4.バトル 1
狩る者と狩られる者。
世界がこの二つに分けられるなら、普段の真琴は間違いなく後者だった。
腕力はなく、喧嘩をしたことがない。知力はあれど、ずる賢さがなく、他者を出し抜けない。さらに、高校生の財力、権力など、吹けば飛ぶようなものだった。
だが、今、この瞬間、この
◇
「クロ、
「「
「コウキ、遊んでないで戻ってこい!一人突っ込んで来てる!」
「ど〜こ〜?」
「
真琴が
各陣地を九つに分けて、敵がどこにいるのか、味方がどこへ行けばいいのか、数字だけですぐに伝わるようにしてあった。
真琴は、こちらに来る敵を見つけると、さっと障害物から降りて、別の障害物の陰に身をひそめた。
春樹から与えられた役割である司令塔。何戦しても慣れそうになかったが、それでも結果は十分出していた。
この戦いは、午後の一戦目、朝からトータルして五戦目だったが、どの戦いも危なげなく勝っているので、多少自惚れてもいいはずだ。
敵の足音が近づいて来る。
ペイントされた黒のパーカーは、障害物と同じ色合いで、うまい具合に迷彩効果を発揮していた。
このまま気がつかれませんようにと、真琴は物陰で息を殺していた。すると、運が味方をしたのか、敵が間抜けだったのか、ピンクチームの
それを見て、にやり、と笑う真琴。
獲物が、まんまと罠にかかった時のこの興奮は、「ガチマッチ」で初めて知った感情だった。
やった、と思う反面、浮かれすぎたら失敗する。だから、努めて冷静に体を動かす。
◇
「くそ、どこ行った……?」
グリーンチームのスタート地点まで来てしまったピンクの
司令塔の女が無防備に見えて、一人、ここまで来てしまったが、まずかったのでは……?
一度、
そう思った瞬間、障害物の陰から、人が飛び出して来た。
「う、うわぁぁ!」
慌てて狙いもつけずに、バケツを振り回す。
「は〜はっは。当たんね〜よ〜だ!」
それを身軽に
「喰らえ!」
逆にいい
「うわ、うわっ!」
と悲鳴をあげながら、
「いらっしゃ〜い」
背後はすでに
司令塔の女が、悪魔のような微笑みで、両手に水鉄砲を構え、ピューっと発射した。
「ピンク、
これで、ピンクチームは7
「ライフがなくなったら、スタート地点で終わるまで待っててください」
イベントのスタッフをしている学生が、ピンクの
その時、すでに自分を殺したグリーンの
◇
「コウキ、残り3。うち一人はクロとサイトーが相手してる。残り二人は、
「俺、囮になる?」
「や、なるなら私だろ。援軍もらいやすいように、あの木に登って、偵察するから、テキトーなとこで隠れてて」
「オッケー」
そういうと、コウキは足を止めて、障害物に身を隠した。
真琴は一直線に中庭中央にある木に向かっていく。この木は、初めてクラス内でデモンストレーションした日、真琴が登りきれずに落ちてしまった木だった。
だが。
「コウキみたいに、一気に登らなくても、いいんだもんね!」
真琴は、下に張り出している小さな枝や、幹の凸凹をとっかかりに、スルスルと木を登った。
頭の高さにある立派な枝へと辿り着くと、そこからフィールドを見渡す。
木の近くでは、クロとサイトーが、
「クロ!後ろから
「ちっ!一旦引くぞ!」
すでにサイトーのバケツは空になっていた。その状態で新たに
「コウキ!7フォロー!後の一人は……」
ぐるっとピンクエリアもグリーンエリアも見回すが、うまく隠れているのか見つけられなかった。
真琴は枝からざざっと降りると、近くに駆け寄って来たコウキに囁いた。
「
「任せとけ!」
コウキは短く答えると、クロ達と合流する。
「サイトー、水入れたか?もう行くぜ、行くぜ!」
「待て!まだだって!……オッケー、行こう!」
楽しそうな声を背に、真琴は
あいにく、ピンクの
真琴は、クロ達が戦っているところから一番離れたところから、
さっきと違い、今度は自分が罠にかかる番だ。
いつ、敵が襲って来るかわからない緊張感に、胃がきゅうっとなる。
だが、終盤の斥候も真琴の大切な役目だった。
現在、グリーンは4
真琴達が圧倒的有利にいるから、ここは慎重に行くよりも、スピードを優先すべきだろう。
万一、クロ達の方へ行って、力が拮抗してしまったら、厄介だ。
そう思って、大胆に
「……いた!」
「……げっ!」
ピンクチームのスタート地点近く。障害物の陰に隠れている敵を発見した。
相手も
真琴は発見した刹那、照準を相手の
だが、相手の反射速度もなかなかのものだった。無理に身を起こそうとせず、座ったまま真琴の
水と水が空中で交差し、お互いの
「あぁ〜、やられた……!」
「ピンク、
1
相手は、クソッと悔しがっているが、真琴にそんな暇はない。
三対二より四対二の方が断然有利だからだ。
さっさと自軍に戻って、
「ピンク、
どうやら、サイトーが犠牲になって、向こうも決着はついたらしい。
「ぃよしっ!」
真琴はその場で、小さくガッツポーズをした。
◇◇◇
「マコトちゃん、おつ〜」
マコトが
声の出所を見ると、校舎の二階の窓から勇吾と和也が顔を覗かせている。
「そっから見てたの?」
ブンブンと手を振り返して真琴は訊ねた。
「そ〜。上から見てるのも結構おもしろいぜ」
「そう?……ユーゴは?アームレスリング、終わったの?」
「キリがないから、終わらせた」
「はは。ユーゴもおつかれ」
勇吾は、柔道部主将との対戦との後にも、次々と試合を申し込まれ、「闘拳場」から逃げられなくなった。「ガチマッチ」の時間が迫っていた真琴は、勇吾の戦いを最後まで見ることなく、自分の戦場へと馳せ参じたのだった。
笹原さん、ちょっと!と受付の春樹に呼ばれ、真琴は二人に手を振って、春樹の元へと駆けた。
そこには、すでにクロ達がいた。
「次の対戦相手は、女子ばっかのチームで、完全冷やかしだと思うから、
「あ、そうなの?」
「うん。『ガチマッチ』の間、出ずっぱりも疲れるでしょ?一軍は、手強そうなチームの時、働いてくれたらいいから」
対戦表を見ながら、話す春樹に、コウキは声をあげた。
「俺、まだ全然動けるぜ!次も出たい!」
「ダメ。コウキこそペース配分とか考えないじゃん。あとで絶対バテるから、休める時は休んでて。
「ちぇ〜」
コウキは口では不満そうにしていたが、春樹に頼りにされて、少し顔が緩む。春樹はコウキと長い付き合いなのだろうか。どう言えばコウキが素直に従うか、完全にわかっているようだった。
真琴たちはそれぞれの武器を二軍のメンバーに預けると、テントの奥の椅子に座った。
そこには、麗たちが当たり前のような顔をして座っている。
「次は出ないの?」
「出なくていいんだってさ」
真琴はそう言うと、麗の隣に椅子を移動させて座った。
「ちょっとだけ
はぁ〜と息を吐く真琴を、麗はお疲れ様、と
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