42:エルフの隠れ里を、お散歩だぜぃっ!!

 エルフの隠れ里に着いてから、五日目の朝。

 いつものようにお姉さま方に優しく起こしてもらい、首に巻いていた包帯を外すと、そこにあったはずの傷は見事に完治していた。

 こう、歯型というか、穴が等間隔にいっぱい空いていたんだけど……、全部綺麗に塞がってる。

 噛まれてから数日しか経っていないというのに、いやに治りが早い。

 きっと、あの清血ポーションとかいう液体と、グレコが施してくれた治療のおかげだろう。


 グレコが使ったという、使ってはいけない力というのが何のことなのか、俺はまだ聞けていない。

 特に、体のどこかが変わったという意識はないのだが……、本当にグレコが言うように、不老になったのだろうか?

 正直なところ、何も実感出来ていないんだけど……

 まぁなんにせよ、傷が無事に治って良かった良かった。


 今日は、昼から巫女様に会う予定だ。

 砂浜で噛まれた時以来だから、ちょっぴり……、いや、かなり怖い。

 けどまぁ、グレコが一緒にいてくれるって言うし、なんとか大丈夫、かな? ……たぶん。


 午前中は、グレコに村を案内してもらう約束をしていた俺は、お姉さま方にご飯を(自分で食べられるのに!)食べさせてもらって、服を(自分で着替えられるのに!)着替えさせてもらう。


 言い忘れていたが、ここでお世話になっている間に着せてもらっている服はなんと、全部、俺の為にお姉さま方が作ってくれた特注品だ!

 エルフ使用のアンティークデザインのものを、俺の為だけに、ピグモルサイズに直してくれたのだ!!

 これはもう、一生の宝物にしますよぉっ!!!


 そんなエルフ紛いなお洒落ピグモルとなった俺を、グレコが迎えに来た。


「どこか行きたい場所はある? 村の中ならどこでも案内していいって、巫女様にお許しを貰っているから♪」


 おぉ~! やったぜっ!!

 ちょっと噛まれただけなのに、ほんとにラッキーだな俺ってば!!!


「えっとね~、じゃあねぇ~……、とりあえず、セシリアの森からどうやってこの里に繋がっているのか、それが知りたいっ!」


 そう、俺は、何よりも先に、このエルフの隠れ里の構造が知りたいのだ!

 目覚めた時にはもう、この美しい里のお屋敷にいたのだが、あの薄気味悪いセシリアの森と、あの湿っぽい地下牢と、あの砂浜と……、全くもって同じ里の中だとは思えず、どこがどう繋がっているのかが想像できずに、ずっと気になっていたのだ。

 お姉さま方に聞いても、教えていいのか分からなかったのだろう、話を濁されてばかりだったし……


「分かったわ。じゃあ、高台から見た方が分かり易いかもね」


 そう言って、グレコは開かれた部屋の扉の外へと、俺を誘う。


 イヤッホォーウ!

 エルフの隠れ里を、お散歩だぜぃっ!!








 道を歩く俺とグレコに、エルフたちは笑顔を向けてくれる。

 数日前に、あんなに恐ろしい目に遭ったのが嘘みたいだ。


 弓矢を後頭部に突き付けられて、頭にくっさい袋被せられて、地下牢にぶち込まれて……

 挙句の果てには食糧にされて、死にかけて……


 まぁ、済んだことは水に流そう。

 エルフはみんな綺麗で優しいし、空気は美味しいし、景色は最高だし。

 もう、ずっとここにいてもいいってくらい、俺はこの里を気に入っていた。


 グレコに案内されるままに、坂道を上る。

 ゆるやかな坂の上には、物見やぐらのような石造りの建物が建てられている。

 長い階段を上って最上階につくと、そこからはこのエルフの隠れ里がどういう構造になっているのかが一望できた。


 物見やぐらがあるのは里の真ん中に位置する小高い丘。

 その周りをぐるっと、ドーナツ型に里は広がっているのだが……

 ここからだとよぉ~く見える、里のその向こう側の景色に、なるほどな~と俺は頷く。


 エルフの隠れ里は、セシリアの森の中に突如として現れる、巨大な穴の中に存在するのだ。

 石造りの建物が並ぶ景色の向こう側に、草木が生い茂る崖がそびえ立っている。

 どこを向いてもそれは同じで、崖の上にはあの不気味で棘だらけなセシリアの木々が群生しているのが見えた。


 こういう土地を確か、カルデラって言うんだ。

 カルデラとは、火山活動の影響でできた、自然的な円形の凹地くぼちのこと。

 そのカルデラの中に、このエルフの隠れ里は存在しているってわけだ。


 俺が寝泊りしていたお屋敷のある里の南側と、そこから連なる西側は、主に住宅地のようだ。

 お屋敷と同じ様な、石造りの家々が等間隔に並んでいる。

 北側には、崖の上から流れ落ちる滝と、その下に大きな池があって、そこから細い小川が東側の海へと向かって形成されている。

 加えて、その小川に沿って、里の東側には豊かな畑が広がっていた。

 里の東側にはそびえ立つ崖がなく、そこから砂浜の海岸へと繋がる緩やかな下り坂になっているのだと、グレコが説明してくれた。


「モッモの村があるのは~、あっち! あっちが南西!! 里の外に出るには洞窟を通っていくの。あそこに入り口が見えるの分かる? 北と南と西に、それぞれセシリアの森に続く洞窟があるのよ」


 グレコが指さすのは、南の崖にぽっかり空いた洞窟の入り口。

 同じような穴が、北側と西側にも存在している。


「モッモはたぶん、地下牢に連れていかれたんでしょ? 崖の下には自然にできた空洞が沢山あって、主に食糧の保存のためにそこを使っているんだけど……、その最下層が地下牢なの。で、そこから東の砂浜に続く通路があるってわけ」


 ふむふむ、そういうことか。

 頭の中で簡単な村の地形図を思い描きながら、納得する俺。


「で、巫女様がいるのはあそこ」


 そう言ってグレコが指さしたのは、方角的には北西に当たる場所に建てられた、一際大きな石造りの塔。


「じゃあ、どこかでお昼を食べて……、巫女様のところへ行きましょ!」


 グレコの言葉に、俺はごくりと生唾を飲み、頷いた。

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