第23話 RIPSLYME(リップスライム)

 書いちゃいます。

 楽しいやつです。夏にピッタリです。BBQでもドライブでも、なんにも考えずに聴けるやつです。どーしても、この時期聴いてしまいます。

 べつに「夏」に限った曲ばかりじゃないのですが、やっぱり『楽園ベイベー』のヒットが影響してるのか、その後の『熱帯夜』なんかも、やっぱり夏って感じなわけです。

 夏は『リップスライム』と『ドーベルマンインフィニティ』さえ聴ければ、とりあえず盛り上がれます。と、言っても平日休みの僕はなんの夏イベントもなく、1人で部屋で盛り上がっているのですが。


 ラップって、どこから手をつけていいのかわからなくて、普通のロックっぽい曲に、ちょっとラップが入るだけの曲が好きだったんです。それも洋楽。だって日本語ラップって、がなってるだけのラップ、やたらダサい韻を踏むラップ、ボソボソ喋って文句言ってるだけのラップ、あまりカッコ良く思えなくあんまり馴染めませんでした。だから、この人!というラッパーは知りませんでした。

 それでも中学高校の頃、ラップというかファンキーなブラックなノリが好きなのか、何言ってるかわからないけど無理やり洋楽のヒップホップっぽいのは少し聴いてました。

 洋楽のヒップホップなんか、知識入ってくるルートが少なく、ヒップホップ系の雑誌はコテコテのファッションの黒人ラッパーの表紙だったりで、CDジャケットもギラギラしてて、だいたいヒップホップとヘヴィメタはCDジャケ買いは失敗が多いです。


 そんな感じで、ラップは日本語ではやってはダメというのを勝手に決めつけてました。今になってみれば『Zeebra』や『RHYMESTER』なんか超聴くんですけど、その頃全く知らなかったんですね、日本のヒップホップを。


 リップスライムは日本のラップを聴くきっかけになった人たち。リップスライムを初めて聴いたとき、ん?、と今までの聴いてきたラップと違って、なんか聴きやすい、ノリやすい、歌いやすいの三拍子で、これはいいと思ったのは息子が妻のお腹の中にいる頃だったから、20代後半くらいですかね。

 いい感じで抜けてて、いいバランスでふざけてて、それが凄いオシャレな感じがして、で気取ってない。


 当時クレイジーケンバンドとライムスターの『肉体関係』がちょっと自分の身の回りで流行ってて。その頃ライムスターを知らなかったから、「ラップってふざけてるなあ」と思いつつも、気づくと頭の中では「肉体関係ー、オー、イェー」と歌っているわけです。


 その時、テレビで見たのはリップスライムの『FUNKASTIC』。リップのみんなが着てたオレンジのツナギが凄いカッコ良くて、スッと耳に入ってきたんですね。なんか頑張って練習すれば歌えそうな聴きやすさ。次に出た『楽園ベイベー』で完全に虜です。

 多分深夜のランキングチャート番組とかで、それ以前の『One』のPVは見たことあったんですが、その時は「なんかまた日本人のラッパー出てきたな」と思った程度で、あんまりしっくりこなかった。それに自分より若い世代の子たちが、「リップのワン、いいよね」って話してるのを聞いて、たぶんこのリップスライムという人たちは若い人が聴く音楽なんだな、と思ったくらい、あまり印象になかったです。


 でも後から調べたら、DJフミヤ以外みんな僕より年上じゃないですか。ペスにいたっては同じ歳。うわー、親近感(勝手に)。


 むかしは頑なに年下ミュージシャンの曲は聴きたくなくて、それは自分もちょっぴりバンドやってたこともあって諦めて、それが年下の音楽聴くのなんて悔しいじゃないですか。でも、息子がデキたくらいからちょっとずつ変わってきて(今じゃ、殆どが年下ですが)、同じ歳や年下ミュージシャンが活躍してるのが、嫌じゃなくなって、むしろ凄いなって素直に思えるようになって。


 結構1976年生まれのミュージシャンっているんですよね。くるりの岸田繁(くるりはリップとコラボもしてますね)、アジカンの後藤正文(ゴッチなんて同じ静岡出身ですよ、凄くないです!)、KREVAもそうです。湘南乃風の若旦那やショックアイも同じ歳、森山直太朗も綾小路翔も同じ歳、そしてリップのペスも。この年は豊作ですなあ。


 そして何よりも、このペスの声がいいのです。ちょっとだるそうなSUさんのMCに、ちょっとエロくてふざけてパンチの効いたRYO-Zとバキバキ発音のイルマリのMC、そこへペスの甲高い声、誰一人外せないのがリップスライムです。またDJって基本何してるかまだ理解できてないのですが、被せてくる音がカッコいいのはDJフミヤがいるからでしょう。なんか、今活動してないのが、寂しい。


 リップスライムの曲で好きなのは、と訊かれると真っ先に出てくるのが、ペスの『女神のKISS』。これペスのソロアルバムに入ってるんですが、堺雅人主演のドラマ『リーガルハイ』のエンディング曲ですね、もう毎週見てましたよ。なんかペスのラップって、ラップだけどちょっと歌ってるっぽくて、聴きやすいのです。


 でもでももっと好きな曲は、と訊かれると(誰も訊いてないですが)、ちょっと思い入れがあるのが『

 STEPPER'S DELIGHT』です。ノリが良くて、ベース音がカッコいいので、もちろん好きなのですが、これは息子が小さい頃好きな曲だったんです。




 息子は小さい頃に、ちょっとした手術をしました。命に関わる病気ではなく緊急を要するものでもなくて、まあ小さいうちにやっときましょうか的な内容だったのですが、手術は手術で、小さい子は全身麻酔だというから簡単なものではなくて。

 その当時、テレビでは医療ミスのニュースが多く、麻酔の量を間違えただことの、親としては夫婦で悩みましたが、先生を信用してお願いしたのです。

 でも妻は本当にギリギリまで悩んでいて、手術直前までも本当に手術させていいものかとずっと泣いてて。1人目の子で、本当に可愛くて、男の僕でさえ毎日が息子のことばっかり考えてて。それは妻になってみれば、僕なんかよりずっとずっと可愛がってて(今じゃ、言うこと聞かなきゃぶん殴ったりしますが)。


 手術前の説明で、「麻酔がかかるまでの間、安心させるために息子さんの好きな曲をかけておくので、CDを持ってきてください」というのがあり、僕は息子になんのCDにしようか訊きました。

「ウルトラマン大全集」なのか、「キン肉マン大全集」(僕の影響で息子にキン肉マンを見せてました)」なのか、UAの「うたううあ」なのか(UAがNHKで子供の歌番組をやってた時のアルバムで、童謡が収録されているCD)、そのどれも選ばなくて。


「これ、持ってく」


 と息子が持ってきたのは、リップスライムのベストアルバム『グッジョブ!』。特に息子は1曲目の『STEPPER'S DELIGHT』が好きで、この曲のことを『アパッピロ』と呼んでいました。息子には、そう聴こえるようで。


 手術室の前、「お母さんとお父さんに、行ってきますって言おうか」と息子と手を繋いだ看護師さんが言った。看護師さんは息子と繋いだ手の逆の手にCDラジカセを持っていて。妻の顔は、だんだん暗くなるが、息子には心配かけまいと、なるべく笑顔を作っていて。でも妻は泣くのを我慢できなくて。


 そこのバックに流れているのはリップスライムの『STEPPER'S DELIGHT』の「🎶ポッ、ポッ、ピロッ、ラッ、ラッキリュー🎶」とご機嫌なリズムに、ご機嫌にリズムをとっている息子。涙目で心配する妻の前で、これから手術とも知らずノリノリの息子。

 この笑っていいのか泣いたらいいのかわからない微妙な空気。


 でもこの音楽のお陰で、全然泣かずに無事手術を終えた息子。今でも夫婦で話しますが、『STEPPER'S DELIGHT』は本当に有難い曲なのです。


 その時3歳になるかならないかくらいの時だったので、現在高校生の息子は全く記憶がないようですが、これからの人生、辛いことも大変なこともあるだろうが、この曲を聴いて乗り切ってくれ!


 『STEPPER'S DELIGHT』』は、そんな大切な曲です。

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