9:魔法のアイテム
『右から順番に説明するね。これは、【隠れ身のローブ】と言って、一見普通のローブに見えるけど、裏返して着ると、周りの風景に馴染んで自分の姿を消すことができるんだ。別名カメレオンローブとも言う。フードを被れば完全に透明になれるよ』
うん、見た目は雨ガッパだね。
『次にこれ。【導きの石碑】。全体の長さの三分の二ほどを地面に刺すと、どこにでも石碑を建てる事ができる。ただの石碑じゃないよ、この【導きの腕輪】を使って、石碑の場所まで瞬時に移動できる素晴らしい魔法アイテムだ。科学的にはそれをテレポーテーションと言うね。ちょっと試しにやってみようか。そこの岩の端に、石碑を建ててごらん?』
自称神の少年に促され、たいそう豪華でアンティークな装飾が施されたケースのようなものの中から、金属でできた硬くて小さな棒を一本抜き取る。
どこからどう見てもこれは、ただの、色の黒い爪楊枝だ。
少し離れた場所にある白い岩の前で、俺はその爪楊枝を地面にぶっ刺した。
地面も岩なので刺さらないかと思ったが、意外にもすんなりと、サクッと刺さった。
そして……
ブォンッ!
「うおうっ!?」
地面に刺した爪楊枝は、小さな爆破音をたてて、一瞬のうちに、小さな黒い石碑へと変化した。
大きさはさして大きくはなく、俺の腰あたりほどの高さしかないので、他の種族には道端の小石くらいにしか思われないだろう。
石碑には、見たことのない紋章が彫られ、真ん中に青い石が埋め込まれている。
『うん、いい感じだね。じゃあこの腕輪をつけてみて』
少年が手渡したのは、導きの腕輪と呼ばれていたものだ。
これにも、石碑と同じような青い石が埋め込まれているのだが、パッと見は針のない腕時計のようである。
左腕にカシャッと、装着してみた。
『少し離れた所で、その青い石に手を当てて、この石碑に戻りたいって、心の中で願ってごらん?』
……ふむ。
小走りで石碑から数メートル離れ、言われた通りにしてみる俺。
すると、体が青い光にほわんと包まれたかと思うと、瞬きするほどのほんの一瞬で、俺は石碑の前まで移動していた。
なんとまぁっ!? 本当に魔法だこりゃ!!?
『うん、いいね。例えば、この石碑を君の村に建てておけば、いつ、どこからでも村に帰る事ができる。逆に、旅した先に建てておけば、村から瞬時に旅先まで行けることになる。ここには石碑が百本ほど入れてあるから、遠慮なく使ってね。もし足りなくなったら追加で用意するよ』
まじかっ!? 超便利じゃんこれっ!!
ちょっぴりテンションが上がった俺は、大事そうに黒い爪楊枝が沢山入ったケースを受け取った。
『あとはこれ。これがないと何も始まらない。開いてみてごらん?』
少年に手渡されたのは、赤銅色の金属でできた……、箱?
少し重量感のあるそれは、三段階に折られていて、ゆっくりと開いていくと、一枚の大きな金属板になった。
そしてそこには、何やら地図が描かれており、ところどころが黄色く光を放っている。
『これは【世界地図】。この世界全土を、事細かに、余すことなく記した地図さ。だけど勿論、ただの地図ではないよ。黄色い光があちこちに点在しているだろう? その光は全て、今この世界に現存している神々の命の光なんだ。即ち、その黄色い光があるところに、君の求める神が存在するってわけさ』
ほほう! これまたなんと不思議な!!
それにしてもこの地図……、この世界は、こんなに広かったのかぁ~。
『この、一箇所だけ青く光っているのが、今いるこの場所だよ。青い光は石碑の光。君が世界に石碑を建てて行けば、それに応じて地図にも光が増える』
ほほほう! なんだかとても便利だな!!
それにしても不思議だ。
地図に書いてある大陸の名前、その文字が、見たこともない文字なのに普通に読めている。
何故だろうな?
『あとこれね。方角がわからないといけないから』
少年は、おもむろに俺の首に何かをかけた。
例によって、不意の行動に体がゾクゾクした。
俺の首にかけられたそれは、東西南北を記した文字盤の上に、金の針と銀の針を有したコンパスだ。
『これは【望みの羅針盤】と言ってね、銀の針は常に北の方角を指し示し、金の針は君の望むものがある方角を指し示す。方角を知りたい時は銀の針を見て、何か自分の中に明確な望みがある時は金の針を頼りに進めばいい』
なんと優れものっ!
ディテールもお洒落で良いぞこれっ!!
『最後はこれだ。これが一番、君にとって大切なものになるかも知れない』
そう言って少年は、俺の小さな指にぴったりな、七色に輝く宝石が埋め込まれた指輪を手渡した。
『これは【時空の指輪】。もし万が一、君が命を落とすような事があれば、その指輪の効果で、死ぬ三分前まで時間が戻る魔法がかかっている。けれどその魔法は、本来なら僕しか行使できないものだから、むやみに死ぬ事は避けてほしい、時空が歪み兼ねないからね。それに、時間が戻るからといって、一度死んだ事には変わりがない。痛みや苦しみは記憶に残るし、魂は削られる事となる。だからくれぐれも、命を落としそうな場面には遭遇しないよう心がける事! いいね?』
なるほど……
素晴らしい道具だが、これのお世話になるのだけは勘弁だな。
そうは思いつつも俺は、キラキラと輝く美しいその指輪を右手の薬指にはめて、上機嫌でニンマリとした。
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