3-6 誘拐窃盗団、一網打尽(中編)

 距離が近いのもあり、東門にはすぐに到着した。昨日対応してくれた隊長風の人が笑いながら出てきた。


「兄ちゃん無事だったか、一泊するかもしれないと言ってたけどちょっと心配してたんだ。ん?……妹さんの姿が見えないようだがどうした?」


 隊長風の人はフェイが居ないのに気付き、訝しげな顔をしているが、先にこっちの用を済ませよう。

 そうだよ、隊長の後ろで怪訝な目でこっちを見ているお前ら2名だ!

 無詠唱で【サンダラボール】レベル1を門番2名に撃ち込んだ。

 一人は気絶したが、もう一人はまだ意識がある……流石に盗賊よりは耐性も高いようだ。



「おい! 貴様、何してるんだ!」


 隊長さんは当然槍を構えて俺に向かってくるが、俺は剣も抜かずに手で制した。


「まずは話を聞いてください! そいつらは盗賊団の仲間です! 証拠もあります!」

「証拠があるだと! 俺の部下にこんな事して間違いでしたじゃ済まないぞ?」


「勿論です! 門番に手出しして間違いでしたごめんなさいで済むとは思っていません。この先1㎞の所で盗賊9名に襲われまして。そのうちの3名が昨日俺たちのすぐ後にこの門を通った冒険者でした。覚えていますか?」


「ああ、昨日はお前たちとそいつらと、もう2組の冒険者しかこの門を通っていない」


「その盗賊たちをさっきのように魔法で気絶させた後に拘束して尋問したのですが、その時にここの門番3名とギルドの受付嬢の名前が上がりまして、ホントかどうか聞き出すためにちょときつめの拷問を更にやったのです。そうしたらこんなものを出してきました」


 ナビーが編集した門番と盗賊団、そして冒険者たちの金銭のやり取りが映った動画だ。目の前にいる2人が盗賊たちとニヤケ顔で金銭の受け渡しをしているシーンが映っている。


「なんと情けない……こいつらとは仲間だと思っていたのに。よく仕事帰りに酒も一緒に飲んだし、家族ぐるみの付き合いのある奴もいる……」


「そうですか……でもこれが事実です。それと、ここの門番と西門の門番にもまだ裏切り者がいるようなので捕縛の手配を頼めますか? 街の中にも襲った女の子を裏で性奴隷にして売り捌いてる組織があります。それの壊滅作戦もすぐやらなければなりません。時間が経つほど逃げられてしまいます。あなたがここの隊長さんですか?」


「ああ、情けないが西門の門兵の隊長を任されているセラムだ。すぐに町の衛兵に来てもらう。少し待っていてくれ」


「それと1km先で妹のフェイが9名見張っていますので、連行できる人数を寄こしてもらってください」

「分かった。その件も一緒に報告する。かなり大がかりな捕り物になりそうだな」


 そこからは予想よりかなり早かった。日本の警察のような手続きやら物証やらすっとばしなのだ。そのかわり何かあれば訴えを起こした人物に全責任がのしかかる。今回の場合、俺と西門の隊長さんだ。


 町の本隊兵宿舎よりやって来た隊長はとても優秀だった。俺の話と動画を見た後、すぐに行動に移ったのだ。


 まずフェイを迎えに6名の隊員を向かわせた。捕らえた奴らから事実を確認した隊長は西門の非番で休みだった奴を捕らえる為、セラム隊長と3名をそいつの実家に向かわせた。次に同時進行で裏取引をやっていた奴隷商を町にいる部隊総出で捕縛したのだ。この隊長さんは2時間ほどで全てをやってのけた。


「少年よ感謝する! 挨拶が遅くなったな。私はこの町の警護隊長を任されているガイアス・ドーレストと言う」


「冒険者のリョウマと言います。そっちは妹のフェイです。迅速な対応ありがとうございました。おかげで一網打尽できそうです」


「2年ほど前から若い娘が時々行方不明になっていてな……気には掛けていたがどうにも分からなかったのだ。魔獣に襲われたにしては死亡確認が取れないし、生きているのにメールやコールをしても全く返事が返って来ない。何かトラブルに巻き込まれたのだろうと家族や冒険者仲間も心配していたのだが、まさか売られて娼館やら下種な貴族の慰み者になってたとはな……なんとも口惜しい」


「はい、俺の妹もそれで狙われたようです」

「美しいな……まるで物語に出てくる天使や妖精のようだ」


「山奥育ちなので、俺もですが常識がないのが残念ですけどね」


「これからギルドの受付嬢を捕縛して、午後から部隊を連れて町の外に居るという残党狩りを行う予定だが、君も参加するかね?」


「ギルドには報告しないといけないこともありますので一緒に行きますが、ちょっと怒られるかもしれないのです。なので討伐の方は多分行けないです」


「リョウマ君は怒られるようなことをしたのかね?」

「俺、個人としては悪い事とは思ってないのですけどね。昨日オークキングの集落を発見したのですが、近付き過ぎて匂いで奴らに見つかってしまい、襲ってきたのでギルドに報告する前に全部フェイと狩っちゃったんです」


 ガイアス隊長は何言ってるんだみたいな顔をしている。オークキングは災害級のランクにされているほどの厄介な相手なのだ。1体1体は最下級の魔獣なのだが、キングの集落ともなると、できたてで小さくとも300頭ほどの数が集まっている。実際今回も全部足せば600頭ほどの規模があった。


 大規模コロニーを放っておくと、いずれは食糧不足に落ちいり、集団で村や町を襲ってくるのだ。まさに数の脅威で攻めてくる。


「えーと、これを見てください」


 タブレットに表示させたのは、ギルドカードをあてがい討伐記録を表示させたものだ。そこにはオークキングやオーククイーン、オークジェネラルの名がしっかりと表示されている。


「クイーンまでいるじゃないか! 災害級だぞ! どこに巣食ってたんだ!」


 場所を説明しつい先日3カ所潰したんだけど、なんか気になって再調査に向かって見つけたんだと、もっともらしい言い訳をした。


「誘拐窃盗団を壊滅させただけでもお手柄なのに、リョウマ君は何者なんだい?」

「エッ? 何者でもないですよ? 偶然トラブルが重なっただけです! ホント迷惑な話ですよね」


「偶然ね……まあいいだろう。悪い事をしたわけじゃないのだから堂々と胸を張っていればいい」

「でも、あのエルフのギルドマスター……怒んないですかね?」


「ああ、ハル殿か……真面目な堅物だから怒りそうだな」

「でしょ! あの人なんか苦手なんですよ……宜しければ怒られないようにガイアス隊長の方で口添えしてくれませんか?」 


「私も彼の事は苦手なのだが……分かった善処しよう。それと今回ギルドが関与していたのは受付嬢だけなのか?」


「はい、証拠が有るのはそうです。後は分かりません。誘拐窃盗団の頭目でも捕らえたらもっと詳しく分かるのではないでしょうか?」


「そうだな、ここからは私たち衛兵の仕事だな。全部終えたら君にはこっそり顛末を教えてやる」


「いいのですか? そういうのは内部だけで隠蔽するのじゃないのですか?」

「普通はそうだな。だが君には全部教えてやる。攫われた娘のこととかギルド内部に他にもいるかと思ったら気になるだろ?」


「そうですね。ではこっそり教えてください。他には絶対洩らしません。それと受付嬢の捕縛時は俺はいない方がいいと思います。仲間を売ったとか変な誤解で冒険者に目を付けられるのも嫌なので」


「それは大丈夫だと思うが……分かった。私は今からギルドに行ってくる。時間を於いてから君は来るといい」




 ギルド内部は騒然としていた。


 受付嬢を庇う職員とガイアス隊長が揉めているのだ。見兼ねた俺はガイアス隊長にフレンド申請をこっそり送りメールを送信した。中身は受付嬢の金銭のやり取り現場だ。見せつけられた職員も受付嬢も観念したようでやっと静かになった。


「お前もここまでこの受付嬢を庇ったのだ、関与の可能性があるので参考人として連行するが文句はあるまいな」


 散々揉めてた男性職員にそう告げたのだが、男性職員は無実を訴え拒否している。

 最終的には、それがあまりにも怪しかったので強制連行になった……彼が例のあくどい方の職員だ。


 俺は騒然としている中、受付に向かい番号札を取って待機していたのだが、順番の来る前に2階のギルドマスターに呼び出されてしまった。


 ちっ、逃げられなかったか。さっさと討伐報告をして素材を売却したら逃げようと思っていたのに。

 2階に上がってすぐ、挨拶もなしにギルドマスターは睨んできた。


「リョウマ君、いったいどういうことなんだい? なんで君がこの事件に関与しているんだ?」

「受付嬢の件でしたら俺たちは被害者ですよ。フェイを狙って誘拐しようとしていたのを返り討ちにしたのです。ガイアス隊長が優秀な人だったので、その後一味を壊滅できそうです」


「オークキングの件はどうなんだい? 言うことことはないのかい?」

「俺の方から特にはないですが? 何かありますか?」


「報告義務があるのは知ってるようだが、なぜ報告しなかった?」

「偵察中にオークに見つかってしまったので報告する暇ないでしょう? それに義務と言っても、報告しないで放置するのがダメなのであって、倒しちゃいけないとはどこにも書いてなかったですよ?」


 わざとらしく昨日例の受付嬢からもらったギルド発行の小冊子を出して見せつけた。


「私には冒険者を守る責任があるのだよ。ランクの低い新人冒険者が勝手なことをして黙っていては周りにも影響が出る」


 俺はできるだけ穏便に進めようと思っていたのだが、責任とか新人冒険者云々でちょっとカチンときてしまった。


「責任ですか? 今回の責任はギルドマスターとしてどう責任を取るつもりですか? あなたの下で働いてる職員のせいで何名かの新人冒険者の女の子が強姦され性奴隷にされ犠牲になってますよね。しかもあなたが管理する冒険者の手引きによって。それとキングの集落の件もそうですね。ギルドや町で定期的に冒険者を雇って調査をしているはずですよね? なのにどうしてクイーンが2匹も誕生するまで放置されていたのですか? ちゃんとギルドマスターとしての周辺管理の仕事をしていたのですか? あなたの管理ミスを全部俺が尻拭いしたようなものでしょう? 感謝されこそ、偉そうに説教される謂れはないと思いますが?」


 ぐうの音も出ないようだ。暫く睨み合いが続いたが結局ギルドマスターの方が折れた。

 当然だ……俺は何も悪い事はしていないのだからガイアス隊長の言うように堂々としていればいい。


「もういいです。で、リョウマ君、キングとクイーンの素材は売ってくれるのでしょうね?」

「そこにあった防具や宝石は全部売りますが、肉と魔石は売りません」


「それが困るからキング討伐はギルドが管理するようになっているのだよ。この際ぶっちゃけるけど滅多に手に入らないから貴族連中が五月蠅いんだよ」


「そう言われましても素材は狩った冒険者の物ですし、絶対売らないといけない義務もないでしょう? 狩ったものを自由にできないのなら冒険者なんか辞めちゃいます」


「我儘ばかり言うのはやめたまえ!」

「さっきから我儘言うのはあなたじゃないですか! 全部倒した俺の物ですよ? 売ってください、お願いしますでしょ? ムカついたからもう何を言われても絶対売らないですけどね!」


 このままじゃ不味いなと思った俺は最終兵器を出すことにした。


「あ、コールが鳴っています。ちょっと失礼」

「大事な話をしているのに、後にしたまえ!」


「フィリア? ちょっと今立て込んでるんだけど?」


 そう、フィリアとナナにオークキングを倒したので美味しい肉を送るとメールをしたのだ。速攻でコールしてきたのは予想通りだ。わざと皆に聞こえるようにハンズフリー通話にしている。ギルドマスターに聞かせるためだ。


「リョウマよ、オークキングとクイーンを倒したそうじゃな? また無理をしておらぬか?」

「あ~その点は大丈夫だよ。掠り傷すら負ってないので心配要らないよ」


「相変わらずむちゃくちゃじゃな。丁度妾の授業が終わったところでな、みんな揃っておるのじゃ」

「リョウマ! ナナだよ! キングとクイーンのお肉送ってくれるの? ナナすごく楽しみ!」


「それなんだけどね? 今、ちょうどギルドマスターに討伐した分、全部寄こせって脅されてるとこなんだ」

「な! 私は脅してなんかいませんよ! 誤解です! なんてこと言うんですかリョウマ君!」


「だってさっきまで我儘言うなって脅してたじゃないか!」

「そこにギルドマスターもおるのか? 久しいな、フィリアじゃ」


「ご無沙汰しておりますフィリア様! ギルドマスターのハルでございます」

「ふむ、なにやらリョウマが我儘を言って困らせておるようじゃが、そやつは妾が一番信用しておる者故、全面的に協力してやってほしい。何かあった場合は妾が全て責任を負うのでのぅ」


「なんか保護者ぶって嫌な感じなんですが……心配してくれてるようで悪い気はしませんのでいいでしょう。中身はバーさんなので保護者気取りも仕方ないですね」


「酷い言われようじゃの、それで肉の方はいいのか? 売ると高く売れるのであろう? メールなんか寄こすから皆が期待してしまっておるぞ?」


「少し宜しいですか? リョウマ様、アンナです。報告したいことがございまして。話の途中に割り込んで済みません」


「アンナさん、それと皆さんも挨拶もしないで出て来ちゃってすみませんでした」

「本当にそのことは皆、傷心しましたのよ。それより大事な報告があるのです。わたくし今朝【エアーコンディショナー】の魔法を習得出来ましたの! ナナに毎日教えてもらっていたのですが、今日やっと! ありがとうございます。リョウマ様のおかげで、凄い便利なオリジナル魔法が覚えられました!」


「そうですか、それは良かったですね。あれは凄く役立つので、皆も頑張ってください」


 それから巫女たちと少し話をして通話を終えた。


「と言う訳でして、肉は売りたくないのです……」

「リョウマ君……これ計画的ですね。分かっててやってますよね?」


「何の事でしょう? でも一言だけ言いますね。どこの誰か知らない貴族に食べさすより、お世話になった神殿の巫女様たちに食べさせてあげたいのが本音です」


 きっぱりと言い切った俺を見て、ギルドマスターのハルさんは顔を緩めてくれた。


「その気持ちは分かります。それに今回はフィリア様が絡んでいますので、私の裁量でも対応できますので肉の方はリョウマ君の方で好きにして結構です。でも魔石は売ってくださいね、お願いしますよ」


「了解しました。それにしてもフィリアって貴族を黙らせるほどの権力が有るのですか?」


「何を言ってるんだい! フィリア様は国王陛下より発言力が有るんだよ? 長寿のエルフの王ですら、フィリア様を下に見ることはないよ」


「そこまでとは思っていませんでした。可愛いからついついからかってしまいますが、気を付けた方がいいですね」


「フィリアとか呼び捨てにしてるところなんか他の偉い人が聞いたら怒られちゃいますよ?」

「フィリア様って言ったら逆にフィリアに最近は怒られるんですよ。だからそれは仕方ないです」


「その辺の事情は分からないので君の判断に任せるよ。では今日はこれで結構です。下の買い取り口で、すぐ買い取りしてもらえるように伝えておきますので、必ず寄るように。それとそれ以外の報告義務があるのは知ってますか?」


「盗賊やゴブリンに襲われた者の遺品などの処理手続きですよね? 家族が買い取りに来るかもしれないので暫く日数がかかる物もあると聞いています」


「そうです。10日はかかりますが、家人にとっては大事な遺品になる物です。面倒だとか独り占めする為に隠し持ったりとかする人も結構いますが、リョウマ君はそんな事はしないようにね」


「当然じゃないですか、そんな事してフィリアや神殿の隊長たちの顔を潰すような真似はしませんよ」


「そうですね、失言でした。では査定が終わればメールで連絡を入れますが、定期的にギルドには顔を出すようにしてください。フィリア様に頼まれましたので責任があります。それと無口な妹さんに一言お願いがあります。お兄さんが無茶しそうになったらすぐにギルドにメールをしてください、いいですね」


 フェイはただコクンと頷いただけで特に返答もしない。

 別に嫌っている訳ではないようだが、フェイなりにさっきのやり取りで思うところがあったのだろう。


 ギルドマスターの部屋を出た俺たちは、一階の買い取り窓口に向かったのだった。

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