143:グルグルして呪われちゃいなさい! 作戦

『いい? あたしが旋風を起こすから、奴らがそれに手間取っている間に、モッモちゃんが呪いをかけるのよ?? そしてギンロちゃんは、あたしの旋風を運良く抜け出してしまった奴を退治すること!!』


「オッケー、わかった!」


「うむ、承知した!」


……なぜ、リーシェがこの場を取り仕切っているのかは謎だが、おそらく十五歳の俺やギンロよりは年上だろうと思うので、静かに従う俺たち。


『ルーリ・ビーのお尻の針は毒こそないけれど、刺されればそれなりに痛いし幹部が腫れるって噂だからね、心してかかりなさいよ!』


「マジか!? 了解っ!!」


「うむ、心得たっ!!」


少し日が傾き始めた林の中で、徐々に近付いてくるブンブンという羽音に耳を澄ませながら、俺たちは身構える。

プラト・ジャコールとは違って、ルーリ・ビーは小さく、数が多くて、呪いをかけようにも対象がなかなか定まらないだろうということで、リーシェが先ほどの作戦を立ててくれたのだ。

題して、グルグルして呪われちゃいなさい! 作戦であるっ!!


ブンブン、ブンブンブンブン


攻め入るはおよそ数百のルーリ・ビー。

迎え撃つはリーシェ率いる俺とギンロの三人パーティー。

さぁ! 勝負の行方や如何にっ!?


『いくわよぉっ! そぉ~れっ!!』


リーシェは掛け声と共に、俺たちのはるか頭上へと舞い上がり、薄ピンク色の半透明の腕を頭の上でグルグルと回して大きな渦巻き状の風を作り出し、その風で俺たち二人をすっぽりと覆った。

それはまるで、竜巻のど真ん中に入ったような感覚だ。

周りをグルグルと、大きな風が激しく流れる。

しかし、中には優しい風が吹き抜けて、俺とギンロの体毛をファサファサと揺らした。


ブンブンブンブン、ブンブンブンブンブンブン!


目があまり良くないらしいルーリ・ビーは、リーシェの作り出した旋風の存在に気付かずに、真正面から突っ込んで来た。

そして、風に身をさらわれて、俺とギンロの周りをぐるぐると回り始めたのだ。


……くっ、目で追ってはいけないな、こっちの目が回るっ!!


出来るだけ、前方のみを見つめる俺。


『モッモちゃん、呪いをかけて!』


「ガッテン承知の助っ!!」


リーシェの合図で、構えていた万呪の枝を流れる風の中にいるルーリ・ビーたちに向ける。

今回かけるのは石化の呪いだ。

本当に石になるかどうかは分からないけど、動きを止める方法がそれしか思いつかなかったのだ。


「石になぁ~れっ!!!」


言葉に出し、強く念じて、万呪の枝を振るう俺。

すると次第に、旋風の中を流れていたルーリ・ビーたちは、羽を動かすのをやめていった。

そして、リーシェの心配を他所に、旋風を逃れられるルーリ・ビーなどただの一匹もいないままに、全てのルーリ・ビーが羽ばたきをやめて、動きを止めた。


「……うむ、羽音が止んでいる。リーシェ殿、もう良いぞっ!」


ギンロの言葉に、リーシェは作り出した旋風を、すーっと吸い込んで一瞬で消し去った。

それと同時に、ボトボトボト! という鈍い音を立てて、周りを囲んでいたはずのルーリ・ビーの大群は、その体がまるで石になったかのように固まって、次々と地面に落ちていく。

体の色、その鮮やかな青はそのままに、足の一本も動かさないルーリ・ビーたちは、確かに石化の呪いにかかっていた。


「おぉ! やったぞモッモ!!」


「ふぅっ! 良かったぁっ!!」


パチーン!!


安堵と達成感から、俺とギンロはハイタッチをした。

ハイタッチの習慣がこの世界に、ましてや魔獣フェンリルの習慣の中にあるかどうかは全く分からないけれど、俺が小さな手をさし出すと、ギンロはそれに応じてくれた。


よしっ! とにかく、ちょっと脱線気味ではあるけれども、ミッションコンプリートだぜっ!!


『なんとか上手くいったようね♪ それじゃあモッモちゃん、ギンロちゃん、またね~♪]


役目を終えたリーシェは、まだ青い空へとスーッと飛んで行った。


「ふむ、では……。下に落ちたルーリ・ビーを拾い集め、先ほどの巣を探そうぞ」


「オッケー♪ あ、でも……、ちょっと気持ち悪いね」


石化の呪いをかけられて、光を失ったルーリ・ビーたちのレンズ目を見て、ボソッと呟く俺。

良く見ると、青いその体には細かい産毛が沢山生えていたり、手足が節くれ立っててトゲトゲしていたりと、なかなかに気持ち悪い。

それに、お尻の針が不意に手に刺さりそうな気がして、怖い……


「仕方あるまい。もしや金になるかも知れぬのだ、背に腹はかえられぬぞ」


膝を折り、せっせと地面に落ちたルーリ・ビーたちを拾い始めるギンロ。


……うん、なんて言うか、ちょっと尊敬するよ。

同い年だっていうのに、肝が座っているというか、真面目というか。

……よし、俺も頑張って拾うぞ!

そぉ~っと触れば大丈夫、大丈夫、大丈夫。


ピトッ


「ひぃ~!?」


指先に触れたルーリ・ビーの細かい産毛に、俺は思わず小さく悲鳴を上げた。

しかし、ギンロはそんな俺には目もくれず、一心不乱にルーリ・ビーを拾い集めている。


くぅっ! 俺とギンロは同い年なんだ!!

戦闘能力ではかなり俺が劣るけど、気持ちで負けてはいけないのだ!!!


俺は、死んだ虫を拾い集める、というなんとも言えない気持ち悪さを我慢しつつ、ルーリ・ビーを拾い集め始めた。


大丈夫! 大丈夫!! だい、気持ち悪っ!!!


負けないぞ! 負けないぞ!! 負けないぞ!!!


これが俺の戦いだっ!!!

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