スフィアメモリー そのⅧ

「見事だったな、炭比奈粒磨」

 どこから現れたのか、鍵下がそう言った。

「見ていたのか?」

「ああ。見させてもらった」

 今鍵下に襲われては、大惨事を免れない。俺は構えようとしたが、

「そんなに緊張するな。お前の強さはしっかりと網膜に焼き付けた。ここで勝負を挑んでも俺の負けは見えている」

 と言った。

「お前…。黒幕が先生だと知っていただろう? 他のみんなはそれを知らないようだが…」

「お前が教えるんだろう?」

「止めないのか?」

 鍵下は無言で、首を縦に振った。

「だが、学級崩壊だけは起こすなよ? 俺の島でそんなことは体験したくはない」

 俺だってそうさ。それに先生は教師としては一流だ。超能力に関わらなければ、俺だって何をしても気に留める気はない。

「超能力者が集まって来るのは、辞めさせるさ。この島はそういうことをするためにあるんじゃない。…とは言っても、俺は本土に戻れそうにないけどな」

 親の仕事は、この島で続いている。だから島から出ることはできないだろう。

 でも俺自身、この島の生活を楽しみたいと思っている。先生の策略のために連れて来られたのだが、俺がここに来た意味は他にも必ずある。


 狩生先生は学校に戻った。この一件を報告しなければならないためである。

「申し訳ございません。まさか、私が敗北を喫することになるとは…」

「構いません。私にも新しい作戦があります」

 先生の会話相手は、そう答えた。しかし先生は納得できず、

「粒磨には、明日にでもリベンジを! 今私の心は、敗北の屈辱で燃え盛っております。この怒りを全てぶつけることができれば…」

 必ず勝利できる。先生はそう続けたかったが、

「落ち着きなさい!」

 声の主が、先生の頬を叩いた。

「私の指示に従いなさい、狩生先生。あなたは下がり、私が前に出る」

 先生の頬は赤く腫れあがっている。しかしそれとは対照的に先生は、かなり落ち着いている。

「では、指示のままに。しかしどうやって粒磨を倒すのです?」

「倒す必要などありません。操るのです。そしてこちら側につければいいだけのことです」

 声の主は、作戦を黒板に書いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る