驚きの告白

 翌日は月曜日で朝から学校があったのだけれど、美羽さんに病院へ連れて行かれることになった。なんでも、知り合いに心療内科の先生がいるらしく、朝一番で診てもらえる予約をしてあったそうだ。

 連れて行かれた病院は最寄駅に近い商業ビルの中に有り、ビル全体がいろいろな科が入る病院の集合ビルの様相だった。


 入るとすぐに受付を済ませて、私だけが診察室に通される。そこにいた年配の女性の先生は、事情を知っているようで時間をかけながら質問をしてくる。

 睡眠時間や質、途中で目が覚めるか、すぐ寝られるか、食欲や味覚、物欲やお金の使い方まで、答えを急かさずに聞いてくれる。

「一時的なものでしょうが、うつの症状が見られますから薬を出しますね。薬は睡眠の質をよくするものと食欲を出すもので、まずは一週間様子を見ましょう。副作用が出るような強いものではないですが、何か気になる事がありましたら直ぐに電話してください」

「あの、薬は飲まないとダメでしょうか」

「酷くなってからでは強い薬を飲まないといけないし、そうなると止めるのにも時間が掛かります。内科でも処方するような弱いものですから、ちゃんと飲んでね」


 処方された薬は美羽さんが受け取って持ち帰ってくれるそうで、家の冷蔵庫も整理してくれると言ってもらえたのでお金と鍵を渡す。なにが入っていたかも思い出せないくらいなので、もしかすると腐った物が出て来るかも知れないことは伝えた。

 私はと言えば、ニコッと渡されたお弁当を持って電車に揺られ、遅くなったけれど学校に向かうことになった。


 着いた時はちょうど三時間目が終わる直後で、職員室に寄って登校した旨を伝えて教室へと向かうと、廊下で担任の小堀先生に呼び止められた。

「朝倉。ご両親のことがあるのも分るが、ちゃんと寝てちゃんと食べないとダメだぞ。お前に元気がないと、みんなに活気が出ないからな」

「……はい。あの、お弁当も持ってきているので」

「そっか。いや、うん、徐々にで良いからな。あと、友達も頼れよ」

 元気の出しようなど無いけれど、刀弥君のご馳走になれるようには頑張らないと申し訳が立たない。それに、美羽さん達に心配をかけるのも本意ではないのだから、苦しくとも最後の時まで笑っていよう。


 教室に入って席に着くと、隣の席に座る刀弥君が挨拶もせずに、楽しそうに話し始める。

「思ったより早かったね。お昼過ぎまでかかると思っていたけど、間に合ったから一緒に食べられるね」

「う、うん。一番だったから。あ、あの……」

 私がいない間に、私たちの関係をどこまで話したのか解らなくて、言葉に詰まってしまうと、前の席の松本愛梨さんが振り向いてジッと私を見てくる。


「あ、おはよう」

「うん、おはよう。そうだよね! 今日初めて会うんだから、挨拶が先だよね! なんで服部君には挨拶し無いの? お昼一緒ってどうして?」

 矢継ぎ早の質問に面食らってしまってオロオロしてしまうと、内容はともかく、刀弥君がなんでもない事の様に答えてくれた。

「朝、彼女が病院に行く前に挨拶していたからさ。二度はしないでしょ『おはよう』なんて挨拶は。それに彼女、いつも一人でご飯食べてるでしょ。だから、僕と食べても良いんじゃないかって。ね、いいよね? 奈緒さん」

「「「ええ~~~」」」


 始業のチャイムをかき消すように響いた女子たちの声に、入ってきた先生はビックリして立ち止まって、いぶかしげな顔で教室内を見渡す。

「何かあったの? それにしても授業が始まったとたん、大声を上げるのは好ましい行為ではないから注意して。いいわね! それじゃ、昨日の宿題に出したプリントを広げて……」

 視線を物凄く感じながらの授業は、まったく頭に入って来なくて、回ってきたノートの切れ端だけが溜まっていく。内容は似通ったものばかりだ。

『いつから付き合っているのか』

『所詮はお情けでしょ』

『不釣り合いよ』

『いい気になるな!』

 大半は予想通りで、むしろ負の感情を貯めるのに歓迎すべき内容だった。

 授業が終わりに差し掛かる所で、刀弥君に『どうするの?』とだけ書いたメモをまわすと、澄まして頷くのが見えた。


 先生が出て行って昼休みに入ると、当然の如く女子に囲まれてしまった。

「ねえ、なんで名前で呼ばれているの?」

「急にどうしちゃったの?」

「金曜まで、そんな素振りなかったよね?」

「いままで話をしているところなんて、見た事ないのになんで?」

「実は隠れて付き合っていたの?」

 刀弥君がいるからか、あからさまな質問や非難は無いけれど、嫉妬を含む口調に耐えられないで下を向いてしまう。


「日曜日にちょっと有ってさ、付き合うことになったんだよ。実は前から気になっていて、ご両親のことで弱っている所に言い寄るのは卑怯かと思ったんだけど、どうしても支えてあげたくって。それで告白してOKをもらったんだ。それよりお昼食べていいかな?」

 さらっと言ってのけた刀弥君に、不満げながらも女子の大半は引き下がってくれた。

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