第7章 渦中へ:敵との対面①
回廊の突きあたりの床にぽっかりと開いたその穴の表面は、澄んだ湖水のように静かだった。けれども、そこに水はない。底の見えぬ、今は空気すら存在しない無の空間への出入口。
辺り一面からの鈍い光を映す
「ジーグ、二人を頼みます」
「心配は要らん。30時間後には祈りの間に戻る。力の護りを手にな。二人とも、準備はよいか?」
振り返るジーグに、希音と涼醒がうなずいた。
そこにあるはずだった浩司の姿はない。彼の選ぶべき未来は、それと気づかぬうちに過去へと定まって行く時間の流れのどこかで、今は静かに目醒めの時を待っている。
「行くぞ」
ジーグの
「希音。浩司とともに吉報を待っています。もし護りが手に入らなくても、決して無理はせず、明日の夜明けに戻ってください。いいですね?」
シキの真剣な
「浩司に…浩司が気がついたら、護りは必ず間に合うからって、そう伝えて」
キノはシキから
「ヴァイの奴らに、希音も護りも渡さない。安心して待っててくれ」
涼醒が光へと向かう。
「今回…ジーグが館を離れることは出来ません。浩司が降りないということは、護りのある場所から館まで、希音のそばにいられるのはあなたのみです」
「わかってる。俺もリシールの
シキがうなずいた。
「ヴァイのリシールたちは、今はまだ表立ってラシャに反してはいません。けれども、この後どうなっていくのか…。涼醒。あの予言は真実です。あなたが彼らに感化されぬよう願っています」
「…あんたたちには、俺だって反感を持ってる。だけど、あの話は信じてるさ。浩司のこともな」
「くれぐれも気をつけて」
「護りは持ち帰ると、俺からも浩司に言っといてくれ」
涼醒の姿を飲み込んだ
やがてそれが普段のようにひっそりと
力の護りが131年ぶりとなるラシャの空気に触れるまでに、この無の空間への口はあと幾度
ヴァイに降りることだけ考えなくちゃ、ここから出られないのに…護りを見つけるって思う
漂う意識を取り巻く無の空間は、イエルからラシャへ降りた時と同様の不思議な平穏をキノに感じさせる。
気がついたら、ベッドの上にいた。シキはもういなくて、頭を抱えてテーブルに
この道に入り、
知らない声がして振り向くと、シキと同じ
『時間だぞ。いくらおまえが見てようと、こいつが目を開けるわけじゃない。
『浩司を喜ばせたいのか、がっかりさせたいのか。おまえはどうしたいんだ?』
何も言えずにいたら、涼醒が黙って私の手を引いて…。
意識がラシャから離れない限り、キノが出口に
浩司を残したまま、ジーグに連れられて無の空間に…。私は護りを手にしたい…浩司のために。浩司が言ってた、希由香のためにしてやれること…護りの力を使って何をするつもりなの? シェラの呪いを解くことじゃなく…? 護りにはそれが出来るはずなのに、それ以外に…希由香のためになることなんかあるの…?
平静さを取り戻したキノの思考は、忘れていた事実を思い出す。
希由香…そうだ、ヴァイのリシールのところには、希由香がいる…! 意識をなくして、それでも浩司を思ってる…私にはわかる。彼女の幸せは、浩司の幸せなしにはありえない。それを知ってる浩司を、私は信じてる。必ず間に合わせなきゃ…護りはヴァイにある。私が見つけるのを、待ってる…。
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