外伝 先輩風

 ギルドで噂になっていた黒髪のルーキーを初めて見たが、想像以上に異様な雰囲気を持ち合わせた人物だった。ギルド仲間の話では、ルーキーはおっさんだと聞いていたけど、彫りが浅いのっぺりとした顔立ちが、年齢不詳に見せていた。


 酒場にたむろっている冒険者たちは、新人冒険者を見つけると、からかうようにくだを巻く。しかし黒髪のルーキーに対しては、未だに遠巻きで眺めるだけである。長い柄に刃を付けた武器を持ち歩いているので、ソロで獲物を狩ってくるかと思っていたが、日帰りでギルドに戻り、袋に詰めた薬草を毎日換金してくる優等生ルーキーだった。


 ギルドや山道で会えば向こうから挨拶をしてくるし、自分の中での彼の不気味さは、日増しに薄れていく。いつのまにか彼のことを、おっちゃんと呼ぶようになっていた。ソロで薬草摘みを続けている冒険者は意外と少ない。仕事に慣れれば、実入りの良い狩りを中心に、冒険者活動をするルーキーが大半なのだが、おっちゃんは薬草狩りに重きを置いているように思えた。


「もっと美味しい、依頼は幾つもあるだろう」


 そう言って、俺はソロでも出来そうな依頼書を掲示板から引き千切り、おっちゃんに手渡した。


「命が大事だし……」


 いつもの薄笑いを俺に向け、おっちゃんは依頼書に目をやり、そう一言残してギルドを去っていく。


「余計なことをしたようだ」


 彼の背中を見ながら呟いた。


 数日後、驚いたことに俺が押しつけた依頼を、おっちゃんは片づけてきた。


「無理にやらせたみたいで、悪かったな!」


 そう言って、換金所で並んでいたおっちゃんに声を掛ける。


「俺のランクに合わせて見繕ってきてくれた仕事なんだろう、謝る必要はないぞ。後ろめたいなら、もっと美味しい仕事を振ってくれ」


 そう言い終わると、おっちゃんが大きな声を出して笑う。


「今度はとびきり金になる仕事を斡旋してやる」


「楽しみにしているぜ、せ・ん・ぱ・い」


 俺は自分の名を告げ、先輩と呼ぶなと怒るそぶりを見せた。彼は悪びれもせず、ギルドから出て行く。ルーキーに生意気な態度を取られたが、悪い気はしなかった……。

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