129:またうずいた胸の痛みを、私はなかったことにしようとした。
倉庫へ向かい、もう最終下校時刻で
私は後輩くんにいろんなことをしゃべりかけました。明るく、ふざけて。ごはんをしたときみたいに。
後輩くんは、けっして無視も軽視もしなかったと思います。ですが、ほかの部員もいるなかでは、私だけとしゃべるというわけにはいかなかったようです。ましてや、部長で、まだ引退前の三年生です。主要中の主要メンバーです。いえ、そういう問題ではなかったのかもしれません。
とにかく、彼にしゃべりかけるひとは絶えず、彼からもしゃべりかけるひとは絶えない、といった印象でした。
そのときには高校生になっていた後輩ちゃんにも私は話しかけました。記憶にある通りのかわいい笑顔で、くすくすと笑うかのように人懐っこく私の言葉に反応してくれました。でも、後輩ちゃんも、私と積極的に話すというわけではなさそうでした。たくさん、しゃべるべき相手がいたのです。
それになにより、彼は彼女と。彼女は彼と。
いちばん、話したがって、いっしょにいたいように見えましたので――。
私はもうここの人間ではないんだ、と思うことにしました。
それは半分当たりだったでしょうけど、あとの半分は、やっぱり自分をごまかしていたのでしょう。
大きなものがつかえました。――もう、ここには、戻れない。
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