ケミカルウェイ そのⅡ
学校の一室では、とある男子たちが三人集まっていた。
「さっき下の階で爆発音がしたが?」
「烈児のやつ、校内でエクスポーシヴマテリアルを使うとは……馬鹿にもほどがある。あとできつく叱っておかねばな」
「それは烈児が万一勝利したらの話だろう? アイツではまず無理だ。やはりこの俺が行くべきだった」
元々この島の超能力者は、この三人しかいなかった。それが今や、十人を超える。
再び鍵下から話題を繰り出す。
「状況を整理しよう。既に三久須真沙子、
「私にある。クオンティティに物を言わせれば、すぐに打ち負かせることが可能。私たちが手を合わせれば、赤子の方がプロセスに手間がかかるぐらいだ。鍵下、どうだ?」
だが空飛の案に、武炉が横槍を入れる。
「おい。それでは記憶の改ざんができない。条件は一対一で勝負して負かせることだ、忘れたのか? この俺たちが束になって襲い掛かっても、意味がない」
武炉の言う通りである。彼らは島に来る超能力者を、順番に一人ずつ、独力で打ち破って来た。それが今、粒磨によって覆されようとしている。
「では武炉よ、お前が行けば最初から、このようなシチュエーションにはなっていないと言うのか? お前の超能力はイニシャルでは動けない。だとしたら私が…」
「いや、この俺が次に出る。ここまでの強さを見せる超能力者には、興味がある。是非ともこの俺の手で、敗北を叩きつけてやろう」
武炉が決意を表明すると鍵下が、
「行けるのか? 準備はどうなっている?」
無言で武炉は、窓の外の、海の方を指差した。
「…準備はできているのか。なら任せよう」
鍵下は、明日武炉に粒磨と戦うことを許可した。
「ちょっと待て!」
しかし空飛が異議を唱える。
「私の方が超能力に自信があるわけではないが…こちらにもまだ、超能力者は残っているのだぞ? こんなに早く武炉がソーティーする必要はない。私に任せてもらいたい」
鍵下は首を横に振った。
「なぜだ? 確かに武炉の超能力は、この島でも一、二を争うものだ。だが、こんなに早くディフィートされてはこちらの余裕がなくなるのだぞ?」
「心配するな、空飛。この俺が負けるなんてことは、絵空事でしかない。貴様は神にでも祈っていろ」
鍵下はあることを考えていた。
武炉の実力は、今まで粒磨に向かわせた四人とは比べるのが失礼なレベルだ。次元が違う。初戦で攻略できる人間は、まずいないと考えてよい。スケールが違うのだから。
しかし粒磨の力も無視できない。小手調べに真沙子を向かわせてどのような超能力かを見てみた。そして次に指示をだしたが、まさか粒磨に対して有利にふるまうことができると思っていた奴らが、破られるとは…。
武炉も負ける? それは二つの意味で考えられない。一つは実力の高さ。もう一つは、これ以上こちらの超能力者が負けることは、許されないからだ。
記憶を自在に書き換えられる。条件こそあるが、自由自在に。
かつて自分に、そう言った人がいた。ある時、この島を訪れた超能力者だ。そしてその人は、こうも言った。
それができるのなら、世界を塗り替えることができる。そう思わないか?
空飛と武炉は、反対した。持てる力を使って抗ったが、あの人には敵わなかった。
自分はというと、歯向かわなかった。二人が負けたのを見ていて怯えたのではない。その人の話が面白そうだったから、従うことを選んだ。
この世界には、他にも超能力者がいる。手始めにわかっている分、この島に集めよう。そしてそこから、世界を変える。最初は地味かもしれないが、最後は派手になる。
そう言われた次の日、小豆沢が転校してきた。そして小豆沢の相手を自分がした。何も知らない小豆沢を倒すのは簡単だった。そして直後に、小豆沢の記憶を書き換えてもらった。
そして次に、また次に超能力者がこの島にやって来る。そしてそのたび、戦い、負かせ、記憶を改ざんする。言われた通り地味な作業ではあるが、徐々に人数が増えていく。
記憶を書き換えれば、人はこちらの都合の良いことしか考えられなくなる。そうなれば、こちらの思惑が全て伝わる。右を向けと言えば、全員が右を向く。左に首を振るのは、ほんの少数でいい。
記憶を支配するということは、世界を支配するということでもある。
協力すれば、君には左を向く権利を与えよう。
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