99:卒業式でのこと。
あとづけかと思われるかもしれませんが、たぶんほんとうです。
私は、卒業式の日、たしかに彼を意識していました。
以前にもちょろっと書きましたが、うちの学園は高三の卒業式には高二が全員義務で参加することになってます。練習もいっしょにしますし、本番もいっしょに迎えます。
卒業は、三月の上旬でした。2011年。あの震災の、直前でした。
そんな予兆はまだなにもなく、春の気配はただのどかで、まだそのときには上智神学の合格通知がなかった私は第七志望くらいだった私立大学に進学するのかなとひとごとのように思ってて、国立志望でまだ結果の出ていないクラスメイトや浪人か三月募集を選ぶかというクラスメイトだらけで、なんだか中途半端なところ、高校時代を途中でぷっつり裁断されたかのような卒業式でした。ただ、ただ、あたたかくて、のどかだったのは、とてもよく覚えてるんです――。
練習した通りに式は進みました。卒業証書授与では卒業生全員が担任から順番に名前を呼ばれます。九組まであるなかの一組のひとケタ台の出席番号だった私。つまり、三百人ほどの卒業生のなかで、まっさきに呼ばれる部類だったわけです。
名字を呼ばれて。はい、と返事をする瞬間。
ちゃんと、後輩くんは、このときだけでも、長くて退屈な卒業式のなかで、私の名前を、聞き分けてくれたかなって、思いました。
堂々と言おうとした返事はちょっと上擦っちゃったような気がして、無性に悔しくて、そのあとは知り合いの名前が出るたびぼんやりとそのひととの思い出を思い返したりしつつ、私は、私は――
いま、後ろに、後輩くんもいるんだよなって。
ちょっとでも、惜しんでくれてるのか、って――いやいやそんな、って。卒業式のくせに――妙に自嘲めいたことをよく覚えているのです。あのときの、ふわっとして、めでたいくせに、妙にさみしいせつない気持ち。いまでも……。
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