第201話 魔王城【其の六】
「おっちゃん様、起きて下さいにゃん」
誰かに身体を揺らされ、目が覚める。ベッドの横には、俺を覗き込んでいる獣人メイドがいた。
「んん~もう少し寝かしてくれ」
「お食事の用意が出来ましたにゃん」
アナベルさんはため息をついて、俺の身体を揺り動かす。
「朝飯は遠慮すると言っておいてくれ」
彼女は困ったお客様だと肩をすくめる。
「何いってるのにゃ……朝食でなく昼食だにゃ~」
流石にそれを聞いて、もう少し眠らせてとは言えなかった。俺はまだ眠たい目を擦りながら、ベッドから這い出し身支度を調える。
「早く私について来るにゃん」
俺はぴこぴこと揺れる尻尾の後について行き、魔王と飲み明かした部屋に通された。
「遅いではないか」
部屋に入ると魔王とパトリシアが、テーブルに座って俺を待っていた。
「済まない……朝まで飲み過ぎた」
一緒に飲み明かした本人の前で頭を下げた。
「パトリシア王女と話をしたが、昼食を終えた後、お前たちとはお別れだ」
「はあ……」
「何、気の抜けた返事をするのか……。嘘でも残念そうな態度を示して欲しいものだ」
「どうせ、急用でも出来たので、俺たちを追い返そうしているだけだろ」
俺は嫌みをいうと、魔王は目を反らした。
――テーブルから空になった食器が片付けられ、茶菓子とお茶に変わる。
「おっちゃんに対価を払わないといけないが、何を渡せば良いやら」
魔王が俺に聞こえるように呟いた。
「パトリシアを助けてくれるだけで十分な対価だ」
「まあ、そう言うな、魔王としての立場があるのだ……。それに遠慮する柄でもないだろう」
「確かに、貰えるならそれに越したことはないな」
そう言うと、魔王は目を瞑り、額に片手を当てて考える姿勢をする。
「おっちゃんが、この異世界に来た場所は覚えているか?」
「ああ、流石にあの日のことは死ぬまで忘れることはない」
「で、お前はどうして、日本に戻らなかったのだ」
その言葉に、俺は固まった。
突然この世界に転移して、山から転がり落ちた所まで記憶を戻す。異世界に来てから帰る方法など、一度も考えなかった。何故なら、今まで読んできた多くの物語は、異世界から戻ることが出来なくなる、一方通行なストーリーが多く占めていた。俺は飽きるほど転移する物語を読んできたので、帰還する発想がすっぽりと抜け落ちていた。
入り口があれば、出口もある――そちらの方が普通である。俺は魔王にそれを示唆されるまで、帰還という選択を諦めていた。魔王はそんな俺をしたり顔で覗いていた。
「そろそろ、お別れの時間が来だな」
魔王が席から立ち上がる。
「ありがとうな……十分すぎる対価を頂いた。ただ、俺が
「言ってみろ」
俺は真剣な表情で、恐る恐る口にしてみた……。
「アナベルをモフらせて欲しい。あの耳と尻尾を触らずには、死んでも死に切れねぇ」
「クハハハハ、確かにそれには同意する、アナベルを五分だけモフる事を許す。ただし、胸や×××のお触りは禁止だぞ」
魔王は声を出して笑った。
「魔王様の頼みだから仕方がないのにゃ……。気持ち悪いが、許してやるにゃん」
彼女は明らかな敵意を向けで、俺を睨みつける。
まずはピンとした耳をそっと触ると、その感触はまさしく猫の耳と変わらない感触だった。
「ふにゃ……」
俺はその反応を楽しむように耳をなで回しながら、尻尾をむずりとつかんで、その毛の感触を楽しむ
「うにゃにゃにゃ」
アナベルさんが可愛い声を口から吐き出す。そうして彼女の尻尾の付け根あたりを、軽く拳で打ち付けた――
とんとんとん
「にゃ、にゃにをするにゃん……」
身体がビクンと跳ねる感触が手に伝わる。
とんとんとんとんとんとんとん
「ふしゃぁーーー、や、止めるにゃん……」
アナベルさんの声は、段々と弱々しくなっていく。
とんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとん
「にゃにゃにゃにゃ~」
自らお尻を高く上げ、俺のテクに溺れ始める……。
とんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとん とんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとん
「なぁ~~~ん、なぁ~~~~ん」
彼女の口からは、とろりと涎が滴り落ちる。言葉で拒もうとするが、身体が受け入れてしまう。路地裏で盛っている野良猫のような声を、我慢しきれずに上げた。
とんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとん とんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとん とんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとん とんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとんとん
「ふにゃななななななあぁ~~~~~~~~っ!!」
目をトロンとさせ、艶めかしい鳴き声を出す。
そのとき頭に衝撃が走った!?
「お主、やり過ぎじゃ!!」
魔王が呆れたような顔を俺に向けた。
「なな! 時間はまだ十分にあるぞ!! 約束が違う」
魔王が憤怒と
「もう、お嫁に行かれないにゃん」
アナベルさんは両手で顔を隠して、部屋から飛び出して行った。
「おっちゃん! さ、最低すぎます!!」
顔を引きつらせたパトリシアの突っ込みが、部屋中に響き渡る――
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