105:また見落としていた……
「あ……、ねぇ、あそこじゃないかな?」
俺が指差す先にあるのは、とても村とは言えないような光景。
より密集している数本の木々の上に、何かの植物の蔓で作ったのだろう、真ん丸な、大きな鳥の巣のようなものが多数ある。
バーバー族の家なのだろうそれらは、ほぼほぼ球型で、出入口であろう穴が一つだけ空いているだけで、窓とか煙突などは見当たらない。
というか、バーバー族の体と比較して考えてみると、あれは家と言うよりかはただの寝床だな、中はそれくらいのスペースしかないはずだ。
「おかしい……。村に着いたと言うのに、バーバー族たちはどこにおるのだ?」
「そう言えばそうね、一匹も見当たらないわ」
「みんな隠れているんじゃねぇか? おいらが家の中を覗いて来てやるよ!」
カービィが、よじよじと木に登り始める。
ほんと、なかなかの行動力だよね、カービィやい。
俺なら怖くて、そんな役は絶対に買って出ないぞ。
「ん~、中にはなんもいねぇぞ~。他のも見てみる~」
器用に木の枝を伝って、幾つかの家を見て回るカービィ。
しかし、そのどれにも、バーバー族は見つからなかった。
「ねぇ、本当にここなの?」
「ん~、たぶんそうだと思うんだけどなぁ……。ほら、金の針がクルクル回ってる」
望みの羅針盤の金色の針は、ここが目的地だよ! と言わんばかりに、先程からずっと回り続けているのだ。
「ふむ……。おい、お主、起きているのだろう? 仲間は何処におるのだ??」
ギンロは、背中に背負ったままのバーバー族に尋ねる。
先程、グレコに尋問された奴のみ起きていて、あとはまだスヤスヤと寝ている。
起こしてやらないと、永遠に寝てるんじゃないだろうなぁ、こいつら……
「なかまは、いない。これで、ぜんぶだ」
少し悲しそうな顔をするバーバー族。
「これで全部って……、十一、十二、十三……、十四匹しかいないじゃない? ちょっと、少な過ぎない??」
「おいおい、それは本当か??」
全ての家の中を探し終えて、地面に下りたカービィが、血相を変えて近寄って来た。
珍しく、まともなお顔をしてらっしゃるな。
「なかま、くわれた。みんな、くわれた。だから、かたきをとる。だから、やりがひつよう。かえせぬ、かえせぬ……」
なるほど、そういうことだったのかぁ。
わざわざ崖の上の村まで行って、体の何倍もある槍を持ち帰ったのは、仲間の仇をとるためだったんだな……
「ぬ、カービィ、どうした?」
ギンロの言葉に、カービィを見ると、どこから出して来たのか知らないが、自分の体よりも大きくて分厚い本を開き、何やら真剣な眼差しで読んでいる。
「なぁにそれ? ……うっわ、何これ凄いわね」
驚くグレコにつられて、俺とギンロもそれを覗く。
開かれたそのページには、バーバー族に関する膨大な情報が、事細かに書き込まれていた。
バーバー族の姿絵付きで、体の部位の名称、それぞれの内臓の位置、生息地、その生態、現存する個体数まで書かれている。
しかし……
「やっぱり……、昨年の資料によると、個体数は五百を超えている。なのに今は、たったの十四体。いったい、おまいたちに何があったんだ?」
カービィの問い掛けに、未だ縛られたままの状態のバーバー族は、涙を流して俯いた。
俺たちは、バーバー族たちを縛っていた縄を解く。
ペチペチと青い頬を叩いて、次々とバーバー族たちを起こしていく。
「ぬぎゃっ!? なにやつっ!??」
「そとのものっ!? かくごっ!! かくごっ!!!」
ギャーギャー騒ぐバーバー族たち。
彼らに対し、最初に目覚めてグレコに尋問されたバーバー族が、事の経緯を説明した。
盗んではいけない物を自分たちは盗んだ、悪いのは自分たちなのだ、と……
それを聞いて、シュンとするバーバー族たち。
どうやら、槍を盗んだことを反省しているようだ。
うん、考え方が案外まともで良かった。
もっと、原始人的な考え方で、目的のためなら手段は選ばないぞぉ! って感じだったら面倒臭かっただろう。
「われは、なを、タウ。われらのかみ、われらのことを、くった。すこしまえから、くいはじめた。みんな、かみにくわれた」
タウと名乗ったバーバー族は、仲間はみんな、神に喰われたと言った。
「神? 神って、何の神様?? この森の土地神とか???」
「いや、おそらくタウが言っているのは、【
ほう、せきえきしん……
難しいし、言い辛いし、聞いてもその名前がトカゲの神様だなんて、パッとは思い浮かばないな。
そういや、こないだ倒したカマーリスも、なんとか神だったよなぁ……
ん? あれ?? なんか、引っかかるぞ???
俺は、鞄から世界地図を取り出して、改めて現在地を見る。
白い光が点滅しているのは、オーベリー村の北東。
そして、その光の近くに、黄色に輝く光が一つ。
黄色の光、それ即ち、神の光なり。
あ……、やっべぇ、また見落としてた……
えっと、この場合……、この光はおそらくそのトカゲの神様だから、だとしたら~。
「じゃあ、その蜥蜴神ってやつ、邪神に堕ちているのかも知れないわね」
……うん、グレコ、俺もたった今、そう思っていたところ。
「カマーリスに続き、蜥蜴神までもが邪神に堕ちるとは……」
「カマーリスってのはなんだ?」
ギンロの言葉に、疑問を呈するカービィ。
グレコが、余計な事を言わないでよ! といった目でギンロを見る。
「うむ……、以前その……。蟷螂神カマリリスという者が、邪神に堕ちてカマーリスとなり、彼の地を支配していた……、と、風の噂で聞いたのだ」
おお、上手い事かわしたな、ギンロ!
「なるほどな……。で、タウ。おまいさんらもしかして、その蜥蜴神を倒すために、槍を盗んだのか?」
えっ!? あ、でも、そうか……
え、でも、自分たちの神様なのに??
いやでも、仲間が喰われたとなると、神様とか言ってられないよな。
「われら……、いきたい。いきるため、かみはひつようない。われらは、いきたい!」
タウの言葉、バーバー族みんなのその大きな瞳には、固い決意の炎が宿っていた。
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