第47話 輪廻転生

「「「バルス」」」


 レイラたちが一斉に叫んだ。


「目が、目がぁ~」


 俺は目が潰れて、苦しそうに藻掻く王様の演技をすると爆笑に包まれた。異世界で芸能は大道芸や小さな箱で演劇をする位しか発展していない。俺は彼女たちに日本の国民的アニメを冗談交じりに話す。


 天空に浮かんでいる城から海底に沈んだ城に設定を変え、主人公を泥棒にしてヒロインをお姫様で話を改変した。物語のラストで主人公らが滅びの呪文『バルス』を唱えて海底の城が崩壊していく。それに巻き込まれた敵国の王様の目が潰れて海の藻屑と消えていく。海底の城は海から浮上してお姫様はそこで静かに暮らす事になり、泥棒は彼女と悲しい別れで物語が終わる。


 酒に酔った茶番劇だったのだが、レイラとルリは号泣。テレサも涙を我慢しながら俺に拍手を送った。それから幼稚園児の如く毎回、話をするようにせがまれる事になった。日本のコンテンツは無限なのでネタは尽きないが面倒くさくもあった。最近のヒット作品は男女二人が夢の中で入れ替わり、空から隕石が落ちてくるのを不思議な力でお父さんが隕石と一緒に自爆し街を守るという話だ。


 今回の話は――


 貧乏だが可愛い女性がタリアの街で慎ましく住んでいました。彼女にはオットウという恋人がおり二人は仲良く過ごしていたのですが、ある日その関係が大きく崩れる事になったのです。彼女の前に大金持ちのダブリン伯が現れ、彼女に猛アタックを仕掛けたのです。彼女は始めダブリンの誘いを断っていたのですが、ある日彼女はオットウと喧嘩をしてしまったのです。その小さな隙を見逃さずダブリンは彼女を一日だけ寝取りました。彼女は一日ぐらいならと気を許していたのですが、毎回目玉の飛び出るぐらい高価な贈り物を貰いでもらうと、だんだんダブリンに気持ちが傾き始めました。そして、彼女はオットウを捨ててダブリン伯と結婚したのです。


 彼女は結婚後一人の子宝にも恵まれ永遠に幸せが続くと思っていたのですが、神様は許してくれなかったのです。実は身籠もった子の父親は元彼だったのです。可愛い子供は日に日にオットウに似てきて彼女の気が晴れる事が無くなりました……。ある日、彼女は子供と湖に遊びに出かけました。二人はボートに乗り水遊びを楽しみました。彼女は湖に誰も居ないのを確認すると子供を水に沈めたのです。


 彼女はダブリンの前で子供が突然ボートから落ちたと嘘泣きしました。彼は子供が亡くなりたいそう悲しみましたが、彼女の方がもっと悲しいと思い前より一層彼女を愛しました。その甲斐あってかまた彼女は二人目の男の子を懐妊し、無事出産する事が出来たのです。三人は仲良く暮らしました。


 ある晴れた日の事、子供が湖に行きたいとせがみました。彼女は断ろうとしたのですが、ダブリンが強く勧めたので断れなくなりました。彼女は湖で子供とボートに乗りました。子供は水面を覗きながら楽しそうにはしゃいでいます。子供の喜ぶ姿を見て湖に来て良かったと笑いました。


 子供は母親の笑顔を見ながら言いました――


「今度は殺さないでね!」


 レイラは大声で悲鳴を上げ、テレサは真っ青な顔でガタガタ震えています。ルリは驚くほど冷静に目を開けていました。よく見ると口から小さな泡を吹き、椅子からポタポタと湖の水が滴り落ちましたとさ。


 おしまい。

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