第30話

感心したところで、俺は白月に対し2つ目の疑問について尋ねる。


しかしこの疑問は、昨日一度はぐらかされたものだ。今回は何としてでも、しっかりとした答えを白月から貰わなければならない。


俺は短く息を吐いてから、白月を見据える。



「白月」


「なに?」


「昨日、俺を誘った本当の理由は一体なんだ」


白月はきょとんと首を傾げる。



「だから昨日も言ったじゃない。なんとなく——」


「真面目に答えろよ」


俺は白月の言葉を静かに遮る。

室内には再び沈黙が流れ出した。


休憩に入ったのか、先程まで聴こえていた吹奏楽部の演奏はパタリと止み、パラパラと窓に当たると雨音だけが室内に響く。


その沈黙を破ったのは、またしても窓の前に佇む白月。



「……はぁ」


白月は一度発しかけた言葉を引っ込めると、はっきりと聞こえるように諦めの嘆息を洩らして言った。



「いい加減、どこかに座ったら?」


「ん? あぁ……」


今までずっと扉の前に突っ立っていた俺は、白月に促されて4人掛けテーブルの白月に一番近い手前の席に腰掛ける。


所々錆が目立つパイプ椅子に体を預けると、ギシギシと嫌な音が聞こえた。



白月は俺が椅子に座ったのを確認すると、再びこちらを振り返り、冷たい窓に背を向けてもたれ掛かる。


それから少し間をおいて、白月はようやく話を始めた。



「……初めて、私たちが出会った時のこと、覚えてる?」


「は?」


またもや真意のわからない質問を受けて、思わず声が出る。



「覚えていないの? やっぱり、皇くんの知能は猿並みなのかしらね」


「覚えてるって……それがなんだよ」


「……私がみんなから『天才』って呼ばれ出した時、どう思った?」


未だに質問の意味は理解できない。

だから、俺はただ思ったことを嘘偽りなく白月に伝える。



「クソだと思ったな。才能があるってだけで、凡人の努力をすべて否定してしまうような天才はこの世から消えればいいとも思った」


「今ので私、かなり傷ついたわ。自殺するときには遺書に『皇くんは何も関係ありません。私の心が弱かっただけです』とでも書いておこうかしら」


「おいやめろ。それ真っ先に俺が疑われるやつだろ。ってか、本当のこと言って何が悪いんだよ。『あおこちゃんはてんさいですごいとおもいました』とでも言えば良かったのか?」


子供の頃から「嘘はくな」と厳しく躾けられてきたせいで、反射的に本当のことを言ってしまう体質なのだから仕方がない。


そんなことを思っていると、白月は俺を揶揄やゆするように笑い出した。

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