インドミナスエクスプローション そのⅢ

 思っていたよりも分が悪い。

「どうした炭比奈粒磨? さっきまでの余裕がなくなっているぞ?」

 いいや、すぐに取り戻す。俺の周りに火薬がまっていないことを確認すると、俺は後ろに下がる。

 何か、考えつかなければ負ける。だがそれが、思いつけない!

「ん、何だそれは!」

 俺はここで、鍵下が何か小さな球を持っていることに気がついた。

「癇癪玉を知っているか? まあ知らなくても今から思い知ることになるが」

 聞いたことはある。火薬でできた昔のおもちゃだろう? それすらも武器にするのか。

「そんな小さな玉じゃ、ちっちゃな火傷ぐらいしか起こせないんじゃないのか? それで戦うって言うなら、無理があるぜ!」

 だが鍵下は、表情を変えない。そして一つ、上に投げた。すると、大きな音を出して爆発した。鍵下の真上には、尋常ではない煙が立ち込める。

「一発だけで? そんな馬鹿な?」

「それを可能にするのが、俺の超能力」

 アレを全部投げつけられたら…俺は想像しただけで、血の気が引くのを感じた。だが同時にそれは、弱点でもある。

 俺は、足を動かした。一気に距離を縮めて、大きな爆発が起こらないようにさせる。流石の鍵下でも、至近距離で爆発しようものなら、それに耐えられないだろうからな。

 だが、俺が近づいた時、鍵下は癇癪玉を容赦なく撒いた。

「自爆する気か!」

 瞬時に俺は、水の膜を作る。防御壁としての期待はあまりできそうにないが、ないよりはあった方がいい。

 ドン、と音がした。全ての癇癪玉が同時に爆発したようだ。水の膜は爆風でボロボロになっている。おまけに全てを防ぎきれず、俺は吹っ飛ばされた。

「いてて…」

 膝を擦りむいた。少し血が出ている。

 俺はこれで済んだが、もっと近くでしかも防御もしてなかった鍵下は…?

「防いだか。まあ、そうでもないと他の奴らには勝てないだろうしな、当たり前か」

 煙の中から、その姿を現す。なんと、無傷だ。

「言い忘れたな。俺はどんなに大きな爆発があっても、その影響は受けない」

「………」

 超能力もここまでくると、何でもありか! だがこれで、ハッキリとわかったことがある。

 それは、自分の力だけで鍵下を突破しなければいけないということ。相手の超能力の誤爆に期待してはいけない。自分の水を信じて、立ち向かわなければいけないのだ。

「言い返す気力も言葉もないのか? ならガンガン攻撃させてもらおう」

 攻撃宣言までしている。何が来る?

 懐に手を伸ばしている。さっき出て来たのはロケット花火だったが、まさか今度もそうなのか!

 いや、違った。同じ花火でも、あれは打ち上げ花火だ。その筒を俺に向けて、発射する。

「くっ!」

 玉がピューと音を鳴らして飛んでくる。アレには、余計な刺激を与えない方がよさそうだ。俺は横にそれてかわす。

「それでかわしたつもりか? まだ本番でもないのに」

 どういう意味…か、わかった。

「うお!」

 俺はしゃがむと同時に、水を散弾させる。

 次の瞬間、玉が弾けた。アレで俺の体を狙ったのではなく、破裂した時に出る火花で攻撃する手筈だったのか。

「まだあるぞ」

 今度は手のひらから、紐でできたわっかのようなものを地面に落とす。

「何だあれは?」

 その名前が、まったく思いつかない。何が起きるのかも想像できない。

 それは、地面に落ちると、音を出して回転し俺の方に動いてくる!

「お前は知らないようだな。これはねずみ花火という。火をつければシュシュっと音がして、動きもあってかねずみを彷彿とさせるから、その名が付いたのだろうな。ねずみをと違う点は、最後に爆ぜることだろうか」

 何だって、これも爆発するって言うのか!

 地面を這うねずみ花火。個数は四個。二個は手前から、残り半分は迂回して俺の後ろに回り込む。逃げ道を完全に潰していくやり方! これが爆発すれば、間違いなくマズい! いや、回避する方法が一つだけある。ジャンプするんだ。

「く、くそ!」

 俺はねずみ花火に追い詰められ、その場でできる限り大きくジャンプした。だが俺は、ねずみ花火が着地するまで爆発しないとわかっている。それは鍵下が調節することができるから。

同時に、鍵下の方を見る。ロケット花火を構えている。やっぱりだ。

 ジャンプしてしまうと、動きが取れなくなってしまう。鍵下はこれを待っていた。この状態でロケット花火もねずみ花火もかわすとなると、一苦労どころじゃない。

「終わりだ。最後はあっけなかったな」

 だがここで、使うべき調節がある。

「そうだったな。テレポート…。その存在を、今だけ頭に入れてなかった。そして移動先は、俺の後ろ、だろう?」

 これも見抜かれた…。鍵下は振り向くと同時に、ロケット花火を発射する。

 大丈夫だ、心配するな。ロケット花火だけなら、撃ち落とせる。もはや狙うまでもない。いつも通りの動作だ。

「その慢心が、命取りとなるのだ」

 鍵下がそう言うと、ロケット花火は軌道を変えた。

「え…………?」

 真っ直ぐ飛ぶために、あの赤い棒がついているはず。なのに、曲がった。

「悪いが参考にさせてもらったぞ、お前の魔法の弾丸を。決め手としては欠けていたので武炉氏孝も雷折空飛もあまり警戒していなかったが、使おうと思えば使えるのでな」

 そんなことも可能…。俺の額は、汗びっしょりだ。

 ロケット花火はかなり複雑な軌道を描いて飛ぶ。おかげで狙いが定まらない。

「そして応用も刺せてもらった。お前のそれは、ただ狙った相手に飛んで行って、当たるだけ。だが俺のこれは、一味違う。最後は爆発する」

 俺の、さっき擦りむいた膝の近くで、ロケット花火は火花を出しながら爆ぜた。

「ぐっわわわわわわあああぁ!」

 火花が皮膚の下の組織に、直に当たる。とんでもない激痛が膝から俺の全身に走って行く…。

「そして、お前が逃げおおせたと思っているねずみ花火も」

 無意識のうちに、膝を手で押さえる。でも血は止まらない。その時鍵下の方から、シュシュシュシュっと音がする。

「チキショウめ!」

 ねずみ花火がこっちに向かっている。また四方から俺を囲むと、一気に近づいてくる。そして、爆ぜる。

「またテレポートで逃げたか」

 俺は、元いた位置に戻った。だがテレポートの間際、爆風と火花を少しくらった。無事では済まなかった。

「熱ち…。くそ、制服が少し、焦げちまったぞ…」

 煙も少々吸ってしまっていたので、ゴホゴホと咳が出る。


 負ける。このままだと。確実に。

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