第83話 さあ、今から映画『ミックス』を観よう!

 三年前(だったと思う)の話。


 当時、私は無職であった。

 精神病(発達障害からくるPTSDなど)の病気療養だった。

 病院の着たての頃は、壊れていた。

 それを少しずつパーツを拾い集め上手く動くように努力をした。

――そろそろ、働きだしてもいいかも

 でも、その踏ん切りはなかなかつかなかった。

 

 ある日、病院にあるリハビリ施設から帰宅しポストを見ると市の広報があった。

 普段はたいして読みもしないが、その時、思ったことがある。

――ボランティアから始めてるのも手だよな

 そこにあったのが『映画 エキストラ募集』。

 私はスマートフォンで、とりあえず登録した。

 すると、すぐに返事が来た。

 

 ある暖かい春真っ只中。

 私は緑のブルゾンにジーパン姿、いわゆる真冬の姿で市内の、まだ出来立ての大型体育館にいた。

 映画のストーリ上、冬に行われている大会の観客役なので真冬の服装が条件の一つだった。

 朝七時集合(厳守)なので早朝五時半起きである。

 なお、現在、就職して今は五時起きである。

 駐車場(諸経費は自己負担)から体育が遠い。

 蒸れる服の内部。

 

 初日。

 名簿と本人確認をしてまだ、一般公開していない体育館に入る。

 そこには窓がない。

 デジタル時計があるが電気が通ってないのか真っ黒のままだ。

 卓球会場のセットの横にレールなどがあった。

「お好きなところにお座りください」

 何かしらの役をもらっている人はすでにスタンバイしていて私は一番前の端の席に座った。

 周りに架空の会社の垂れ幕があって、どうやらここが神奈川県の体育館という設定らしい。

 ぼんやりしていると一人のスタッフの人がやってきた。(この時は助監督と思っていたけど後に監督と知り「ぎゃあああああ!!」となりました。その節は本当にすいませんでした)

「すいません、今日だけのエキストラですか?」

「いいえ、四日間(全日程)います」

「それはよかった……では、あなたの席はここです」

「え?」

(だいたい、こんな内容)

 私は席移動があると思って前に座っていただけで突然のことに内心冷や汗をかいた。

 しかし、撮影にはなかなか入らない。

 周りはカップルや親友などと連れ立っている人が多く話をしているが私は一人なので家から持って来た本を読んでいた。

・「映画を観ると得をする」(池波正太郎)

・「それが映画をだめにする」(前田有一)

 前者は名著である。

 特に映画初心者には(まあ、時代の差こそあれ)映画を観る心構えなどがあってお薦め。

 が、後者は正直『お前、馬鹿か!?』的に場所を考えていない。(タイトル的に)

 カバー掛けて置いてよかった。

(個人的見解は別れますが面白い本ですよ)

 眠気眼で適当に映画関連の本を詰め込んだせいである。

「新垣結衣さんと瑛太さんが入ります!」

 スタッフの声で場の空気が一気に変わったことを私は感じた。

 当時、新垣さんは『逃げるは恥だが役に立つ』の大ヒットで注目されていた女優だった。

「きゃー、ガッキーだ」

 背後からそんな声も聞こえた。

 瑛太さんは私と一瞬目合った。

 本を読んでいた私を実に珍しそうに見ていたのが印象的だった。

 私は私で『手足長くて頭小さいなぁ』という最初に思った。


 結果から書くと、俳優(主演たち)がセットの中にいるわけでもなく控室と行ったり来たりしていた。

 その間、スタッフは様々にセットを変え、人を移動させ(私は隅っこの席が定位置で本ばかり読んでいた)ていた。

 

 さて、時計もない無限の空間ともいえる時間の中で唯一メリハリのある時間はお昼ご飯である。

 でも、正直、期待していなかった。

 何故なら、私はお弁当に苦手意識があるからだ。

 が、食べて驚いた。

――美味しくなっている!!

 あっという間に完食。

 その後、睡魔で眠くなり席で爆睡。

 気が付いたら夕方六時で驚いた。

 撮影の終わり、ほぼ夜十時過ぎである。


 では、私は完全に孤独だったかと言えばそうではなかった。

 二日目か三日目に、小奇麗なお婆さんが私の横に座った。

「私、初めてエキストラやるんですよ」

 話しかけてきた彼女に私も答えた。

「私もです」

「お友達と……」

「いえ、私は一人です」

「じゃあ、孫とお祖母ちゃんが一緒に見にきたという設定はどうでしょう?」

「いいですねぇ」

 何しろ、エキストラにはバックストーリー何ぞないのだから、こちらでいかようにも好き勝手出来る。

 なので、盛り上がるときは手を取り合いはしゃいだ。

 とても、楽しかった。

 名も知らないおばあちゃん、ありがとうございます。


 しかし、群馬県民というのは寡黙な県民だと思い知った。

「盛り上がってください」と言われても「???」状態なのだ。

 なんとか「頑張れ!」「あと一点一点!」「ファイト!」などと叫んだが、だんだん単調になる。

 内心「終わってくれ~」などと情けない心情だったことを告白しておこう。


 では、作品ではどうなったか?

 それは、映画『ミックス』(石川淳一監督)を観よう!

 私自身は自分の醜態を見るのが嫌なので未見だが、映画を観た知り合い曰く

「あー、分からなかったなぁ」


『ミックス』における私の立ち位置&服装。

・敵側の席

・緑色のブルゾンを着ている

・太っている

・眼鏡

 さあ、探してみよう!!

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