8-6 メリルの魔法講座(前篇)
ナターシャ一行に懸賞首と盗賊の残党、盗賊の所持品や馬12頭を預けて、俺は転移魔法で3日目の野営予定地に飛んだ……案の定まだガラ商隊は到着していなかった。
盗賊の所持品はギルドや兵舎などの各部署に報告された後、持ち主が名乗り出なければ10日ほどで俺のものになる。馬12頭はすぐに競売に掛けられるようだが、盗賊が乗っているだけあって駄馬が多いそうだ。数頭、誰かから奪ったであろう良馬が混じっていて、それが高く売れるようだ。パウル副隊長の話では、この良馬は領主が騎士用に買い上げてくれるとのことだった……生き物なので、大事に扱われるところに買ってもらえてほっとしている。
生き残った3名の盗賊だが、2名はおそらく公開処刑にされ、1名は終身奴隷になると言っていた。
当人たちからすれば、あの時俺の魔法で一瞬で首を落として死んだ方が良かったと嘆いているが、これまでやって来たことを考えればそれは生温い。あいつらの処分は領主に任せるとしよう。
ガラ商隊が着くまでの余った時間で俺は夕飯を作ることにした。
フェイに夕食分も持たせていたのだが、今晩はちょっと豪華にしてやるつもりだ。
別に俺が悪い訳じゃないのだが、追尾組の商人や護衛の冒険者にも1日分のロスが出たのだから今日の夕飯だけは俺が振るまってやろうとバーベキューの準備をしている。
本日の夕飯の献立
・バーベキュー(水牛・ワニ・カエル・オークの肉)
・各種キノコや野菜
・コンソメスープ
・ミックスジュース・バナナオレ
(ガラさんからエールの差し入れ)
・アイスクリーム(バニラ・チョコ)
・プリン
パンや白米も用意してあるが、おそらく冒険者達はエールを飲みながら水牛の肉をバカ食いするのは目に見えている。
ほどなくしてガラ商隊が到着する。
到着したのだが、フェイは馬の世話でご機嫌だ。
馬の汗だが、フェイは【クリーン】が使えるので、それで綺麗にしてブラッシングだけで良いようだ。
餌をあげ、軽くマッサージを行うと馬は蕩けた顔をしてご満悦のようだ。
フェイに頬を擦りつけるようにして喜んでいる。
「兄様! この子可愛いでしょ!」
確かに可愛い……だがそれを愛でて喜んでるフェイはもっと可愛い!
フェイが竜の化身でなければと、つい思ってしまう。
このままだと、間違いなく馬を飼う事になりそうだ。
「フェイ、その馬どうしても飼いたいのか?」
「飼いたいです!」
「名前は決めたのか?」
「え? あ! 兄様、この子飼っても良いのですね!」
「ちゃんと大事に世話するんだぞ」
「はい! この子の名前はクロちゃんです!」
うわー、人のこと言えないが、見たまんまじゃないか……可哀想に。
フェイのネーミングセンスもダメだというのが判明した。
この馬は黒毛の馬なのだ。見たまんまでクロと名付けたのが解る。
てか、なにすでに名前付けてるんだよ! 飼うって決める前に名前付けて意地でも飼う気だったのかよ!
「クロ……オスなんだそいつ」
「この子は女の子ですよ?」
「え? メスなのにクロなのか? クロって名前オスっぽくないか?」
「そうですか? でもこの子も『クロちゃん』を気に入ってくれてますよ?」
「まぁ、気に入ってるなら別にいいけど……クロよろしくな。お前も今日から俺たちの仲間だ」
そう言ってクロの首筋を撫でてやったら俺にも頬を擦り付けてきた。
なかなか可愛いではないか!
どうやらクロはこのログハウスに併設して造ってある馬小屋を気に入ってくれたようだ。
この馬小屋はそれほど大きくないので『灼熱の戦姫』の馬は外の木に結わえてある。
ナビーに頼んで15頭ぐらい入るように後で拡張する事にした。
追尾組の野営用テントが完成次第今夜の宴が開始される。
「リョウマ君、すごく美味しいよ! 追従の俺たちまで食べさせてもらってありがとな!」
「俺、水牛なんて初めて食った……本当に美味しい」
「あはは、お前何泣いてんだよ、恥ずかしい奴だな。俺もこんな旨いもん初めてだけどな」
「ありがとう、ありがとう、ワニも旨いな、ほんとありがとう」
皆、喜んでくれてるようだ。水牛やワニ肉は一般販売されてないからね。オークションに掛けられるほどの高級食肉なのだ。アイアンクラスの冒険者や追尾組の商人程度じゃ買える品でもない。
案の定、今日もガラさんのエールの差し入れがあった。どれだけ持って来てるのか少し気になったが、俺は全く飲まないから、泥酔して俺たちに迷惑が掛からなければ問題ない。
この追尾組のメンバーもイリスさんが選定しているのだろう。迷惑行為や女性陣に絡む奴は一人もいなかった。皆、結構飲んでいたから調子に乗ってフェイにちょっかいとかだす奴もでそうだと思っていたのだが、護衛依頼中に泥酔する程飲むバカはいなかったみたいだ。
2時間ほど皆で騒いで楽しい夕餉も解散となった。
ログハウスで順次風呂に入り、最後にナシル親子に魔法指導を行う。
「じゃあメリル、前回の復習からだ。まず魔力循環をやってごらん」
「はい!」
いい感じだ、上手く全身に魔力を巡らせている。
「よし、いいぞ! ちゃんとできている。どうだ? 体がだるいとか重いの無くなっただろ?」
「うん、リョウマお兄ちゃん! びっくりするくらい体が楽なの! 朝起きてもスッキリなの」
「ちゃんと魔力消費もしないとだめだぞ。子供のうちが一番伸びがいいからな。毎日暇があったら練習する事。じゃあ次は【アクア】で美味しい水を出してみろ。出来るだけ今まで自分が飲んだ中で一番美味しかった水をイメージしてやるんだぞ、そうすることによってイメージ通りできれば美味しい水が出せるようになる」
「一番美味しいのはお兄ちゃんが出してくれる冷たい水……やってみる」
メリルの指先当たりの空間からちょろちょろと水が出始めた。それをコップに入れて飲んでみたのだが驚いた。
「メリル! 凄いじゃないか! 水に氷属性を併用して、冷えた水が出せているぞ! しかもこの水美味しい! 風呂上がりだから余計に美味しく感じる!」
「お兄ちゃんホント?」
「ああ、自分で飲んで確認してみろ」
「あ! 美味しい! ちゃんとお兄ちゃんみたいに冷たくて美味しい水が出せてる! ヤッター!」
メリルは小躍りして喜んでいる。子供らしくて見ていてほっこりしてしまう。
実はこの『冷たい水』は、初級魔法の【アクアボール】より数段難しい。生活魔法の【アクア】に冷属性を併用するのは中級魔法発動ぐらいの魔力操作ができないといけないのだ。中級魔法の【アクアラボール】が発動できる者でも初級魔法の【アイスボール】が発動できない者はかなり多い。
【アイスボール】は単に【アクアボール】を冷属性で凍らせただけのものだが、俺は液体窒素のように個体ではなく液体状にして投げつけ足元を凍らせたり、全身に掛けて動きを鈍らせたりもできる。特にこの攻撃は昆虫系や植物系の魔獣に有効で持ってると重宝がられる。素材も傷める事が減る為、かなり有用なのだ。
「す、凄いわね……1回コツを教えただけで冷属性まで習得するなんて」
この発言は一緒に教えてほしいと言って押しかけ弟子をしているソシアだ。
ソシアも冷属性はメリル以上に使えるのだが、どうやらメリルの並外れた才に嫉妬しているようだ。
「何、嫉妬してるんだよ。ソシアだって冷属性は上手いじゃないか」
「私は何年も王都の騎士学校の魔法科で学んでやっと習得できたんだよ。それをたったの2日でここまでやられたら凹んでも仕方ないでしょ」
同じく一緒に練習していたコリンさんとサーシャさんが激しく頷いてソシアの意見に同意している。
「神殿巫女に選ばれる娘だからな……その辺は僻んでも仕方ないだろ?」
「そうなんだけど……」
神の祝福や加護等の恩恵もあるし、生まれ持った才能もある。
それを妬んでも上手くなるわけでもないので、自分に合った習得法を模索した方が建設的だ。
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