6-8 稼ぎ過ぎだ……

 ここの神殿は寄付が少なく、食事事情も結構厳しいようだ。

 国からの助成金だけじゃ、生きていくだけでやっとみたいだ。



「肉を捌ける人はいますか? いるなら素材も売れるのでそのまま出しますが、捌けないなら捌いた肉をお渡しします」


「素材まで貰えるのなら、私が大抵捌けますのでそのまま頂きます」


 帰りの道すがら狩った、ちょっと小ぶりのワニを出した。


「ギャー! ワニの魔獣!」

「ワニだ! 食われちゃう!」


 しまった……泣き出す子まででてしまう大騒ぎになった。庭に出すのは失敗だったか。


「リョウマ君! これ、キラークロコダイルじゃないか! まさかこれを寄付してくれるとかじゃないですよね?」


「え? 寄付しますよ? でも1人で裁くのは無理かな……」

「これ売ると幾らになるか知ってるかい?」


「150~200万ジェニーって聞いていますが?」

「それは誰に聞いたんだい? 騙されているよ?」


「え? ギルドの受付嬢のイリスさんなので騙されてるって事はまずないですよ?」

「あぁ、そういうことか。150~200万っていうのは、依頼料の話だね。そこにお肉や革や魔石の金額が加算されるので、実際は1千万ぐらいになるんじゃないかな」


「えっ! ワニが1千万? サーベルタイガーより高くないですか?」


「サーベルタイガーなら同じくらいになると思うが、よく分からないな。だけど依頼料はあくまでその依頼に対しての成功報酬なので、普通はそれに毛皮と牙や魔石の値段が支払われるよ。依頼料と別にしてあるのはどんなものが狩られてくるか解らないし、現物を査定してからじゃないと金額が決められないって意味もあるんだけどね」


 じゃあ、最初にギルドで貰った270万はあくまで依頼料なのか? 後でガラさんとこから魔石抜きの値段って言ってた470万もらえるのかな?


「ふーん、依頼料も金額に含まれるんだと思ってましたよ。今、牛の依頼料が50万前後らしいけど実際いくらなんでしょうね?」


「ラッシュバッファローの事かな? あれのお肉は美味しいね。実家で居た頃はたまに食べていたが、ここの神殿の神父になってからはさっぱりだよ。100g1000ジェニー以上はするからね。暫く狩られてないって聞くし、今だとかなりの値段がするんじゃないか? 貴族も入荷を待っているだろうから、今ならオークションに掛けられると、100gあたり1500~2000ジェニーとかになるんじゃないかな? 普通サイズでも1t以上あるから獲れるお肉は300kgぐらいかな? 部位によって値段も違うしね。それでも300万ジェニーにはなるんじゃないか?」


「神父さんは貴族なんですか?」

「ああ、そうだよ。貴族と言っても三男坊なので家を出てしまったら、ただの一般人だけどね」


 牛がどうやら400万程になるようだ、想定以上の稼ぎになってしまう。『灼熱の戦姫』には悪いが、ある程度調整させてもらう。楽に稼がせてはいけないのだ、20代の若い彼女たちの為にならないからね。


「じゃあこれ、牛1・カエル3・オーク3・バイトフィッシュ200匹・テナガエビ500匹・現金100万を寄付します。すでに捌いて熟成済みの水牛とオーク肉15kgずつを今日の夕飯用に出しますので、庭でバーベキューでもやってください。道具は貸しますし、野菜やきのこ類もお付けしますね。それと食後のデザートにプリンをあげてください。甘いデザートです。このガラスの器は売るとミスリル硬貨3枚ほどになるので綺麗に洗ってガラ商会にでも売りに行けば大金になるはずです」


「ミスリル硬貨3枚!」


 神父さんは口をあんぐり開けて、庭に出された魔獣を眺めている。子供たちは大騒ぎだ。

 フェイじゃないが、お肉の歌を自作して歌いだした子もいる。


「お肉♪ お肉♪ おにく~♪ 美味しい牛さんやってきた~♪」


 やけに耳に付く音調で歌っている。夢に出そうなので止めてほしい……。

 それに牛は勝手にやって来ない、俺が持ってきたんだ!


 呆けてる神父は放っておき、17歳の女の子に魔道コンロの使い方を教え食材を渡した。人数が多いのでコンロは2台渡しておく。


 土魔法で椅子やテーブルも30人ほどが座れるようにしてあげる。庭で立食でもいいのだろうが、子供だから怪我をする可能性もある……おとなしく座らせる方がいいだろうとの俺の配慮だ。


 牛とワニは大きすぎて運べないとのことなので、ギルドに神殿から解体依頼を出すようにした。


「牛とワニは、ギルドに神殿名で出しておきますので、後で受け取りに行ってください。剥ぎ取った革や魔石などの素材も現金化されたら孤児院で好きに使って構いません。子供たちに服でも買ってあげてください。魔道コンロは後で回収に来ますので、洗わないでそのまま置いておいてください。変に洗われると傷がつきます。魔法で浄化しますのでそのままでいいです」


「分かりました。あの、リョウマ君でしたね? その……色々沢山寄付してくれてありがとう! 水牛やワニとかの高級食材食べるの初めてです! ほら、皆もリョウマお兄ちゃんにお礼を言いなさい!」


 17歳の少女は、皆をまとめてお礼を言わせた。躾も彼女がやってるらしい。立派な娘だ。神父の教えが良いのだろう。俺を見る目がちょっとハートになってるのはご愛嬌だ。 


「「「お兄ちゃん、お肉ありがとう!」」」

「ああ、どういたしまして。またなくなる前に持って来てやるから。お腹一杯食べるといい」


 うん……皆、可愛いね!


『……ロリコン』

『ナビー、ボソッと言っても念話だとはっきり聞こえるんだぞ! それに俺はロリコンじゃないからな!』


「俺は用があるので、もう行くね。お金は神父さんに預けるので服でも買ってあげて」





 ギルドに入るとすぐにフェイが駆けつけてきた。なんか目がキラキラしている。何があったんだ?


「フェイどうしたんだ?」

「カニさんが美味しいって、他の冒険者の人が言ってました! すんごく美味しいそうです! 逃げ足が速いので滅多に食べられない希少食材って言ってました!」


「それで、そんなに機嫌が良いのか」

「兄様が料理したら絶対美味しいはずです! 早く食べたいですね!」


 例のごとく食に対しブレない奴だ。

 竜種は皆食い意地がこんなのなのだろうか?

 ネレイスが言うには、神竜は信仰のエネルギーがあるので、本来食べる必要はないと言っていたはずだが……。


「皆さんお待たせしました。依頼は受けましたか?」

「ええ、イリスさんに協力してもらって受けられるものは全て受理してもらったわ。後は現物を出すだけよ。ちょっと待ってね、イリスさんが直接鑑定してくれるそうなので呼んで来るわ」


 マチルダさんが呼びに行くと、イリスさんはすぐに来た。


「リョウマ君、こんにちは。本当に8人で狩ってきたのね……びっくりだわ」

「ただいまですイリスさん。先に言っておきますけど、一度に全部は出しませんからね。価格暴落しない程度に調整させてもらいます。受けた依頼分は出しますから、その分だけでもかなりの収益がギルドに入ると思いますよ」


「今はお肉自体が枯渇状態なので、どんなに出しても価格が下がることはないわ。ケチケチしないで全部出して頂戴」

「今回も多いので解体倉庫に行った方がいいですね。ここじゃ、ワニすら出せないですし」


 とりあえず、イリスさんに受けた依頼を順番にゆっくり読み上げてもらい、それに対する魔獣を出していった。すでに結構な量だ……『灼熱の戦姫』のお姉さま方……稼ぎ時と思ったのか遠慮なしに受けられる依頼全部片っ端から受けたようだな。


 後ろを振り返って見たら、ソシアさんがにっこり笑っている……まーいいけどね。


 言われるままにどんどん出していたら、ギルドマスターもやって来た。


「ほー、たった8人でこれだけの量を1日で狩って来たのか。リョウマよ大したもんじゃ!」

「ザックさんこんにちは、これお土産です。職員にも分けてあげたください」


 牛肉100kgとワニ肉100kgを渡した。


「いいのか? 今は肉が足りてないので売ると結構な値で売れるぞ?」

「だからですよ。職員の口には入らないでしょ? 貴族や商人が独占しちゃいますからね」


「そういうことか、これだけあれば1人3kgずつぐらい配ってやれる。リョウマよありがとうな!」

「ザックさん、3kgで足りる? 別口で20kgほど差しあげます。巨人族は結構食べるのでしょ?」


「ヒャハハ気前もいいのう! 受付嬢にモテる筈じゃ! 遠慮なく貰うとするかの。忙しくて儂も狩りにいけないので随分久しく食っておらなんだからな。涎が出そうじゃ!」


「リョウマ君ありがとうね。受付嬢を代表して先にお礼を言っておくわね。私も久しぶりの牛のお肉だわ!」


「イリスさん、前回の牛が50万ぐらいかなって言ってたのって依頼料だけの金額ですか?」

「えっ? 勿論そうよ? 依頼者に話はすでに通してあるわ。依頼料は最低60万って言ったら皆それで再依頼を出してくれてるので最低60万からよ」


「俺、勘違いして、全部売ってその金額かと思っちゃいましたよ」

「そんな訳ないじゃない。危険な湿地帯の最高級の牛のお肉よ? 100g当たり、今なら1500ジェニーはするわよ。暫くぶりだから標準価格が決まってないのでオークションに掛けるつもりだけどそれでいい? 依頼主にはその価格で売ることになるので、あまり値が高すぎたら依頼のキャンセルがあるかもだけど、依頼料はキャンセル費としてそのまま貰えるから安心して」


「誕生祝に急いでた人が居ましたよね? その人はどうするんです?」

「いくら高くても買うそうなので、依頼料の70万は先に貰っているけど、リョウマ君次第ね。良いと言うなら先渡しで牛を引渡して標準価格が決定したら相手側から全額貰う事になるわ」


「イリスさん的にその方は信用できそうな人ですか?」

「ええ、大丈夫な人よ。お金払いもいい人だし、一度もトラブルを起こしたことがない人よ」


「じゃあ先渡しで構いませんのでそのように進めてください」


「今出した分を8人で割ったら1人当たり幾らぐらいになりますか? ざっとでいいので計算してみてください」


「そうね、本当にざっとよ。魔石なんかは出してみないと分からないんだし。お肉も幾らなのか判らないんだから……均等に割るなら700万ジェニーぐらいにはなるんじゃないかな?」


 ゲッ! 700万ですと! 稼ぎ過ぎじゃん! 俺の想定では200~500万に収める気でいたのだ。

 だって1日で700万とか20歳のぐらいの女の子には稼ぎ過ぎでしょ! 身に余る大金は身を崩すと言うしね。


 後ろでキャッキャと喜んでしまってるし、今更取り上げるのも可哀想だしな……稼がしてやるとも言ってしまってるし。今回は仕方ないかな……。


「なんか不満そうね? もっと高く売れると思ってた?」

「イリスさん逆ですよ。200~500万ほどに抑えるつもりだったので、稼ぎ過ぎたなーと思って」


「稼ぎになったんだから喜ぶのが普通じゃないの?」

「後ろで喜んでる、20歳前後の女の子が1日で700万はちょっと多くないですか?」


「あぁそういうことね。確かに多いわね……200万でも多いわよ」


「リョウマ、今更やっぱなしとかないわよね?」

「ん! リョウマ稼がしてやるって言った!」

「サリエもソシアもあまり役に立ってなかったんだから、文句言ったらダメよ!」

「700万あったら、クランの借金がほぼ返せる……」


「パエルまで! お金に目が眩んじゃダメよ! ほんと恥ずかしいわね!」


「今更なしとか言いませんよ。でも身に余る大金は身を崩すと言いますから、残りの【亜空間倉庫】の魔獣は俺たちで全部頂きますね。事後報告になりますが、ハーレンの神殿の孤児院にワニ1・牛1・カエル3・オーク3・バイトフィッシュ200匹・テナガエビ500匹を寄付してきました。水神殿にも送るつもりですので、正直肉はいくらあっても足らないのですよ」


「ええ、文句なんてないわ! ありがとうリョウマ!」

「リョウマ君ありがとう! これでクランの借金が無くなる! 好きな物が買えるのよ! 長かった~」

「リョウマ君ありがとうね。クランとしてかなり潤ったから、今なら拠点が買えるかもしれないわ」

「そうですね、そろそろ宿屋住まいじゃなくて拠点が欲しいですね」

「ん! 皆で出し合って家買う!」

「私も出すわね。拠点はずっと皆の目標だったのですもの」



「神殿からの剥ぎ取り依頼で、このワニと牛を解体してください。後で神殿の者が受け取りに来ますので、肉は全部渡して、他の素材は売って現金化してあげてください」


「お金も渡していいのね?」

「ええ、孤児院に寄付しましたので渡してあげてください」



 清算額が確定したら後日連絡してくれるみたいだ。オークションに掛けるから少し時間が欲しいそうだ。


 前回フェイが狩った魔獣の剥ぎ取り依頼をしていた分の見積もりができているとのことで、提示されたその金額で了承してお金を受け取った。今日の稼ぎを考えたら些細な金額だが、それでも120万もあった。


 あの鳥とか売ってたらもっとあったことを考えたら、数時間の狩りで1500万ほどフェイは稼いだことになる。

 運と力のある冒険者の稼ぎは半端ないなとあらためて実感した。



 俺たちはギルド前で別れて、今は『灼熱の戦姫』とは別行動中だ。

 この後、俺にはまだ用があるのだ。



 さて、例の親子のとこに行きますかね……。

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