第80話 ドワーフ王国【下巻】
翌朝、ノエルが俺を呼び止めた。
「エルフ皇国と密売をしている知り合いが居るんじゃが……」
「ヤバイ奴じゃ無いだろうな?」
「ブハハハハ、犯罪に手を貸している奴に、いいドワーフなんぞいるわけがない。ただ金さえ積めば、奴は絶対裏切らないのは保証する」
「で、その金額は幾らだ?」
酒とボウアの代金を全部使っても、十分お釣りが出る金額じゃよ」
俺はそれを聞いて心底ホッとした。
「出発は四日後の早朝じゃ、場所は後日に連絡がもらえる」
彼の仕事の速さに驚きを隠せない。
「恩に着る!」
「彼女と一緒に、名所でも回って楽しむがいい」
人差し指と中指の間から親指を出してこぶしを握り、ノエルは小さな手を俺に見せニヤリとしやがった。
「良い知らせが舞い込んできた」
「本当に!?」
「エルフ皇国に帰れる目処がたった。しかも四日後に馬車で出立だ」
「やったあああああああああ!!」
全身で歓喜を表し、部屋の中をピョンピョン飛び跳ねている。
「とりあえず、旅の支度を調えるか」
「何処に行くの?」
「まずは市場に行って四日分の食料を用意するか」
「屋台で美味しいものあるかなぁ~」
朝食の肉をあれだけ食って、まだ屋台で食べるつもりか……。
「リズに声を掛けて出かけるとするか」
「リズさんに伝えてくる!」
結局、リズも買い物がしたいそうなので、三人で出かけることになった。
テトラが初めて訪れた市場に目を輝かす。
この場にいる誰よりもテンションが上がっているのが見て取れる。俺が当たり前に見える世界が、全く違う世界に映っているのに少し嫉妬した。
リズのお陰でこの大きな市場から、干し肉や干物、焼き菓子など美味しい商品を見つけ出すには一日仕事になったはずが、数時間で揃えることが出来た。どちらかというと、彼女が買うお酒選びのほうに時間を費やした。
「今日から俺が給仕になるから、嫌いなものがあれば言ってくれ」
前回リズとの約束を守るため、食材を吟味する。
「お客様だから、料理は私に任せてくれればいいのに」
「次、いつ来るか分からないから、夕食は俺に任せて欲しい」
「まあ、律儀な冒険者様ね」
リズは俺を見て優しい笑みを浮かべた。
お互い欲しかった商品を粗方買い終えた俺たちは、市場を出ようとしたとき「ぐー」と腹の音が聞こえた。テトラは頭から湯気を出しながら、耳の先まで真っ赤になった。
「あら、ごめんなさい! テトラちゃんの買い物が残っていたわね」
彼女の手を握り、屋台の集まるエリアへ引っ張っていく。
俺たちは名物グルメを腹一杯、堪能した。
楽しく家に戻ったら昼食を抜いたノエルが、お腹をすかせて待っていた――
「全く酷い奴らじゃ!」
「すまん、買い物に夢中で時間の過ぎるのも忘れてた」
「ノエルさんご免なさい」
「テトラちゃん謝ること無いわ! お腹がすいたといいながらお酒をこっそり飲んでるからね」
「し、仕事中に飲むはずがないぞ」
目を白黒させながら反論してきた。
「ノエルも腹ペコのようだし、少し早いが料理の準備をするか」
「私も手伝いますね」
リズさんは腕まくりをしながら、台所を案内してくれた。
ドワーフは肉料理が中心になるので、俺はあえて魚料理で攻めた。エビフライ、フイッシュフライを山盛りに盛った。油分が多ければ満足度は高いだろう。保険としてカツレツの皿も用意した。デザートは彼女が作ってくれている。作る量は多そうだが余ったところで、うちのブラックホールが全て吸引してくれるので、気兼ねせずに料理を出す事が出来た。
「待ちかねたぞ!!」
昼食を抜いたノエルがテーブルをドンドン叩く。リズに
――――数時間後べろべろに酔っていました。テトラに引きずられながらベッドに入った事と、プリンは彼女が作る方が旨かったのは何となく覚えている。
* * *
旅の支度をほぼ終えたので、出発日まで料理をする以外何も予定はない。ただ、ここまで来るのはかなりきつかったので、テトラの体力を考えると丁度良い休暇となるだろう。
そう思っていましたが――
「おっちゃん! 早く出かけるわよ」
朝食を食べた後、テトラに誘われた。
「出かけるって何処にだよ?」
「この国に滞在出来るのも、今日を含めて三日しかないのッ」
「ゆっくり身体を休めるだけだろ」
「なに爺臭いこと言ってるの! 観光でしょ、こんな機会は滅多にないんだから」
その言葉を聞いて、疲労と困惑が浮かび上がる。
「はあ……」
不抜けた返事をする。そういえば前回来たときは、買い物に奔走しただけだと思い出した。
「リズさんには夕方前には帰ってくるから心配しないでと伝えてあるから」
これは何を言っても無駄だとわかり、大きなため息をつく。俺は何の用意もしないまま、彼女に急かされて家から飛び出した。
舗装された道路を荷馬車が行き交う。道の両端にコンクリートの白い建築物がどこまでも立ち並ぶ。その風景はノスタルジックな気持ちに駆られる。
「不思議なんだよな……これだけ文化が発達しているのは分かるけど、古い建物があまりにもなさ過ぎて違和感さえ感じてしまう」
「当たり前じゃない、百年前はこんな生活を誰もしていなかったんだもの」
「エルフ皇国でもか!?」
「私は生まれていなかったけど、エルフの使命は世界樹と自然を守ることだったもの。そんな古い価値観、魔王様が世界樹と共に焼き払ったんだけどね」
さらっと衝撃の真実を知ってしまった。
「こんなつまんない景色に見とれていないで、ドワーフ議事堂に行くわよ!」
議事堂行き馬車から降りると国技館のような形の建物が目の前に鎮座していた。
「凄いよ! あの神殿みたいな建物、あそこで政治が行われてるの。入場出来ないのは残念、入ってみたいなぁ~」
俺は入ったことがあるとは言い出せなかった。
「次は世界最大の十階建てコンクリートの建物、ドワーフの塔を見に行くわね」
テトラは完全なお上りさん状態ではしゃいでいた。
大水同塔、円形美術館、初代ドワーフ王の像、キャゼルヌ国立公園、等々ドワーフ王国の観光地巡りを楽しんだ。
時間はあっという間に過ぎ――
「リズさん、ノエルおじさん本当にありがとう。きっと私たちは国同士でも手を取り合うことが出来るわ。いつ会えるか分からないけど、エルフとして会いに来ます。」
「そうね……エルフと仲が悪いなんて大昔の事よね。テトラちゃんいつでも家に遊びにいらっしゃい」
「今回も世話になったな」
「ブハハハハ、代価は酒でな」
彼らとの別れはあっさりと終わる。
集合場所には荷馬車が三台と、柄の悪そうな男たちがたばこを吹かせながら集まっていた。普通ならそんな場所に足を向けないが、どう見ても彼らの馬車に乗るのが決まっている……。
俺たちは恐る恐る近づくと、異分子に気づいたドワーフたちは訝しげな視線を投げ掛けてきた。
「ノエルの紹介でここに来たが間違いないか?」
強気で攻めてみる。一人の屈強でヒゲもじゃなドワーフが俺たちの前に来た。
「このパーティのリーダーを任されているコージーだ」
集合場所が間違っていないことに安堵した。
「静岡音茶と隣のエルフはテトラだ、 よろしく頼む」
さっきまで俺たちを訝しげに見ていたドワーフたちの顔が変わる。
「お前、あの戦争の立役者のおっちゃんなのか!?」
「 一応、そうなっている」
「弟が無事に戦地から帰ってきたのは、おっちゃんのお陰だ」
俺の肩をバンバン叩きながら、急に馴れ馴れしい態度に変わった。
持ってきた荷物を荷台に載せ、俺たちはドワーフ王国を後にした――
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