第136話 ドラゴニア王国【其の七】

 「コンコン」俺たちが寝泊まりしている貴賓室の扉からノックの音がする。扉を開けると、アリッサさんが立っていた。


「なんだ、改まってからに……早く飲もうぜ」


 テーブルの上に乗っている酒瓶を指差し、早く部屋に入るように急かした。


「あ。あの……」


 アリッサさんが何だかもじもじとして動かない。不思議に思いよく見ると、彼女の後ろに、物々しい雰囲気で竜王と竜妃までもが立っていた。


「なっ!? どうして竜王様がここにいるんだ……」


 ソラに何か大変なことが起こったので二人が来たのかと、悪い想像をしてしまう。


「ははは、心配するではない。とりあえず部屋に入らせて貰うぞ」


 竜王は笑いながら、ズカズカと部屋に入ってくる。


「儀式が無事に済みました――」


「じゃあ、ソラはどうしてここに来ていないんだ」


 レイラの身体が微かに震えているのが分かる。


「レイラ、慌てるな……まだ話しの途中だろ」


「――ソラはまだ祭儀場で眠っております。明日には必ず目覚めますので、安心して下さい」


 竜妃がそう言って、俺たちに向け微笑んだ。俺たちはそれを聞いて胸をなで下ろす。


「私らがここに来た理由は、二人にお礼の話しをするために来たのだ」


「それはもう終わった話だ」


「竜王として頭を下げて終わりでは、流石に国を治める立場として示しがつかないないのだ。それに明日になれば、お前たちは感謝の対価を、絶対に受け取らない事ぐらいは、見当がつくからな」


「あなた方には、どうしても受け取って貰いたいの……」


 竜王と竜妃にこうも言われて、断ることなど出来るはずはなかった。


「人間国は通貨が違うと聞いたので、この宝石を二人にお渡しする。これを自由に換金してくれ」 


 手渡されたこぶし大の二つの宝石は、球面全体に細かいカットが入った透明な石だった。比喩的に目映い光を発するという表現では生易しくないほど、太陽の光のように自ら輝きを放っていた。


龍石ドラゴンストーンです。我が竜族の富の象徴と呼ばれるものなの」


 価値は分からなかったが、とんでもない代物だというのは素人の俺でも分かった。こんなもの畏れ多くて貰えないと言いたかったが、場の空気がそれを許さなかった。


「かたじけない。ソラのとして頂くよ」


 俺は今までで一番勇気を振り絞り、言葉を吐いた。


「ウハハハハハ」


 竜王は部屋が割れんばかりの大声で笑い声を上げた。


「さすが、我が子を育て上げてくれた御仁だ」


 なんだか分からないが、俺は認められたらしい。それを横目で見ていたアリッサさんの目は、完全に飛び出していた。


そうして俺とレイラは宝石と共に、銀色の通行所プレートを貰う。


「竜王様、これでは足りないと言うわけではないが、お願いしたい事がある」


「できる限り、何でも叶えるぞ」


「卵を落とした竜を死なせたら、ソラは問答無用でこちらのものだと書き置きが欲しい」


「なんと!? しかし私はその竜には、罪に問わんとゆるしておる」


「俺はそれで済んでいるとは思っていない」


 そう強い口調で断言した、


「そちがそれで満足してくれるなら、書面に書き残して渡すとしよう」


 竜王は簡単に俺の願いを承諾してくれた。


「分相応のものを対価として頂き、レイラと共に感謝申し上げます」


 俺は頭を深々と下げてお礼を述べた。


「では、私たちはこれで失礼する。明日、また会おうぞ」


 竜王は言うだけ言って、帰ろうとした。その時


「お二人様、もう話す機会なんて無いんだから、ここでいっしょに飲もうぜ」


 レイラはテーブルの酒瓶の底をテーブルに軽く打ち付け、ニカッと笑顔を向けた。


「命の恩人の頼みでは、断れないな」


 竜王はドカリと椅子に腰を下ろし、竜妃はしずしずと椅子に腰掛けた。


俺たちは夜更けまで四人で飲み明かす。何を話したかはサッパリ覚えていなかったが、裸でおぼん芸をして爆笑を取ったことだけは、うっすらと覚えてはいた……。

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