第10話有名人


「ベェ!ベェ!ベェ!これしかない!・・ん、私天才♪さ、坊ちゃま!私が直接テレパシーで指示を出しますので、言う通りにしてみてくださいね!」


「は?どうゆう事?」


トルーマンに放り投げられて、そして見ず知らずの女の子が目の前に・・。

バフォちゃんの言葉の意味がよく分からないよ。

しかも、目の前の女の子は僕にカメラを向けてるし、別に有名人でもないのにさ!



「あ、あと・・よいっしょ!このサングラスを掛けてください。道中すこし眩しいと思います!それと、何を言われても笑顔で歩いてくださいね!それじゃあ、スタート!!」


バフォちゃんはノリノリで、デスイ・ハウスの屋根の上に上り始めた。


「あ、そうそう!そこの女の子、あとでジョブ・コインあげるから『え、本物の魔王様ですか?』って繰り返し言いながら、魔王様の後を付いて行ってくれる?」


「は、はぁ?・・いいですよ!何か知らないけど、楽しそう♪」


「??」


なにが、どうなってんの?

お金=ジョブ・コインを稼ぐために、商業地区か工業地区で仕事を見つける方が簡単だと思うんだけど?

事情の呑み込めない僕に、バフォちゃんがテレパシーを送ってきた。


『坊ちゃん!聞こえますか?とにかくサングラスを掛けてください!そうそう、掛けたら大通りを出口に向かいゆっくり歩いてください。

人が寄って来ても早歩き禁止ですよ?女の子が言葉を掛けてきたら、笑顔で頷く!これだけです、さぁ!行ってみよう!!!』


なんだかノリノリのバフォちゃん。

デスイ・ハウスの上で満面の笑みを浮かべている。

なんだか、ちょっとだけその笑顔がムカつくんだけど、ま、とりあえずやってみるか!


「え、本物の魔王様ですか?」


すこし後ろを歩く女の子が僕に羨望の表情で尋ねてくる。

僕は笑顔で頷いた。


「あ?え、お、おい!あれ、見てみろよ?本物じゃね?」

「は?どこどこ!あ、おいおい!魔王だぞ!生就職童貞・魔王だ!スゲー、オレ写真とっとこ!」

「うおースゲー、今年の魔王だ!握手してくれよ!」


え?ナニコレ?珍百景?

僕の周りには大勢の人々が群がってくる。

僕はドキドキしながら、大通りを出口に向かい歩いて行く。


『ベェ!ベェ!ベェ!凄い人気ですね、坊ちゃま!ま、ぶっちゃけ誰が魔王になっても、毎年こんな騒ぎですけどね!』


「・・・・・・」


ちょっとだけ、有名人気分を味わって高まっていた僕の気持ちを、地に叩きつけてくれるバフォちゃんの言葉。

良い感じに冷静になれてありがたいよ。


「ねぇ、バフォちゃん。どんどん人が増えて・・・って、カメラクルーまでやって来たんだけど?大丈夫?」


『さぁ?大丈夫なんじゃないですか、私もしっかり動画取ってますから、後で魔王公式チャンネルでアップしますので、たまにこっち側を見てくださいね。そうそう、こっち!」


横を向くと、セーターを肩にかけディレクター姿のバフォちゃんが映った。

屋根から屋根を気持ち悪い動きで飛び移っている。

そして、カメラを僕に向けてご満悦だ。


「え、本物の魔王様ですか?」


すこし後ろを歩く女の子が僕に羨望の表情で尋ねてくる。

僕は笑顔で頷いた。

その間にも、どんどん僕の周りに人が多くなる。


「ち、クソニート魔王が!なにニヤニヤしてんだ!ボケッ!」

「邪魔なんだよ!なに人だかり作ってんだ、豚魔王が!」

「死ね、メガネ!」


時に罵声が、そして歓声が、それにカメラのシャッターのフラッシュが容赦なく僕に浴びせられた。

笑顔を引きつらせながら、僕はそれでも歩いて行く。

ちょっと危険な感じもするけど・・・。


「ねぇ、ホントに大丈夫?バフォちゃん?襲われたりしないのこれ?」


『あ、大丈夫ですよ!プレイヤー同士が戦えるのは、コロシアウの闘技場か、50の塔内の宝物バトルの時だけですよ!町ではプレイヤー同士は殺しあえません!

それにこんな大勢の人の目がある時に、そんな奴らは動けませんよ!安心してくださね!坊ちゃま!』


バフォちゃんの言葉を聞き、僕は安堵した。

よかった、明らかに殺気立っている人たちもいるから・・・。


「え、本物の魔王様ですか?」


女の子の声に頷く僕の目の前に、町の出口が見えてきた。

ってか、どうやってこの人を撒けばいいんだろう?

僕は疑問に思い、バフォちゃんに尋ねる。


「ね、バフォちゃん!この後どうすればいいの?」


『ああ、はい!坊ちゃま!とりあえず全力で、町の入口付近までダッシュしてくださいね!待ってますから~♪』


は?待ってますから~♪じゃねーよ!

ざっと2000~3000のプレイヤーが僕の周りを囲んでいる。

え、マジで言ってんの?ねぇ、バフォちゃん・・・・。

僕の目に屋根を逆走していくバフォちゃんの姿が映った。

しかも走り方が気持ち悪い!あのクソ執事(ヤギだけど)後で、見てろよ!


「え、本物の魔王様ですか?」


「あ、キミもうちょっと、止めてくれない!それ!」


僕は仕込みの女の子に、仕事の中止を依頼した。

しかし・・・。


「おい、アイツ!マジで本物だぞ!とりあえず身包み剥いで、オークションかけるべ!」

「いいね~!魔王の服だから高く売れるぞ!」

「やっちまえ!」


男たちの言葉が僕の耳に入って来た。

僕は男たちの方を向いた。

え?そんなシステムもあるの?

いやそんな事されたら、僕の貧相なモノが公衆の面前にさらされることに・・・。



一か八か僕は入口に向けダッシュした。

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