168:その大学生活のスタートは、そのときの私の目からすると眩しすぎて。

 後輩くんが大学に入学してこのとき、十九歳から二十歳になる年、大学一年生。

 いっぽうの私は、二十歳から二十一歳になる年、大学三年生、ただし大学からほぼほぼドロップアウトしかけている。


 私の焦りはそれはもうすごいものでした。

 それは、それは、もう。



 後輩くんのこととはある意味関係なく、それはまず、私にとって圧倒的で明白な事実として、そこにあったのでしょう。


 けれども後輩くんとかかわっていても、その気持ちがあるのは、正直なところ事実でもありました。

 彼は浪人時代を終え……大学に、晴れて合格し……入学していく……通学に慣れ、学部を知り、サークルに入っていく。やがてバイトもはじめていく。



 それは私にとってはもはや二年前の輝かしいプロセスでした。

 新生活の予感が、いちばん胸いっぱいの。そして成功したならば、そこからとっても歩んでゆけるはずの。


 これを執筆しているいまでこそ、そんな若いころの二年なんてたいしたことない、とあっけらかんと言い切れますが、けれども当時はまったくそんなことは思えませんでした。そんな感覚は、なかったのですね。二十歳の振り返る十八のとき。これは、すさまじいものがあると、思います。


 しかもそこで成功しているなら、まだしも、です。そこで成功しているならば、あるいはそれっぽく語ることもできたでしょう。へえ、通学そんな感じなんだ。学部ってそういうとこあるよね。サークルそういうのにしたんだ。バイトもそういうのにしたんだ。へえ、私はね――って。



 言えない、とても言えない。

 そんな状況に、境遇に私は陥っていた、……いえ、もちろん、自業自得といえばそれで終わり――なのですけども。




 後輩くんの生活は、ツイッターを見ていると、なんとなく垣間見ることができました。

 他人にはあまり気づかれないかもしれないけれど、でも私には確実に、なんらかの芽生えといいますか、弾力のある回復感といいますか、浪人中のある種の抑えていたエネルギー見たいなものが、みるみるうちによみがえってくるのを、感じとることができました。いえ、それはよみがえったのではなく、彼がなんらかある意味での成熟段階にきたゆえのなにか、だったのかもしれませんけれど――。




 ……もっとも、あとで聞いたところによれば。

 後輩くんの友人が語ってくれた通り、彼はサークルで無言で立ち上がって帰るみたいな感じだったわけですし、私のもう思い込んでいたほどキラキラなわけでなかったとは思うのですが、しかしそれを差し引いても、後輩くんの大学生としての第一歩は――なんだかんだで結果的に、輝かしいものだったと思うのです。そのあとのことを総合的にかんがみても。




 それがたとえ「大学生の新生活」としてはありきたりな輝きだったとしても、です。いえ、私には、そこらへんはわかりません。だって私には「大学生の新生活のきらめき」は、なかったのですから。最初はつくろうとしても、そのあとばたばたばたっと慌ただしい勢いで、失敗していったのですから――。

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