33:睨まないでくだぱい

「じゃあみんな! 行ってくるねっ!!」


 大きく手を振る俺。


「気を付けて行くんだよ! グレコちゃんのご両親によろしくね!!」


「モッモ、美味しい食料分けてもらって来てくれな!」


「岩塩も忘れずにな! あれがないと、タイニーボアーの肉が台無しだ!!」


「そうだぞ! 何が何でもまず岩塩だ!! 一に岩塩、二に岩塩だっ!!!」


「およしなよあんた! モッモちゃん、気にしなくていいからね」


「おうともよ! とりあえず、無事に行って帰ってこい、モッモ!!」


 朝日が昇ってすぐの早朝、大勢のピグモルたちに見送られ、俺とグレコはテトーンの樹の村を後にした。 


 村を出てすぐのところで一度立ち止まった俺は、神様鞄の中からあれを取り出す。

 黒い爪楊枝……、ではなく、神様アイテムの一つ、導きの石碑だ。

 細くて小さなそれを地面にプスッと刺すと、ボフンッ! と音を立てて、そこには青い石が埋め込まれた小さな石碑が出現した。


「へ〜! これが、神様から授かったっていう、導きの石碑……、なの?」


 物珍しそうに石碑を見つめ、問うグレコ。


「うん! こうしておけば、どこに居ても、村に帰って来られるんだ!!」


 ……まだちゃんと使った事がないから、「たぶん」なんだけどね、ははは。

 でもとりあえず、これで一安心だ!


 方位磁針のような物を手に、空を見上げて、太陽の位置を確認するグレコ。

 そして……


「たぶん、ここからだと丸一日は確実に歩く事になると思うけど……。モッモ、大丈夫?」


 心配してくれているのか、はたまた小馬鹿にしているのかは分からないが、苦笑いしながらグレコが尋ねる。


「だ!? 大丈夫だよ! 歩くだけでしょっ!?? 大丈夫だよっ!!」


 とは言いつつも、体力に自信が無い俺は、ドギマギしながらそう答えた。

 すると、少し離れた茂みから、ガサガサと音が聞こえてきて……


 ゲッ!? この音、この匂いはっ!!?


「セシリアの森までは遠かろう、我が送ろうぞ」


 守護神ガディスが姿を現し、大きな口でニコリと笑った。








 そして今、親切なガディスの背に乗って、俺とグレコは森を北へと向かっています、はい。


 さっき、ガディスが現れた時は、またあのジェットコースター並みに揺れまくるガディスの背に乗らなければならないのか!? と、戦々恐々とした俺ですが……

 今回は、特にめちゃくちゃ急いでいるわけではないので、ガディスは駆け足程度のスピードで走っている。

 うん、これくらいの速度ならば、酔わずに済みそうだ。


「時にグレコよ。なぜお主らブラッドエルフが、この大陸にいるのだ? てっきり我は、お主らは【ゴンゴール大陸】に存在するものと思うておったが……」


 ガディスの質問に、グレコは答えにくそうな顔になる。

 ゴンゴール大陸? 知らないなぁ~、そんな大陸。


「昔はね、そこにいたんでしょうけど……。ほら、ガディスも言ってたでしょ、エルフ族のはみ出し者って。きっと、その通りなんでしょうね」


 遠くを見つめながら、話すグレコ。


「あれは、言葉の綾というか、なんというか……、すまぬ、許してくれ」


 ここ数日、ガディスはずっと、グレコに謝ってばかりだな、ははは。


「いいのよ別に。本当の事だしね」


 な~んか、二人の会話が暗くて嫌だなぁ……


「ねぇ、ここの大陸は何て言う名前なの?」


 話の流れを変えるために、俺は無知を披露する。

 ムッチムチの、無知だ。


「はぁ~……。モッモって、本当に何も知らないわね。まぁ、あんな小さな村でひっそり生きてきたんだから、仕方がないでしょうけど。ほら、世界地図、持っているんでしょ? 広げてみて」


 ガディスの背の上で、神様からもらった世界地図を広げる俺とグレコ。


 この世界は、地図で見る限りでは、東西に巨大な二つの大陸と、その周りに大きな大陸が二つ、中規模な大陸が三つと、あと小さな島々が集まって形成されている諸島群が二つ存在する。

 地図には緯度と経度が記されていないので、どこをどう区切って考えればいいのかわからないが、とにかく赤道と思われるものだけは、地図の真ん中に太く赤い横線で記されている。

 北半球と南半球に分けて考えると、巨大な二つの大陸はそのほとんどが北半球に位置している。

 地図上の、西の大陸がガディスの故郷があるという【アンローク大陸】で、俺たちが今いる東の大陸は【ワコーディーン大陸】と呼ぶそうだ。

 ガディスが先ほど言っていたゴンゴール大陸というのは、赤道よりも少し下、経度的に見るとワコーディーン大陸の西端とほぼ同じ場所にある、中規模大陸のことだった。


 一つ気になったのが、世界地図のど真ん中に、何やら小さな島があるのだが……

 そこには名前も記されていないし、その島の事はグレコもガディスも知らないとの事だった。

 まぁ、今はいいか、別に。


「あ、そういえばさ、忘れてたけど……。あの光王レイアって、いったい……、誰?」


「あぁっ!? そういえばそうだったわねっ!!」


 急にグレコが大声を出すもんだから、耳の良すぎる俺はキーン! となる。


「我もそれが気になっておってな。何故、光王があそこに現れたのだ?」


「モッモはね、精霊を呼び出す力があるのよ。それも、召喚の儀も詠唱も無しにね。ほんと、どうしてそんな事ができるんだか……」


 なぜか、グレコに睨まれる俺。

 睨まないでくだぱい、怖いれす……


「そうか……。モッモは召喚師サマナーなのだな?」


さ……、さま? 何それ??


「う〜ん……、その肩書きを名乗ってもいいものかどうか……。でも、召喚師だとしても、あんな事は出来ないんじゃなくて? 光の精霊の召喚なんて……。いくら神の力を宿しし者だからって、めちゃくちゃすぎるわよほんと。光王よ!? 精霊国の王である光王なのよっ!?? 有り得なさすぎるわよ!!!」


 胸の前で腕を組み、憤慨するグレコ。

 怒らないでくだぱい、本当に怖いんれす……


「ふむ。我も、光王自らが姿を現すなぞ、聞いた事もない。つまり、モッモはそれほどまでに、この世界に必要な存在であるという事だ。それを我は、ひと思いに潰してやろうと考えていたとは……、恐れ多い……」


 そんな風に考えていたのですね、ガディス様。


 ガクブルガクブル


「問題は、光王がモッモに、「私の国に来なさい」って言ったことよね。これはもう、何がなんでも、行かなきゃならないわ、絶対に!」


 うんうんと、何度も頷くグレコとガディス。

 だけども俺には、二人が話している内容が、いまいち分からなくて……、いや、全然分からなくて……


「えっと……、僕、まだよく……、分からないんだけど……、えへへ?」


 素直に白状した俺の言葉に、なぜかグレコとガディスが同時に溜め息をついた。


 ねぇ、お願いだから、ちゃんと説明してくれよ……

 こちとら小さな村から一歩も出た事のない、ムチムチ無知なピグモルなんですよっ!?

 ちゃんと説明してちょうだいよぉっ!!?

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