149:呪いを解く方法

「ほっ、本当にっ!? お前、本当にピグモルなのかぁっ!??」


派手にワサワサと慌てるモーン。


「あ~、だぁ~、まぁ……。そうだけど、内緒だぞ?」


カービィが、口元に人差し指を立てたポーズで、コソッと告げた。


「な、なんと……。なんと真か……」


もはや、珍獣を見るかのような目で俺を見つめるモーン。

手足が小刻みに震えていて、ショック死しないか心配になるほどに愕然としている。


「確かにモッモはピグモルだけど、それを証明するものはないし、何より他人に言っても信じないでしょうけど……。一つだけ、約束して貰うわよ?」


ずいっと前に出て、モーンの顔を覗き込むグレコ。


「このモッモがピグモルであると言うことは、絶対に他言無用! もし万が一、誰かにバラしたりしたら、命はないと思ってちょうだい」


そう言って、グレコは親指でギンロを指した。

なるほど、モーンがバラしたら、ギンロが制裁を加えると言いたいわけですな。

……当のギンロはきょとんとしてるけどね。


「なっ!? ぐっ……、わ、わかった……」


モーンは、何か言おうとしていたのをグッと飲み込んで、首を縦に振った。


カランカラン


背後で乾いた鐘の音がして、先ほど来た客が帰っていったようだ。

無理もない、店主が輩に絡まれていると思われてもおかしくない構図だからね。

特にギンロは、そこに居るだけでなかなかに迫力あるからねぇ。


「わかってくれたのなら結構よ。じゃあ……、このルーリ・ビーの買取額を教えてくださいな」


「あ、そ、そうだったな……、え~っと……、そうだそうだ、思い出したぞ。このルーリ・ビーは、何故こうなっておるのだ? 見たところ、死んでるわけではなさそうだが……、呪いをかけたと言ったか??」


え? あ、石化の呪いって死んだわけではないのか。


「うむ。モッモの持っておる呪いの杖で石化させたのだ」


万呪の枝の事を呪いの杖って……

まぁ、ギンロがそう思っても仕方ないか、かなりの威力だもんね。


「なるほど石化か……。ならば、呪いを解く事は出来るのかね?」


……呪いを、解く??


「それは……、わかりません」


そう、俺にはわからない。

だいたいが、この万呪の枝は、テトーンの樹の村のピグモルの長老から、自由の剣、などという大層な名前で譲って貰った物なのだ。

呪いがかけられるって事も最初は知らなかったわけで……

これまで、思いつくままに、呪いをかけるだけかけて来たけど、解く方法なんて考えた事もなかったな。


「そうか、わからぬか……」


残念そうな顔をするモーン。


「石化の呪いがかかっていると売れないのかしら?」


グレコが尋ねる。


「いやいや、このままでもかなり価値のある物だから、買わせては貰うぞ。このように生きたままで石化した、世にも珍しいルーリ・ビーなど他にはないからな。愛好家がさぞ喜ぶはずだ!」


……それは、虫愛好家? それとも、石化愛好家??


「けどあれか、呪いが解けて、生きて動けるルーリ・ビーの方が価値があるってことか?」


カービィが尋ねた。


「その通りだ。このままでも高値で売れるが、生きたルーリ・ビーなどそうそうお目にかかれるもんではないからな。特に研究者ならば、生態を観察するためにも生きた物を欲するはず……。愛好家も金を落とすが、研究者の方が金を惜しまないからなぁ~」


なるほど、そういう事ね。


「しかしまぁ、今回ばかりは仕方ない。呪いを解く方法を探して来てくれるのであれば、買い取った後でしばらくこのまま吾輩が保管しておくが……、どうする?」


ほほう、そんな事も可能なのですな?


「あ、じゃあそうして貰うか? もし呪いが解けたら、上乗せで代金が貰えるって事だよな??」


「もちろん、そうさせて頂こう! こっちの、女王蜂の方はこのまま売る事になるな、もう事切れてる。しかし、保存状態がとても良い。きっと高値で売れるさ。蜂蜜も、量を計らせてもらって、キチンと支払いをさせて貰うぞ!!」


「わかったわ、じゃあ……、とりあえず見積もって貰えるかしら?」


「あいわかった。では、そちらの椅子に腰掛けて、しばし待たれよ」


そう言って、モーンが指差したのは、部屋の隅に転がって居る不気味な頭部。

ちょうど四つあるそれは、獣人ではなく人に近い……、けれど人より数倍醜い顔の化け物だ。

まさか本物の生首ではないと思うけど、さすがにこんな物に腰掛けるわけには……


「よいしょっと……。ふ~、一時はどうなる事かと思ったぜ~」


おいカービィ、普通に腰掛けてるんじゃねぇよ。


「そうね。でもまぁ、買い取って貰えるんだから良かったわ」


あぁ、グレコまで……

ねぇ~座らない方がいいんじゃない? 呪われない??


ギンロは座らないよね? と、ちらりと横目で見る俺。

どうやらギンロは、あの禍々しい黒い鎧に興味があるようで、しげしげと眺めている。

……うん、それは装備しない方がいいと思うぞ、それこそ絶対に呪われるから!


しかしまぁ、呪いを解く方法かぁ~。

そんなの、どうやって探せばいいんだろう?

そもそも、この万呪の枝は誰が作って、どうして長老が持っていたのだろう??

確か、ピグモルを絶滅の危機から救ってくれた魔法使い様って奴から貰った物のはずだけど……

その魔法使いが誰なのかも、俺は知らないしなぁ~。

モーンは、とりあえず買い取ってくれるみたいだけど、売らずに保管しておいて貰うにも、あんまり長期間になると悪いし……

う~む、どうするべきか……


「数はこれだけなのかね? もっとあるのかね??」


「あ、あります! 沢山あります!!」


モーンの言葉に、ガサガサと急いで鞄を漁る俺。

鞄の中には、何十……、いや、何百といった数の石化したルーリ・ビーが入っている。


サワサワサワ


うへぇっ!? 気持ち悪いっ!!

これ、全部俺が出すの?

一匹ずつ、全部……、触って、出すの??


触れる毎に、ルーリ・ビーの体に生えている細かな毛が、俺の柔い手のひらをサワサワと刺激する。


あふんっ!? 気持ち悪いぃっ!!!

もうっ! 誰か手伝ってよぅっ!!


だけど、みんな知らんぷりだ。

たぶん、この作業をするのが嫌なのだろう、目も合わせてくれない。

それに、鞄の口が狭いこともあって、この作業はみんなですると返って時間がかかりそうだ。

でも……


ううぅ~、なんで俺だけぇっ!???


なんとも言えない憤りを感じつつ、一心不乱にルーリ・ビーを鞄の外へ出す俺。

出来るだけ毛に触れないよう心掛けて、出来るだけスピーディーに事を成す。


そこからしばらくの間、その作業に必死だった俺は、店の外から俺たちを見ていた怪しい奴に気付くことが出来なかった。

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