第104話
結局、胸に残った蟠りの正体は放課後になってもいまいちよく分からなかった。妙な焦りと不安で呼吸が乱れ、心臓は触れなくても分かるくらいに大きく脈を打っている。お陰で今日の授業はほとんど頭に残っていない。
あいつに頼るのは正直癪だが、後で部室に行った時にでも、白月からノートを写させてもらうことにしよう。
そんなことを考えて、窓際の席からチラリと白月の方に目を向ける。
いつもと変わらぬ、つまらなそうな表情。
まだまだ続く夏の暑さに周りが苦しむ中、白月だけが涼しげな雰囲気を漂わせている。
そんな彼女の表情からは、これといって何かを感じるということはない。ただ単に表情に出していないだけかも知れないが、どちらにしろ人の心情なんてそう簡単に測れるものでもない。とにかく、今俺の目に写っているのは、いつもと変わらぬ白月蒼子の姿だ。
俺は6限後のHRが終わるなり、輝彦と誠と挨拶を交わして白月の元へと駆け寄った。
「今日から部活再開か?」
白月は帰り支度を済ませて席を立つと、引いた椅子を元に戻しながら俺の問いに答える。
「えぇ。葉原さん、皇くんに会えるのを楽しみにしているみたいだし」
「お前に会えることもな」
それに対し、軽く笑みを浮かべる白月を見て、少しだけ心に残る蟠りが払拭されたような気がした。
そうして俺たちは西棟3階の最奥に位置する天文部の部室へ向かうため、そのまま教室を後にして廊下へと出る。
——その時だった。
「なぁ——」
見知らぬ声で呼び止められた俺と白月は、互いに足を止めて後ろを振り返る。
するとそこには、本日の話題の中心である例の転校生の姿があった。
俺より少し高い身長に、転校初日だと言うのにもかかわらず、早速校則を無視して着崩す制服。……そして、こちらに真っ直ぐと向けられる鋭い侮蔑の眼差し。
今まで輪郭が朧げだった不安感が、まるでパズルを組み立てるかのように少しずつその姿を露わにしていく。
「なぁ……お前、白月蒼子だよなァ?」
再び開いた転校生の口から、その名前が出たことで、俺のこれまでの “予感” は “確信” へと変わった。
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