90:さて、先日酒を飲みながら、彼と語ったところによるとですね。

 めちゃくちゃよい肉と飲み放題の酒でとても気持ちよく酔いながら。


「俺たちがいまの記憶を持ったままあのときに戻ったとするじゃん? それでどうするって、なにもしないと思うんだよ」

「うん、我々はなるべくなにも変えないようにするだろうね。裏で話し合いながらも、このままの道すじになるように行動しよってことになると思う」

「でも変な話、お互い記憶があるわけだから、ちょっとずつ筋道は違っていくと思う」

「ああ、それはあるだろうね。確実にある。私たちが元通りにしようとすればするほど、ちょっとした綻びが出てきて、そういうのがやがては運命を変えてしまうかもしれないよね」

「だから、このままの道すじにするためには、戻らないっていうのがたぶん正解」


 私は何杯めかの盃を上げて、彼の顔に透かしてちょっと笑ってみました。


「明日、急にお互いこの意識のまま高校時代に戻らないことを祈ろう!

 あ、でもかりに戻っちゃったら、そりゃもう仕方ないから早めに報告しあって対策を練ろうね!」




 この道が最善だった、――というよりはこの道しかなかったと、私とて知ってはいるのですけれども。ただ、このあとに起きる、……いろんなことを思うと、ね。



 ――時間は、私の残り少ない高校時代は、確実に少なくなっていきます。

 演劇部のみんなは引退。部長は、彼になり。

 文芸部もいちおう引退ということに、したんだっけな。彼にも副部長的な役目は任せた気がしますが、ここさえもふわっとしてます、ほんとになんかごめんという感じで。



 そして、季節は、また真夏を連れて容赦なくやってきます。

 私にとっては、受験の夏。彼にとっては、本格的な高校時代の高二の夏――。

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