98:防具屋

夜が来た。

俺たちは、デルグの家の二階の空き部屋を借りて、就寝する事となった。

本来ここは、カービィのための部屋なのだそうで、ベッドが一つしかなく、争奪戦になるかと思ったのだが……


「ここはレディーファーストで……、グレコさん、どうぞ」


昼間の発言の挽回を図っているのか、もともと紳士なのかは分からないが、カービィのその一言でベッドはグレコのものとなった。

つまり、残りの男三人は、固い木の床にシーツを敷いた場所にて、雑魚寝である。


ふぅ……、さてさて、今夜は眠れるだろうか?

 疲れているから、目を閉じたらすぐに眠れそうだな~。


 そんな事を考えながら、チラリと視線を部屋の壁へと向ける俺。

 そこには真新しい服が二着かかっている。

 一つは小さくて、一つはとても大きい。

 つまりそれらは、俺の服とギンロの服である。

 昼間、カービィと一緒に町へ繰り出して、冒険の為の服を新調したのだが……


やっぱり、他の服にすれば良かったかなぁ?

 あれ、着たく無いな……


 壁にかけられた小さな服を見つめながら、明日からそれを着る自分を想像して、俺はちょっぴり後悔していた。









今日のお昼前のこと。


オーベリー村の東側にあるという迷いの森は、断崖絶壁の先、ここより300メートルほど標高が低い場所にあるので、昼を過ぎると太陽が当たらずに、森全体が薄暗く、日の入り前の夕方頃には真っ暗になってしまうらしい。

なので、森を探索するのならば、明日の朝一番から出掛けようということになった。


「とりあえず、あの森に入るのなら、生半可な装備じゃダメだ。グレコさんはいいとして、ギンロさんは服がボロボロだし、モッモさんは……、ローブはいいとしても、下はなんでお洒落着なんだ? 森に入るには不向きだし、何より汚したくねぇんじゃねぇか?? とにかく、それじゃあ心配だ。村の防具屋にもうちょいマシな服があるだろうから、おいらと一緒に買いに行こう!」


ということで、グレコをデルグの家に残し、カービィに連れられて、俺とギンロはお買い物へ繰り出した。

広い高原ベリーの畑を横切り、沢山のマーゲイ族が行き交う通りを抜けて、村の防具屋へと向かう。


昨日は周りをキョロキョロするのに必死で、上なんて全然見ていなかったから気付かなかったけど、どうやらこの村には平屋しかないようだ。

煉瓦造で大きいから、勝手に二階建てだと思っていたのだが……


「この村には、そこまでの技術がねぇんだ。それに、土地が広いからな、わざわざ危険な二階建てにする必要がねぇ」


 カービィがそう説明してくれた。


「ふむ……。ならば、デルグ殿の家はどうなのだ? 我には、上の階があるように見えたが……??」


「あ~うん、デルグの家には二階があるな。おいらが住むって言って、後から無理矢理造ったんだよ、なははは!」


うん、強引な性格は生まれつきのようだね、カービィ君。


そんな事を話しながら、村を行くこと数分。

 カービィに案内されてやってきた村の防具屋には、皮の鎧や帽子、鉄の盾や兜、ブーツに手袋など、なんだかどこかで見た事があるような、馴染みのある装備品がズラリと並んでいた。


おおおぉっ!?

 めっちゃ防具屋って感じだなおいっ!

 しかも、初期村の防具屋って感じっ!!

 レベル1~10ほどの駆け出し冒険者が、こぞって買い揃えるような、RPGには欠かせない初期装備がい〜っぱいっ!!!


前世の記憶の中にある、楽しいゲームの世界にあったそれらを思い出し、テンションが急上昇する俺。

 店内をちょこまかと動き回り、いろいろと見て回った。


なんだろうな……、思っていたよりも全部、防御力高そうじゃね?


そう、ゲームの中だと初期装備すぎて、すぐさま次の装備品に買い換えてしまうような皮の鎧や帽子なのだが、実際に目にしてみると、かなり防御力が高いものに見えるのだ。

皮の分厚さはおよそ3センチほどあるし、繋ぎ目はちゃんと金具で固定されているし、表面には水避け用だろう脂が塗り込まれて、テカテカと光っている。

こうやって見てみると、鉄の兜の方が薄っぺらいし、錆びる可能性があるので雨にも弱そうだ。


まさか、皮の装備品がここまで有能な物に見えるとは……、やはり、ゲームとリアルとは、違うものなのであ〜る。

ただ残念ながら、どれもこれも俺の体には大き過ぎるので、すぐさま装備しようと思うと無理だなこりゃ。


そんな事を考えながら、店内を物色していると、少し離れた所にいたカービィに呼ばれた。

どうやら先に、ギンロが装備品を試着していたらしく、カービィの隣にはなんともカッコいい衣服に身を包んだギンロが立っている。


「何それっ!? かっけぇえぇぇっ!!」


全身を、長袖長ズボンの、藍色の武道着のようなものに身を包んだギンロは、なんだかとっても戦えそうっ!

いや、実際にギンロはとても強いから、戦えそうっていう表現はおかしいのかも知れないけれど……

お腹辺りに太くて丈夫そうな黒い帯を巻いていて、それがまたよりカッコいい!!

なんだかとっても、強そうっ!!!


「いいだろぉ〜? 商品名は、その名も疾風の道着! 武道や剣を扱う者にはピッタリの装備品さ!! 生地にはセガール牛の毛が織り込まれているから、薄さに反して丈夫だし暖かい。何より軽くて動きやすいし、上にマントを羽織ったとしてもさほどかさばらない。森を行くには最適の防具だ!!!」


ギンロの隣に立って寸法を測っている、防具屋の店主であろうマーゲイ族のおじさんが、鼻高々と説明してくれた。


「ふむ、確かに生地もよく、先ほどまでの物よりかは随分軽いな」


どうやらギンロも気に入ったようだ。


「今週入荷したばかりの新作で、本来なら10000センスは欲しいんだが……、カービィちゃんの知り合いだからね。9900センスでどうだっ!?」


え~っと……

宿代が一人200センスで、朝食は四人で3000センス越えだったから……

 防具に9900センスは高いのか安いの、俺には分からないな、うん。


腕組みをして考える俺と、同じく相場がわからないギンロは押し黙る。

その様子を、渋っていると受け取ったのだろうおじさんは……


「仕方ないなぁ……。ならば、去年の商品にはなるが、新品の厚皮のブーツとグローブも付けるぞ!?」


お? 勝手におまけしてくれたぞ??

 ラッキー♪


「モッモ、買おうぞ」


「うん! それ、買いますっ!!」


「毎度ありぃ~♪ ちょっくら寸法を直すんでお待ちを……。お客さんも、何か装備品がいるなら遠慮なく見てくださいね~」


 針と糸を取り出して、ギンロが着たままの状態で、武道着の寸法を直し始めるおじさん。


「よし! じゃあ、次はモッモさんの装備品を選ぼう!!」


カービィにそう言われて、大きく何度も頷く俺。


俺も、カッコいい装備が欲しいっ!

どんなのがあるのかなぁっ!?


ワクドキ、ワクドキ♪


 ギンロをその場に残し、カービィと店内を見て回る俺。

 すると……


「これなんかどうだ?」


そう言って、カービィが持ってきたのは、上が真っ赤な長袖で、下が緑の長ズボンだった。


え? 何それ??

 なんか……、ダサくない???

上が赤で下が緑って……、いやいやいや……

 それ上下で着たら、完全クリスマスカラーになるじゃないか、絶対にやだよ。


 カービィの趣味の悪さに、あからさまに嫌な顔をする俺。

 だけど、せっかく選んでくれた手前、あんまりな事も言えないので……


「えっとぉ……、それは、何? 僕、その……。もうちょっと、落ち着いた色がいいなぁ〜」


 言葉を選びつつ、その服は嫌だと意思表示をした。

 しかし……


「これは子供用の武道着だ。生地や作り方はギンロさんのと全く同じだぞ。まぁ確かに、ちょいと色は派手だけど……。でも、性能は良いはずだ! 生憎、モッモさんに合うサイズのものは、この色しか残ってないみたいなんだなぁ。他にもあるっちゃあるけど……、鎧だと、森を歩くにはいささか不便だし、重いのは嫌だろ? まぁ、上にローブを羽織るから、そんなに見えないし、問題ねぇよ!!」


そう言って、ニッコリと笑うカービィ。

 そしてそのまま、上下でクリスマスカラーになってしまうその服を持って、ギンロと店主の元まで戻っていく。

 つまり、俺にその服を試着してみろと、そういう事なのだろうが……


くぅ~! 他人事だと思ってこの野郎っ!!

 そんな派手なクリスマスカラーの服なんざ、着たくねぇよぉっ!!!

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