初恋


数時間前


芍薬の花束とシャンパンを持って、俺は藤木家の前に立っている。

あれから一年。

もう、二度と会うことは無いと思っていた。

はぁーなんか緊張するな。

仕事でもこんなに緊張する事なんてないのに。

おしっ。呼吸を整えてインターホンを押す。



「はーい」



花さんの声だった。



恋しくて、会いたくてたまらなかった人の声が聞こえる。

この扉の向こうに、その人がいる。

みぞおちの辺りがきゅっと締め付けられる。

こんなに切ない気持ちは今まで一度もなかった。これまで彼女がいない時期はほとんどなかったし、振られたこともなかった。

30過ぎて、これだけ経験してきて

笑っちゃうけど、きっと──



これが初恋なんだろう。



扉が開く。



「お久しぶりです」懐かしい笑顔が覗く。



俺は反射的に花さんの手を取り、玄関の外へ連れ出し、抱き締めた。



「もぅ、ダメですよ」



懐かしいセリフ

懐かしい香り

懐かしい温もり───



「1分だけ」



俺は柔らかな髪に顔を埋め、心から抱き締めた。時が止まればいいなんて、使い古された言葉を本気で使いたくなった。

あぁ、ヤバイ…涙なんて俺のプライドが許さない。ホントに、花さんと出会ってからの俺は今までの俺じゃない。


しばらくすると、花さんはするりと俺の腕から抜け出て



「どうぞ、入ってください」



と、扉を開けた。




「こんにちは。お邪魔します」

「あぁ、リツくんよく来たね」

「こんにちはー!」

子供達が駆け寄ってくる。

「わー!イケメン!」

「そうだよ、今日はイケメンのリツお兄ちゃんが遊んでくれるからね」

藤木さんにそう紹介されて俺は子守り決定。

最初から今日はお手伝いに徹底すると決めて来たから想定内だ。それに、自慢じゃないが俺は子供にもモテる。


テンちゃんはまだ3歳で可愛い盛りに偽りなくめっちゃ可愛い。俺の膝に陣取って、本を見せながら何やら現役ライダーのレクチャーをしてくれている。

オマセなナナちゃんはさっきから俺の隣にピッタリくっついて俺のスマホをチェックしてる。彼女ですか?

リョウカちゃんはクールビューティ。両親の良いとこ取りしてる。絶対美人になるな。

俺に絵をプレゼントしてくれるようで、一生懸命にお絵かき中だ。

一番上のジンくんは小学生だけど体つきが大きい。藤木さんは細マッチョだけど、ジンくんはガッチリタイプだ。後でゲームしようと誘ってくれた。

みんな人懐っこくて子供らしい子供で可愛い。遊んでいて、俺も単純に楽しい。

元々、子供は好きな方だけど、なんだかこの子達は特別可愛い。花さんの子だから?


「リツ兄ちゃん、こっち来て!」


「はいはいー」


なんか、こういうのも悪くないな。





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