142:ルーリ・ビー

ブブブンブンッ! ブブブンブンッ!!

ブブブンブブンブ、ブブブンブンッ!!!


まるで、どこぞの暴走族がバイクをふかしているかのような音を立てて、迫り来る青い蜂の群れ。


「いやぁあぁぁ~! たっ!? ふぎゅんっ!!!」


「モッモ! 立てっ!! 走れっ!!!」


足場の悪い林の中で、俺は幾度となく転び、その度にギンロに助け起こされ叱責される。

しかし、もはや体力などカケラも残っていない俺は、目の前が朦朧とし始める。

いったい、今、何故走っているのかさえも忘れそうなくらいに、頭がクラクラしているのだ。


ううぅ~、休んでいる間に水の一杯でも飲んでおくんだった!


ブブブンブンッ! ブブブンブンッ!!

ブブブブブンブン、ブンブブブンッ!!!


「あ、あいつら……、どこ、どこまで追って、くっ、るっ、来るつもり……、なんだぁ?」


必死に足を動かしながら、息も絶え絶えに話す俺。


「分からぬが、相当な執念……。止まれば命はないぞ!」


きゃ~!?

死因が蜂に刺されたからだなんて、不幸すぎるぅっ!!

俺の冒険はまだ始まったばっかりなのにぃっ!!!


「モッモ、何か良い道具はないのか!?」


「そ、そんな……、そんなこと、いっ、言ってもぉ~」


俺は未来から来た猫型ロボットじゃないんだよっ!

そんな都合よく、あんな蜂の大群を倒せる道具を持ってるわけないだろうがっ!!

ギンロてめぇ、次からギン太くんって呼ぶぞこのぉっ!!!


しかし、もうこれ以上逃げ回る事は不可能だ。

呼吸がすっごく苦しいし、足がもつれてまたいつ転んでもおかしくない。

一か八か、助けを求めるしかない!


「りっ! リーシェえぇぇ!!」


空に向かって、あらん限りの声を張り上げる俺。


『はぁ~い♪ あらモッモちゃん! 今回もまた派手にピンチね? キャハ♪』


半透明の薄ピンク色の体をふわりと宙に浮かせながら、風の精霊シルフのリーシェが、走り続ける俺の頭上に現れた。


キャハ♪ じゃねぇよっ!

ピンチだって見てわかるなら、何でもいいから助けてくれよっ!!


「たっ! 助けっ!! リーシェ、助けてっ!!!」


もう、細かく何かを考えて指示できるような余裕は今の俺にはない。

体を動かす事に精一杯で、もはや酸素が脳まで送られてないのだ。

とりあえず、何でも良いから、助けてリーシェ!!!


『仕方ないわねぇ~。でも、余裕がない男っていうのも悪くなくてよ?』


何言ってんだこの野郎っ!

ニヤニヤしてるんじゃないよっ!!

やっぱり、ドSのリーシェを呼んだのが間違いだったかっ!!?


「リーシェ殿、頼む、何とかしてくれまいか?」


隣を走るギンロは、息が上がっているわけでもなく、大して疲れてなさそうな顔でリーシェに話し掛ける。


『うふ♪ 強い男に頼られるのって凄く快感♪』


はぁ~? そんなのいいからさぁっ!?

早く! 早く助けてってばよぉっ!!


『じゃあ、あいつら遠くまで吹き飛ばすわね? いくわよ、せーのっ! フゥウゥゥ~!!!』


リーシェは、大きな風を生み出して、背後に迫る蜂の群れへと吹き付けた。

すると、その風に抵抗できない小さな蜂たちは、途端に陣形を崩し、林の中をビュー! っと遠くへ飛ばされていった。


「はぁ、はぁ、はぁ……。た、助かったぁ~」


ようやく足を止めることのできた俺は、座ることも出来ずに、その場に立ち尽くし、大きく深呼吸をする。


「なんとかまいたようだな。恩に切る、リーシェ殿」


深々と頭を下げるギンロ。


『ん~? でもぉ、あいつらまたやって来そうよ?? ほら、羽音が聞こえるでしょう???』


リーシェに言われて、耳を澄ませる俺とギンロ。


……あ~、うん、確かに。

離れた場所でブンブンいうとるわ!

それが、どんどん近づいて来ているわ!!


「ど、どうしよう……、はぁはぁ……」


『とにかく、私の力じゃ無理でしょうね。もっと遠くに飛ばすとしても、あいつら諦めなさそうよ? モッモちゃん、いったい何しでかしちゃったのぉ??』


くぅ……、だから! ニヤニヤしてるんじゃないよっ!!


『あれ、ルーリ・ビーでしょ? かなり珍しい魔物ね。こんな所にいるだなんて思わなかったわ』


「ルーリ・ビー? なんだそれは??」


『あら? 知らなかったの?? てっきり、ルーリ・ビーの幻の蜂蜜を取ろうとして追いかけられているのかと思ったのに。違うのに追いかけられていたの??? ……くすっ♪』


……くっ、馬鹿にしたように笑ったな?


「ほぅ、あの蜂は珍しいのか……。モッモよ、あの蜂と蜂の巣、我らで捕獲せぬか?」


おお? どうしたギンロ??


「な、なんで?」


「うむ、先刻グレコと二人で街に繰り出していた折に、万物屋ばんぶつやという不思議な店を見つけてな。興味本位で入ってみたところ、店の主人としばし話をして、世界を旅するのであれば、珍しい物を見つけて持って来てくれれば買い取ると言われたのだ。見た所、モッモ……、お主、金に困っておるのだろ?」


「うおっ!? 何故それをっ!??」


「我を侮るな。グレコは気付いてないようだが、我の耳にはお主とカービィのコソコソとした声が届いておったぞ」


な、なるほど、そういうことか……


「グレコにばれぬように大金を求めるのであれば、あのルーリ・ビーを万物屋の店主に売れば良い。珍しい蜂なのであろ?」


『そうね、絶滅危惧種とかそういうのではないけれど、生息地がハッキリしていないし、ルーリ・ビーの作り出す蜂蜜は絶品だから、きっと高く売れるはずよ♪』


ふむ、それをみすみす逃す手はないな。

万物屋というのがどんな店かは分からないけど、買ってくれるのならば有難いし。

仮に、買ってくれなくて、とった蜂蜜が無駄になったとしても、絶品なら自分たちで味わえばいい!

いやむしろ、絶品なら自分たちで食べたいっ!!


だがしかし……


「どうやって、蜂蜜を手に入れるつもり? すっごくブンブンいってたじゃない?? 近付いたりしたら、それこそ刺されるよ???」


「……火は駄目であろう、周りに燃え移る。風で吹き飛ばしても戻ってくる、水責めは蜂蜜を駄目にし兼ねぬし、となると……。やはりモッモ、お主の呪いで対処してはどうだ? 動きを止めるとか……。混乱はやめておけ、厄介だ」


お、おぉ、なるほど呪いか。

確かに、それなら何とかなりそう。

……てか、混乱の呪いが厄介だって気付いていたのねギンロ。

だったらさ、プラト・ジャコールの時も、もうちょいやり方変えれば良かったよね? ねっ!?


しかしまぁ、今回、万呪の枝は本当に大活躍だな。

改めて、ピグモルの長老には感謝だぜ!

自由の剣とか言って、ただの木の棒じゃねえか、なんて罵っていた過去の自分を反省します、ペコリ。

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