87:彼氏がうさ耳だったことしか正直まともに覚えてない。

 脚本を仕上げて、演出は任せて、受験勉強と中編執筆をしながら演劇部に出入りして。高校生活の終わりを、肌で感じて。


 このあたりはほんとうに記憶がぼやけてますね。毎日ぼやぼやとクラスと講堂と喫茶店と自室を行き来していたような記憶しかない。

 まあこのエッセイには直接は関係ないのですが、この時期は親との折り合いがかなり最悪だったので、補導ギリギリの時間まで喫茶店に避難して、親が寝たあとに帰ったりしてました。一般的には受験生って家族に手厚く気遣われるイメージがあるようですが、私はまったくそんなことはなく、志望校にかんしてもその大学を志望するだけで驕っていると、ぜったいに落ちると言われ続けてました。家がぜんぜん落ち着けなくてですね……(いまにして思えば親は親でいろいろあったんですけど、まあそれはほんと話題がズレちゃうので……いまは親ともまあまあ和解してる、とだけ書いてはおきます)。


 ただそのなかでもよく覚えているのが、私の書いた脚本でほんとうにみんなは引退公演をしてくれて。当日が来るまでほんとうに自分の脚本でやってくれるのかハラハラして、別の脚本に当日になって差し替えられるのではないかとか、ほんといまにして思うとみんなに失礼すぎるようなことを思っていて、

 でも、ほんとに公演をしてくれて、タイトル通りの月と金星、そんな黄金の光を感じるような出来栄えにしてくれて、幕が下りたときの一瞬。


 あとは、二年生がお礼として教室の一室で演じてくれた演劇の場に、私もいたこと。彼の演技がやっぱ普段の感情のなさそうな感じと比較して、こう、うまいのだなと思ったこと。


 彼がひょんなことからアリス風味のうさぎの役をやったことがありましてね。私が一年生のときにもやった脚本だったのですが。あのときの彼のうさ耳が衝撃すぎて、卒業してからもしばらく「うさ耳もっかいつけて!!!」と完全なるダル絡みを繰り返した私ですが、あれはそのときだったのか、でも講堂でやった気もするから――ほんと、彼のうさ耳ってこと以外すべてがぼやぼやしてますね。むしろ唯一はっきりと残った記憶はそこなのか……っていう……いくら受験ノイローゼと家庭環境ヤバ時期だったとはいえなんかほんとすまんな……。

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