第6話 いたずら電話

「はぁ……」


「さっきからため息ばっかりでどうしたんだ」


 見かねたヅッキーが心配したのか声をかけてくる。何があったかなんて、そりゃもう憂鬱だからに決まっている。近衛部隊副隊長に「また頼む」とか言われたんだ。いつ電話がかかってくるか気が気でない。今日も今日とてバイトなのだ。宅配ピザ屋だからして、電話はかかってくるのだ。

 この間手渡された鞄もそうだ。口を縛っている紐をほどいて中を覗いてみたんだが、なぜか底が見えなかった。試しにいろいろ入れてみたが、どうやら俺の予想は当たっていたようで。……いやほんと見た目よりいっぱい物が入るってなんなのよ? しかも入れた重量よりも軽いし。失敗作って言ってたけど、どこが失敗なんだ……。ちょっと怖くて言われた通りの使い方以外で使う気にならない。


「……なんでもねぇよ」


 テンプレでマジックバッグという名前の鞄を手に入れたとか言っても変な目で見られるだけだ。目の前で物が際限なく収納される様子を見せつけてやればいいとは思うが、なかなかそんな機会もない。


「そうか? ま、調子が悪いんなら早退でもすりゃいいさ。ラストまでのバイト俺が代わってやるからよ」


 ヅッキーが嬉しいことを言ってくれるが、マジで早退しようかな……。ちらりと時計を見るともう二十一時を回っている。――とそこで電話がかかってきた。


「お電話ありがとうございます。ピザ・チックタックです」


 一瞬びくりと反応してしまったが、電話を取ったのはヅッキーだ。それほど元気よくもなく普段通りの口調で電話に出ている。


「……ええと、もしもし?」


 何やら普段と違う相手なのか。たまに変な客はいるし、たまたま当たってしまったのかもしれない。


「もしもーし? ……んだよ、ノイズばっかで何も聞こえん」


 ……いや待て。ノイズ……だと? もしかしてあれか……。あれなのか? どこかの副隊長からの電話だったりすんのか?

 耳から離して受話器を見つめては、もう一度耳に当てるヅッキーを眺めながらよくよく考えてみるが。


「くふふふふ」


 思わず謎の笑い声が漏れてしまった。

 ふはははは! やっぱり俺以外にも異世界からの電話はかかってくるんだよ! やっぱり俺だけがおかしいわけじゃなかったんだ!

 ……いやでも待てよ。それだとこの店がおかしいってことにならないか? 異世界から注文のかかってくるピザ屋とはこれいかに。


「もしもーーーし? ……ふぅ、……いたずら電話はご遠慮くださいね」


「……へ?」


 一言告げて電話を切るヅッキーに、俺の頭が真っ白になる。


「な……なんで」


 電話を切るんだよ。……そこは副隊長に理不尽な注文と召喚をされるところだろ? なぁおい、なんで電話切ったんだよ……。嘘だと言ってくれ……!


「……どんな電話だったんだ?」


 動揺を隠しながらもヅッキーに様子を聞いてみる。


「ん? あぁ……、ずっとノイズばっかりで何も聞こえなかったぞ?」


「そんな馬鹿な……」


「……何がだよ」


 思わず漏れた言葉に、変なものを見た視線を向けられて正気に戻る。大量注文が来たら、受け取った鞄を貸してやろうと思ったのに。あわよくばそのまま……、いやいや、それはそれで金貨が手に入らなくなるか。しかしリスクを半減するという意味ではいいかもしれん。一人より二人の方が心強いことは確かだ。


「いやすまん。……気にしないでくれ」


 とりあえず何もない風を装っておく。にしても、なんとかヅッキーをこちら側に引き込む方法はないものか。とりあえず時間ができたときに鞄を見せてやるか……。どこで○ドアは現物がなかったから話題にはしなかったが、この鞄は手元にあるんだ。ヅッキーならきっと信じてくれるはず!


 ドキドキしながら副隊長からの電話を待ったが、結局この日は異世界から注文の電話がかかってくることはなかった。

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