第146話 妖精の使い道

「プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン、プリン」


 俺の周りをバタバタと飛びながら、薬草狩りを邪魔する妖精が一匹 ―――


「あーーーー、うざい!! 


「ねえ! 意地悪だ、おっちゃんは意地悪だ」


 朝食にプリンを出さなかったら、チックはずっとこの調子で怒り続けていた。


「言っとくけど、お前に餌を与える義理はどこにもないんだ。もうこのまま、どこへなりとも旅立ってくれ」


 露骨に嫌な表情をその顔に浮かべる。


「まだ帰れないの! だってまだおっちゃんに、幸せをあげられていないもの……」


 チックは珍しく泣きそうな顔をした。


「俺にはそれとプリンがどう繋がるのか、全く理解出来ないんだが」


「お腹が満たされなければ、何も始まらないと思わない?」


「分かった、その意見を百歩譲って認めてやる。ただし、プリンを作るための材料を買うのにお金がいるの。お金ってわかる?」


「馬鹿にしないでよ! 妖精だって買い物ぐらいするわ。ただ欲しい物なんて私たちには何もないから、お金なんて持っていないの」


「はーそうですか。良く聞いて下さい可愛いチックちゃん。この薬草を一日狩り続けて銀貨数枚だ。それを材料の卵と砂糖に交換しても、プリンは十個ほどしか作れない」


「十分だと思うけど」


「人間は、肉も野菜も果物も食べないと生きてはいけない。要は俺の稼ぎでは卵や砂糖が


「くふふふ。じゃあもっと働けばいいじゃないの」


 『パンがなければケーキを食べればいいじゃない』理論を平然と吐きやがった。


「悪いな……おっちゃんの力はここまでが限界なんだ」


 あえてチックが見ても分かるように肩を落として、弱いところを見せてみた。


「それは困った……チックちゃんはプリンが食べたいの」


「妖精なら魔法で、魔獣を手っ取り早く捕まえたり、秘薬が作れたりしないのかよ?」


 チックは暫く考え込み、首を横に振りうな垂れた。


「よく考えてみろ、チックは山で花の蜜を吸ったり、果物を取って食べてたんだろ。それなら傷を治す草花とか知らないのか?」


 そう言って、俺はさっき狩り取ったばかりの薬草をチックに見せてみた。


「これ知っている! 元気が出る草だよ。でも、もっと元気の出る草があるのに、この草ばかりを集めているの??」


 俺はニヤリと顔を歪めて、妖精の使い道を思いついた。


「チックの言う草は、どこに生えているか分かるのか!?」


「ちょっと待っていてね」


 にぱっと笑った妖精は、俺を残して森の奥に消えていった。俺は辺りの薬草を狩りながら、チックの帰りをゆっくりと待った。袋に半分ほどの薬草を詰め込んだ時に、草木の間から声が飛んでくる。


「見付けてきたよ。これ食べると元気一杯だ!! でも食べ過ぎるのは良くない。だって草のことしか考えられなくなるの」


 紫の小さな花のついた草を握りしめて帰ってきたチックは、最後にさらっと怖いことを付け加えた。


「この草を見付けたところまで、連れていってくれ」


「うん、ついてきて」


 チックについて行くこと数十分……そこに元気が出る薬草の群生地が広がっていた。俺は初めて見た草だったが、金になると確信した。とりあえず無駄になるといけないので、十束ほど狩ってギルドに持ち帰ることにした――


 ――――ギルドの窓口で薬草を換金して貰う手続きをする。


「すまないが、この草も査定を頼みたいんだが」


 チックのみつけた薬草を台に乗せた。


「ほーほー、ハナリア草じゃな! 昔は結構な数が持ち込まれたが、群生地が森に近かったせいで取り尽くされた薬草じゃよ。滋養強壮に抜群の効果を発揮する、男の味方だ」


 受付の親父はそう言って豪快に笑う。


 新しく見付けたハナリア草の群生地は、草木に覆われた藪を抜けた崖下に隠れていた。だから冒険者達に見つからずに、穴場になっていたと、彼の説明を聞き合点がいった。


「で、金額はいかほどよ」


「そうじゃな……銀貨三枚で引き取ろう」


 俺は平静を装い取引を終えた。


「チック、喜べ! 今から卵を買いに行くからプリンパーティを開催するぞ」


「わわわ、プリンが食べられるのね」


 チックは喜びを表すように、俺の周りをぐるぐると飛び回り続けた。いつもはうざい蠅が飛んでいるとしか感じなかったが、明日の稼ぎを想像すると歓喜の舞に思えた。

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