70:たまごが先か、にわとりが先か。そして、彼とつきあう女の子との出会い。

 さみしくなかったと言えば嘘になります。

 ただ、このときの私は毎晩プロ作家さんたちと掲示板で議論をさせていただいていて。受験前にいちど長めの作品を公募に書いて送ってみろと煽られて(あのときはほんとにムカつきましたが、いまにして思えば教育の必要上って感じです)、じゃあ書いたるわあという気持ちでいっぱいで、正直なところ文芸部がガチじゃないならそれはそれで仕方ない、と思いはじめておりました。



 それは、半分は言いわけだったのかもしれません。つまり、さみしくなった文芸部への。私の、ほんらいあるべき責任の。それ以上に、私の感じていた根本的な不満やさみしさの。最後の矜持を守るために、まあいいや、って思っていたのかも。


 でも――実際に私の心はもう文芸部のそとに、あるいはその先に、移ってしまっていたこともまた間違いないです。

 つまり、……プロ作家さんたちの集まりで面倒を見てもらい、うちの学園からは年に何人も出ないトップクラスの大学を目指して、さっさと進学して、さっさと四年間の「プロを目指す時間」を獲得する。実生活は、そのことにほとんど頭が占められていたといっても、過言ではありません。



 たまごが先か、にわとりが先か。

 文芸部をだいじにしなくなった私は、文芸部にもだいじにされなくなってたのでしょう。

 それは、言いわけもあれば、私の心の弱さも、醜さもありました。



 すでに、過去にしたくなっていた。私の悪い癖でした。静かになった文芸部なんて、なおさらいらないと思い込もうともしていたのでしょう。




 ただ――ひとりだけ、文芸部をメインにしてくれていた後輩がいて、私にもすごくなついてくれて、私のほうもとてもかわいく感じて、ずいぶんとかわいがってました。

 その。この子が。……この年に、後輩くんといっかいつきあいはじめるのですが――。

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