第39話 白状と黙秘

 その後、私達の活動により下水の魔物は駆除されていきました。何匹かいた強力な魔物は高ランクの冒険者が各個撃破し、あの洪水のようなスライムもSランク冒険者のルークさんが討伐しました。そして魔物は全滅しました。多分。


 しかし、私の仕事はまだ終わりではありませんでした。魔物が短期間で大量発生した原因の調査をギルマスより命じられていたからです。私はある予測を立て、ギルドの資料室に来ていました。


「これです。マリーンさんの予想通りですよ」


 そう言うのは資料室勤務のニーモさんです。彼女にはここ半月の魔物の持ち込み量の資料を持ってきてもらいました。それを見ると、私の予想通りの情報が示されていました。


「やはり、一般人からの魔物の素材の持ち込みが増えていましたか」

「そうですね。まとまった数で持ち込まれています」

「助かりました、ニーモさん。ありがとうございます」

「いえ、いつも仕事してないのでいい暇つぶしになりました」


 なんでクビにならないんですかねこの人。世界は謎で溢れています。私は資料を写すと、資料室を後にしました。



 次の日、私はエルーシャと定食屋で昼食を食べていました。向かいに座るエルーシャはご機嫌でした。なぜなら彼女の率いていた隊は、最も多く魔物を討伐し100万イエーンを手にしていたからです。聞くと、大規模なネズミの群れに遭遇し討伐数を稼ぐことができたそうです。その群れにとても心当たりがあります。惜しいことをしました。


「あっはっは。日ごろの行いってやつだよ。日ごろの」


 エルーシャが偉そうにそう言いました。なんかむかつきます。


「そういえば、大量発生の原因調査はどう? なんか分かった?」

「ええ、おそらくですが分かりました。後は容疑者の証言を得るだけです」

「容疑者? 人的な原因なの?」

「ええ、呼び出したので今から尋問です。先に失礼しますね」


 私は席を立ちました。呼び出した時間までもうすぐです。



 私が小会議室で待っていると、呼び出した容疑者たちがやってきました。その容疑者たちはそう、下水で働いている奴隷たちです。


「で、なぜあなたもここにいるのですか」

 私は隣にいるエルーシャに聞きました。


「いやー、犯人が誰なのか気になって」


 エルーシャが答えました。エルーシャの言葉に奴隷たちが驚きます。


「な、なんだ! 犯人って!」

「俺たちが何かしたっていうのか!?」

「聞きたいことがあるっていうから来たんだぞ!?」


「ええ、あなたたちに聞きたいことがあって呼びました」

「なんだよ!? 聞きたいことって!」

「下水道が魔物で溢れた件についてです。」

「……」


 奴隷たちが押し黙りました。後ろめたいことがあると言っているようなものです。


「まずは確認です。あなたたちは毎日、下水道に入って内部の点検などをしていますよね」

「あ、ああ。それが俺たちの仕事だからな」


「そして一昨日、魔物が現れあなた達は襲われた」

「間違いない」


「本当にそれだけでしょうか」

「……それだけだ。」


「それ以前は魔物が居なかったのに、昨日の作戦では4桁に届く数の魔物が討伐されました。たった2日でそこまで増えるなんて不思議ですね」

「魔物なんだからそう言うこともあるかもしれないだろ」


「まあ、あなた達が襲われたのが一昨日という話で、実際にはもう少し前から居たのでしょうね。例えば前回の下水ダンジョン攻略で討ち漏らしがいて、半月かけて今回の数に増えた、とか」

「……そうかもな。」


「とはいえトラップに魔物がかかっていなかったということは、何日も前から居たとは考えにくいです」

「……」


 奴隷たちは再び押し黙りました。全員顔が青いです。


「だからですよ。魔物が数日で大量発生したなんて謎が生まれたのは」

「…………」


「ところでここ半月ほど、一般人からの魔物素材の持ち込みが増えています。少なくない額の買取金をギルドから支払っています」


「え、待って? 何の話?」

 エルーシャが口をはさみました。顔に?マークが浮かんでいます。


「彼らが魔物の素材を持ち込んでいたんですよ。半月前から」

「え!? それって!」


「なにか言ったらどうですか、皆さん。それとも私から言いましょうか」

「………………」


「魔物が街中に発生したのを隠蔽するのは犯罪です。が、自主すればいくらかは刑が軽くなりますよ」


「すいません! 本当はもっと前から魔物がいました!」


 奴隷の一人がたまらず自白しました。


「お、おい!?」

「何を言って!」

 ほかの奴隷たちが焦ります。


「トラップで死んだ魔物をここに持ち込んで金を稼いでいました! 魔物がいると知られたら冒険者に狩られるから黙ってました!」


「なるほど。彼はこう言っていますが、他の皆さんはどうですか」


 奴隷たちは葛藤していました。しかしすぐに陥落し、口を開きました。


「こいつの言う通りです。最初はネズミの魔物一匹だったんですが、それで味をしめてつい……」

「途中までは日に日にトラップにかかる魔物が増えて、うれしくて黙ってました」

「襲われて怪我をしたせいで上に隠せなくなって……。その時初めて魔物を見たと嘘をつきました」


 奴隷たちは次々と白状していきました。一人が自白すれば芋づる式に白状し秘密が崩壊します。犯罪者の結託などこの程度。実に脆いですね。


 犯罪者を逮捕する権力をギルドは有しています。が、私は彼らを警察署に自首させました。そういって自白させたわけですし、なによりそちらの方が恨みを買わないと思ったので。


 こうして下水ダンジョンの謎は明らかとなったのでした。



「マリーンってさ、犯人を問い詰める時、すごく活き活きしてない?」

「……そんなことありませんよ。」

「立場が弱い犯人を公的にいじめられるから、つい楽しくなっちゃったりして」

「黙秘します」


 尋問を見物して仕事をさぼっていた事を黙っているかわりに、私はエルーシャに食事を奢らせました。


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下水ダンジョン編、終了です。

いつもお読みいただきありがとうございます。


次回予告:新人野外研修編

 マリーンとエルーシャは新人冒険者を連れて野外研修へ。そこで連続する紛失騒ぎ。数の合わない物資。迫る災害。マリーンたちは無事研修を終えることができるのか。乞うご期待。

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