意外な味方

 すでに橋本先生に発言権が無いのを踏まえ、小西さんは校長先生に矛先を向けた。

「校長先生は、今の話を聞いてどうお考えでしょうか。もちろん学校内で苛めが有るか無いかと、今回の発端が刀弥様に横恋慕した女生徒が起したものではないかと言う事です」

「今の話から判断すると、継続的なものではないので苛めが有ったとは言えません。が、ある生徒の話をうのみにした橋本先生に非が有るのは明らかでしょう。確認が不十分だったと言わざるを得ません。誠に申し訳ございませんでした。さて橋本先生、早急に事実関係を調べて報告してください。また、苛め等の有無も確認するように」

「はい、失礼いたします」

 結局、私達に対する謝罪は無いまま出て行ってしまった。


 橋本先生が扉を閉めるのを待って、校長先生が改めて頭を下げられた。

「誠に申し訳ありませんでした。実は朝倉さん達の担任だった小堀先生から相談を受けまして、橋本先生がクラス編成に圧力をかけていると言うのです。どうも、服部君と朝倉さんを同じクラスにしない様にとの事で、朝倉さんが心配なので仲介に入ってもらえないかと」

「その小堀先生は、奈緒さんの何を心配していたのでしょうか」

「ご両親を亡くしたばかりの彼女が、無理していたとしても笑顔を見せるようになったのは、服部君の存在が有ったからだと。依存しすぎるのは問題だが、今二人を離すのは得策ではないと言って来ました。養護教諭からも同じような話を受けていましたので、なにかあるのではと思ったのです」

「それで会長へ相談なされたと言う訳ですね」

 小堀先生がそこまで私の事を気にしてくれていた事に驚きはないけれど、校長先生にまで相談されていた事には驚いた。声は良く掛けてくれるけれど、どこか一線を引いた感じだったからだ。


 私たちも経緯を詳しく聞いていなかったので、やっと事情が呑み込めてきた。

「本来であれば学校内で調査をすべきなのですが、クラス編成まで時間が無いものですから、当人を呼ぶのが早いだろうと考えたのです。ただ朝倉さんの状態を考慮すれば、味方となる大人が必要だと思い連絡をさせて頂きました」

「そうなると、三年次は息子と奈緒さんを同じクラスにしていただけるのですね」

「そう計らいましょう。発端となった女生徒の名前を教えて頂ければ、その生徒はクラスを離す事も出来ます」

 皆の視線が私に集まりましたが、首を振って否定します。

「そこまでしていただく必要はありません。彼女たちに付け入る隙は与えたくないですから」

 本音で言えば離して欲しいけれど、その事実を後になって利用されたくはないと思った。学校を脅したとかお金を積んだとか、ありもしない噂を流されるのも癪だし、否定できる状況だけは作っておきたかった。


 遅くなってしまったけれど、学校を出て三人でお昼を取る事になった。

 小西さんは社に戻ると断りを入れたが、美羽さんが離さなかったのでこうなった。

「今日はありがとうございました。おかげで刀弥君と同じクラスに成れそうです」

 ファミレスに入って注文を済まし、小西さんに出向いてもらったお礼をする。

「これも仕事の内です。奈緒さんとも面識が有りましたし、お父様とも仕事をした事が有りますから」

「父と、ですか?」

「入社時の研修先が朝倉主任の下でした。ひとつひとつ丁寧に教えて頂いたおかげで、今こうして仕事を続けられているんですよ。それに進学先をリークしたのは私ですから」

 これって刀弥君の黒歴史的な奴ではと思って、話題を変えるべきかだと思案し始める。


「それ、つい最近まで知らなかったのよ。なかなか高校を決めないと思ったら、急に今のところに行きたいと言い出して。でもその前に、耕介さんには相談しているようだったから不安は無かったけどね」

「社長から内密の話があるって言われた時は緊張しましたけど、息子が朝倉主任のお嬢さんの進学先を知りたがっているって聞いて、耳を疑いましたよ。そんなの本人に聞けばいいのに、わざわざ私に振るのかって」

「奈緒さんのお父様の反応は?」

「トラウマが有って友達が少ない子だから、気にかけてくれる異性ができるのは嬉しい事だと。そして、社長も親バカなんだねって笑っていました」

 話題を変える間もなくそこまで聞いてしまって、父が彼氏は出来たのかってしつこく聞いてきた時期があったなと思い出した。

 進級してクラスが同じになった事を、耕介さん経由で聞いていたからなのかもしれない。


「修学旅行。父から自由行動は誰と一緒なんだって、聞かれていました。それって、刀弥君から誘われたのかって聞いていたのでしょうか」

「そうよ。娘はまだ誘われていない様だが飽きられたのかって、社長に確認を取らされたもの」

「あら、刀弥君も何気にヘタレなのね。結局誘われなかったんでしょ」

「はい。でも、席も隣りでしたし班も一緒でしたから、向こうに行ってからって考えていたのかもしれませんね」

「社長は無理だろうと言っていましたよ。それで女の子から逃げるのに必死になるんじゃないかって」

「それで逃げ切れなくて、不機嫌になるんじゃないかしら」

 最近の刀弥君の態度を見るに、ありえそうな話なので行けなくて良かったかもなんて思ってしまう。それを知っていて不安をあおるような振り方は頂けない。

「ありえそうで怖いです。でも刀弥君も行っていないので、不安には成りませんよ」

 そう真理奈さんから教わっていて、なんの疑いも無く呟いたのが失敗だった。

「え、行ってないの!? そんなの聞いてないわよ!」

「え? 真理奈さんから聞いたんですが……。あれ? 聞き間違い、かな?」

 余計な事を言ってしまった様で、帰ったら修羅場が待っているのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー