第29話 BECK(ベック)

 買いましたよ。

 新作『ハイパースペース』。


 トヨタの昔の車に、レトロ感たっぷりのファッションで80年代を意識してるのでしょうか、頭文字Dみたいな雰囲気で、しかもアルバムタイトルはカタカナ。あえてのちょっとダサい系の写真。今回も斜め上から来るジャケットは、これは80年代のダンサブルなのを期待してしまう気持ち半分と、あともう半分はどうくるかわからない不安。毎回毎回コロコロ、ジャンルが変わるので、あれ?これBECK?となり、なぜ買ってしまったんだろう、と凹む時が多い。何回か修行のように聴いてると、凄い好きになるのですが、最初はスッと飲み込めず、何が起こってるのかわからなくなるんです。

 逆に、本日この『ハイパースペース』と一緒に購入した久保田利伸の『BEAUTIFUL PEPOLE』は、期待を上回る安心して聴けるアルバムでした。久保田利伸を買ったから、BECKの不安定なアルバムにも挑戦できる。レンタルDVDを借りにいって、前評判も良く、見たいDVDを借りた時、なんの情報もなくマイナーな映画を一緒に借りたりする時ありますよね。面白くないかもしれないけど、もしかしたら当たりかもしれない。そのドキドキを買うのです。(やっぱり久保田利伸はサイコーでした。砂漠で素っ裸のジャケットは「!?」ってなり、色んな方向で楽しめたアルバムでした。これはまた、次の機会に)


 じゃあCD屋さんかネットで視聴してから買えば、と言われるかもしれないが、BECKの場合、視聴したら絶対買わないのです(注:僕の場合なので、個人差はあると思います)。いつも直ぐに理解できない。頭が追いつかない。曲調も違えば、声まで違って聴こえる。むしろ、あまり好きじゃない、と思ってしまう。


 じゃあなんで買ったんだよ、と言われるかもしれないが、やっぱり期待してしまうんです。で、絶対あとで良くなることが確約されてるミュージシャンです。(注:僕の場合なので、個人差はあると思います)。


 家に帰るとCDをかけて、ライナーノーツを見るのですが、「!?」眠くなるアルバムと書いてあります。もしや今回はBECK初のハズレアルバムか?

 こちらとしてはまたメジャーデビューアルバム『メロウ・ゴールド』の「ルーザー」みたいな気怠いラップや、『Guero』の「E-Plo」や「Girl」みたいな呑気でピコピコしてる曲を期待してるのに、妙に静かだ。言い方が悪いが凄い普通な曲?

 静かに聴いていると、静かな曲ばかり流れます。でも、このタイプ、初めてじゃない。ちょっとデヴィット・シルビアン寄りな感じ。段々とのめり込んでいく感じ。静かな中にもグルーブみたいなものがあって、ジャカジャカしてないのにノレるみたいな、ちょっとずつ盛り上がってくる。なんか全部映画やドラマのエンディング曲のような、グワーって色んなことがあってからの終わって全部落ち着きました、みたいな感じ?ダメだ、うまく表現できない。まだ説明するのに、が足りない。


 ちょっとblurの時(第16話)にも同じようなこと書いたかもしれません。「好きだなぁ」って言い切れない。僕の中でBECKは聴いておかなければ、という気にさせるミュージシャンなのかもしれません。


 聴き始めて、何回かは「なんじゃこりゃ」と思いながら聴いている。それでも何かを期待して、何か作業する時に(例えば本読んでる時とか、カクヨムで小説書いてる時なんか)流しっぱなしにして聴き流す。耳が鳴ってる曲を無視して、聴こう聴こうとしなくなって、頭の中がフラットになった時に、耳に「お!」と届く瞬間があります。それがフレーズだったり、リフだったり、フィルインだったり、サンプリングで入ったなんかわかんない音だったり、なんか気に入る部分を見つけたりできるんです。そうすることによって、CDラックに埋没することなく、「聴けるCD」になる場合があるんです。「お金出して買ってるから、なんとか元取りたいのです)

 逆に目当ての曲があったりすると、アルバムなのにその曲しか聴かないなんてCDもあったりします。それこそBECKの『メロウ・ゴールド』なんか「ルーザー」しか聴かないことが多い。


 そんな程度の好きさ加減なら、こんなコラム書く資格ないかもしれない。持ってるCDも『メロウ・ゴールド』『オデッセイ』『Midnite Vultures』『Guero』『Modern Guilt』と今回の『ハイパースペース』と、まだ6枚。なんか聴いてて、ふわっと「好きだなぁ」の方は天秤がちょっと振れる、という作業をしなければならないので、気に入ったからバーっと一気に全部集めちゃうってとこまでいかない。


 聴いておかなければ:好きだなぁ=49:51って感じ。


 そんな無理して聴く必要ある?とおっしゃるでしょう。

 このBECKという人、僕が物凄い影響受けてるのがファッションなんですね。スーツにニット帽、ボーダーのTシャツの下にボーダーのロンT、刺繍のシャツ、ミリタリーシャツ、ずらしたボトムス。なんか全部良く見える。アパレルの仕事をしていて、相当参考にしましたよ。だらしないんだけど綺麗、ダサいんだけどスタイリッシュ、この人からは何故かいっぺんに両極端な感じを受け取ってしまう。

 だから、物凄く気になる存在。ファンじゃないけど好きなような、もう聴かないだろうな、と思っても1年に1回くらいのペースでどうしてもBECKじゃなきゃダメな10日間くらいがやってくる。


 BECKを教えてくれた奴をあんまり好きじゃなかったことも関係してくるのかな。アパレル同業者で少し歳下の人だったんだけど、顔を合わせはちょっと話すくらいの存在。この人、可哀想なのがパワハラで有名な人がいるお店で働いていて、急に来なくなっちゃったと思ったら、直ぐに他の店で働いてて。まあ、アパレル業界によくあることなんだけど、新しい店の上司が可愛がってくれるもんだからちょっと調子に乗り始めた感があって、パワハラのあることないこと言い振り回して、なんとなく外から見てて嫌な気持ちになった。

 僕もそのパワハラの人、あんまり好きじゃない人だったけど、ちゃんと筋通してないような、んー、自分もあんまり他人のこと言えた義理ではないけど、あんまり気が合う人じゃなかったかな。


 なんかの拍子で、その人と音楽の話になって、普段何聴いてんの?って聞いたことがあった。


「僕はBECKばっかりですね」


「ジェフ・ベック?」


「違います。BECK。です」


 へぇ、とか多分気の無い返事をしたのだと思う。僕も失礼な奴だ。それから、その子のオススメだったこともあり、直ぐに聴くことはなく、だいぶ時間が経ってから、「ルーザー」を聴いて好きになり始めたような曖昧な記憶。BECK聴き始めた記憶すら、そんな感じだから、なんかわからないけど、好きな気がするような曖昧な感じ。(BECK好きな人、ごめんなさい)だからあんまりのめり込まないというのは理由にはならない。

 そいつとはもう15年以上も会ってないし、それほどの仲でもないし、連絡先も知らなければ、どこかでバッタリと会わない限り、一生会うことはないだろう。それに15年も経ってればお互い、いいオヤジになって気付かないかもしれない。仮に気付いたとしても、既に名前を忘れているから、呼び止めることもできない。今頃どうしてるのかなぁ、とも思わない。べつに嫌いな奴ではなかった。そんなヌルッとした感じで聴いている。


 でもまた新しいCDを買ったので、聴き込んで、ちょっと経ったらまた周期的なBECKじゃなきゃダメ週間がやってくるかもしれない。


 それがやってこないと、CD買ったのに損してしまう。今日はこの辺でBECKを聴くのをやめて、久保田利伸に乗り換えようっと。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る