同棲のうわさ

 皆でお墓参りをした翌週からは、刀弥君と二人そろって門を出ている。

 ご厄介になっている形のお祖父さん宅と門を共有しているので、必然と言えば必然だろうし、同じ家に住んでいるのだから当たり前でもある。

 そんな様子はやはり、初日から刀弥君に思いを寄せるメンバーに見られていたようで、お昼までには学校中の話題になっていた。二人は同棲していると。

 耕介さんやお祖父さんの秘書さんから、事前に学校側への連絡や説明がされているので、噂によって呼び出されたり質問される事はなかったけれど、噂の否定まではしてはくれない。


「ねぇ、朝倉さん。噂の真相はどうなの?」

 三日経った水曜日。刀弥君とお昼を食べようと、三学期に入って離れてしまった彼の席に移動しようとして、二人の女子に捕まってしまった。

「なんの噂? 刀弥君と同棲しているとかって方? 昔から言われている不幸を引き付けるの方?」

「同棲の話よ! 不幸の件なんて今更でしょ!」

「今朝、二人揃って家から出て来たのを見ていた子がいるんだからね!」

「それは誤解だよ。確かに同じ敷地に住んでいるから門からは揃って出たけど、建屋は違うから。今は刀弥君のお祖父さんお祖母さんと住んでいるの。父の勤め先だった会社の会長さんで、不憫だからって……」

「おかしいじゃない! 普通、会長なんかが一社員の娘を引き取るなんてしないでしょ!」

「どうしてか気に入られちゃって……」

「どんな手を使って近づいたの! 教えなさいよ!」


 刀弥君から好意を寄せられて、ご家族からも厚意を受けているなんて言ったって信用はされないだろうと、口をつぐんで刀弥君に助けを求める。すると、かなりご立腹な表情の刀弥君が会話に割り込んでくれた。

「実行するなら教えてあげても良いけど、後悔しない?」

 二人は振返ってビクッと肩を震わせて振り向いた。

「あの子に出来た事だもの、出来ないなんて言わないわ」

「えっと、私はやめとこうかな」

 一人は賢明な判断だと思うけど、もう一人は気の強さが高貴な人間の証だと勘違いしているので引き下がらなかった。

 クラス中が廊下も含めて注目する中、刀弥君は感情を押し殺すように言葉にした。

「大事な家族をすべて失い、親類にも引取りを拒まれ、死のうとまで思い悩んだ。それでも、思い出の詰まった遺品も家も一つ一つ整理して処分して、持ち込める荷物は八畳間に収まるまで減らしてでも、ちゃんと顔をあげて生きて行こうとする。そこまで出来るなら祖父に掛け合ってあげるよ」


 息を飲んで誰も何も言わないでいて、自分の息遣いだけがやたらと耳に響いてくるなか、刀弥君の声だけが感情を含んで心を乱す。

「君らにとっては過去の話だろう。でも奈緒にとっては半年も経っていない、まだまだ整理の付いていない事だ! 一七歳でしかない女の子がそこまでしたんだ! 好きな子がそんな状態だったから支えたいと思ったし、独りでは無理だから家族を頼って協力を得たから今に至っている! そこに非難の余地があるなら甘んじて受けるが、そうでないなら口を出すな! 目障りだ! おま……」

「もういいから! 大丈夫だから、それ以上は、止めて……、ね」

 まだ高ぶっている刀弥君の言葉を遮って、言えたのはそれだけだけど理解はしてくれたみたいだった。


 悪くしてしまった空気を振り払うように、私の手を掴んで教室から連れ出してくれて、屋上の踊り場までお弁当を持ったままやって来た。

「ごめん。言い過ぎた。奈緒の事を侮辱されたと感じて、抑えきれなかった」

「ううん、ありがとう。頼ってしまったのは私だから、誤らないで。それより、ご飯食べちゃわないと」

「このまま午後はサボっちゃいたいな」

「ダメ。私は堂々と戻って、ちゃんと授業を受けるからね。でも、帰ったら少し甘えさせて欲しいな」

「いっぱい甘えてくれていいからね、奈緒」

「……、さっきから呼び捨てだよね。無意識?」

「最初はね。その後はいっかなって」

 すでに教室でも呼ばれているのだから、今更訂正して家ではなんて蒸し返されたくない。そう呼ばれるのが嫌なわけでも無いからそのままで等してもらおうかな。

「呼ぶのは構わないけど、真理奈さんに何か言われても知らないからね」

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