすぐさま宿を飛び出して行って、今町中を探し回っているはずだ。ギンロも……。けど、ははは、海の上かぁ~」
なるほど、リルミユさんが……、って、笑うところじゃねぇだろカービィおいっ!
仲間が一人拉致されてるんだぞっ!?
笑ってないで、君も町中を探したまえよっ!!?
「まぁ、でも安心して。サカピョンとユティナと、あとフェイアさんも一緒で、今から逃げるところだから」
「そうかそうか。でも……、リルミユさんが大勢って言ってたけど……、ん? あ?? あ、ちょっと、後でまた連絡するわ!」
「えっ!? カービィ!?? ……お~い?」
話の途中で、絆の耳飾りの使用をやめてしまったらしいカービィは、言葉を返してこなかった。
おいおいおい……
うん、まぁ、いいよ、何とかして逃げるからっ!
「終わったの?」
ギロリと俺を睨むユティナ。
あぁぁっ!? そんな目で見ないで、石化しちゃうぅっ!??
「お、終わりましたです、はい!」
「ったく、今更あんたがいない事に気付いたのねあいつら。小さいからわかんなかったのかしら?」
ぐ、ぐぬぬ……
そんな事言わなくてもいいじゃないかっ!?
「さ、行くわよ。船の端まで走るから、遅れないように!」
ユティナはそう言って、そっと扉を開いた。
辺りに敵がいない事を確認して、サササッ! と甲板に出る俺たち。
そして、みんなでダーシュッ!! しようとしたのだが……
「そこまでだな」
何者かに声を掛けられて、ピタッ! と動きを止める俺たち。
ゆっくりと振り返るとそこには……
「あ、あの眼鏡野郎……」
国営軍の駐屯所で、何やら俺に対して失礼こきまくりだった、あの白い眼鏡のラビー族が、茶色のラビー族達数名を従えて立っていた。
なんであいつが……?
あ、でも確かあいつ、ブーゼ伯爵の息子とか何とか言ってたっけ??
確か名前は……、名前はぁ~???
ぬ~ん、思い出せないっ!!!
「くっ、見つかちゃった……。どうするサカピョン?」
「ふむ、しばし待とう。何やらヒーが話したそうだ」
動きを止めて、相手の様子を伺う俺たちを、ニヤニヤとした表情で見てくる、むっちりすけべな眼鏡野郎。
……頼む、名乗ってくれ、名前がわからん。
「久しぶりだなサカティス・クラビィア。まさかこの私と、このような場所で出会えるとは思ってもみなかったでしょう?」
いいから、早く名乗れ。
「……ユーは誰だ?」
首を傾げるサカピョン。
「なっ!? 私を覚えていないっ!?? はははははっ!!! 冗談はおよしなさいっ!!!!」
笑ってないで、早く名乗れって。
「いや、すまないが……。ミーはユーと会った事などない」
ますます首を傾げるサカピョン。
「なにぃっ!? この私を忘れたのかっ!?? 私だっ!! モントリア国営学校で同じクラスだった!!! 座席がずっと隣だった私だぞっ!!???」
……ねぇ、名乗ってってばさ。
「……あぁ! なるほど!! ユーは確か……、リービアだな♪」
ピコーン! と閃いたような顔でにこやかにそう言ったサカピョンだったが……
「ちっがぁ~うぅっ! 私はターク・ブーゼ!! ちびっ子眼鏡のターク・ブーゼだぁあぁぁっ!!!」
あ、そうそう、ターク・ブーゼだ!
やっと思い出したわ~。
頭の血管が切れそうなほどに憤慨するタークを他所に、サカピョンは再度首をひねって……
「ふむ……。そのような名の者は、ミーは知らん♪」
爽やかな笑顔で、タークを全面拒否したサカピョン。
ピシッ! と、石化したかのようなタークが、なんだかとっても哀れに見える。
……てか、ちびっ子眼鏡って。
さぞ虐められたんだろうな可哀想に。
わなわなと震えるターク。
そして、キッ! と、ものすご~く悔しそうな顔でこちらを睨んだ。
「許さん……、許さんぞ……。お前たち、あいつらを海の藻屑にしてやれぇっ!!」
えぇっ!? 何でそうなるのっ!??
こちらに向かって走り出す茶色のラビー族たち。
手には先端に棘が沢山ついている、棍棒のような武器を持っている。
きゃあっ!? こっちに来るぅっ!??
慌ててユティナの後ろに隠れる俺。
「あ~もうっ! 面倒くさいっ!!」
ユティナは背負っていた斧を振り下ろし、ラビー族に向かって構えた。
サカピョンは、いつの間にか、何処からかバイオリンを取り出して、何やら演奏する気満々だ。
そんな二人の後ろでガタガタと震える俺と、不安気なフェイア。
いきなり戦闘開始ですかぁっ!??
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