第92話 裸の占いペットくん
廊下を飾る絵画の中では、皆が仲良くグラスの中のワインを傾け、桃色の花びらをこぼす木の下で、談笑していた。そんな夢のようなひとときを眺めながら、執事ジョージは両手に男性物の着替えを持って、ヒメの部屋へと赴いた。
ジョージがノックする前に扉が開いて、青筋を二の腕まで浮かべたガビィが、その胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「貴様どういうつもりだ!」
「ワー、全裸ノ男ガ姫様ノ部屋カラー(棒読み)」
筋肉で引き締まった体には、仕事中に付いたのか古傷があちこち。左腕には包帯が巻かれてあったが、腫れも引いており、あと一日もすれば完治していそうに見えた。
「俺が姫の目の前で元に戻ったら、どうしてくれるんだ!」
「お城での笑い話に、ガブリエル様も加わることになりましたね」
朗らかに笑うジョージを、ガビィは廊下に下ろした。その腕に収まっている着替えをむしり取る。
「何が占いペットだ! 初耳だぞ!!」
「はい。わたくしが作った、嘘話ですから」
ガビィは部屋に引っ込むと、バタンと扉を閉めた。
「……お前が、
「わたくしは、姫様にもフローリアン王子にも、本当に好きになったお人と添い遂げてくださることを、願っております。エメロ王家の、執事でございますから」
「安心しろ。姫が別の案を思いついたみたいだ。話だけでも聞いてくる」
「それはそれは! さすが姫様。この爺、姫様ならば皆の仲を取り持ってくださると信じておりましたぞ~!!」
まーたこの爺さんは、胸ポケットから真っ白なハンカチを取り出して、大げさに涙を拭き上げているのだと、容易に想像できるガビィである。
「……まだ、上手く進むか、わからないがな」
ジョージが持ってきた着替えは、下着とシャツとズボンという、素朴なものだった。革の鎧やガントレットなどは無い。
(これじゃ城下町をぶらつく一般人と変わらないな……)
ジョージは装備品を持ってこなかったのではなく、よくわからないから触らなかったようだ。さらに、別の仕事がありますからと言って、去っていった。ガビィと長年の知人でなくば、ここまで説明不足のまま去ってゆけなかっただろう。
(食えない爺さんだ。今に始まった事ではないがな)
ガビィはひらひらの可愛い室内で着替えるのが、すごく不快だったが、手早く済ませると、姫を追いかけるべく部屋を
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