草の香る地に泣く

作者 英すのこ

12

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★★★ Excellent!!!

現代では空前の異世界小説ブームが訪れています。
その中で本作が魅せる物語は、やや流行とは一線を画した硬派で本格的な大河小説です。
金剛会と呼ばれる宗教団体に実質支配され、絶対の服従こそが至高とされる世界で疑念を抱き始めた主人公:海霧が、世界の動く瞬間に立ち会うことから物語は進んでいきます。
この作品を手に取って最初に感じたのは、まるで司馬遼太郎氏のような作品だと感じました。緻密な文章と古語を交えた深い文体に、現代では見られない厳しい戒律や文化。そういった非現実感が否応なしに別世界へと旅立つ一層深い読書体験をさせてくれます。
しかし登場するキャラクターは硬い人物ばかりではありません。豪胆でありながら茶目っ気を多分に含んだ調停者と呼ばれるヒロインと、子供の用に懐いてくれる翡翠と琥珀の存在が光ります。物語自体がどっしりと構えているからこそ、愉快なキャラクターとの触れ合いが一層心を引き摺り、ささやかな日常をとても大切なものだと感じさせてくれます。

やや現代的な異世界ファンタジーに食傷気味になられた方、そして無料で(笑)がっつりとした大河小説を手に取りたい方にとてもオススメな一作です!

★★★ Excellent!!!

ことファンタジーにおいて、宗教はその世界に住まう人々の生活感や価値観を知るうえで必要不可欠な要素であり、ひいては世界観を構築する上で必要な要素です。

しかし、それ自体が主軸に物語が展開されることは、あまり多くはありません。
本作はあえて僧兵集団を主人公にした意欲作です。

戦記物のような筋書き、精霊というファンタジーの要素を出しながらも、主人公たる海霧の属する金剛会は、決してきらびやかなだけではありません。

閉ざされたコミュニティとしての因習、暗澹たる感情の動き、政治との結びつきなどにも目を背けず向き合い、情感豊かにキャラクターの口や背景によって語られる描写は、物語を妖しく彩ります。

これからどう転ぶのか、まだ計り知れないところはありますが、丁寧な構成とたしかな文章力によって、確実な期待が持てる良作です。